281.最終日1
遠くで狼の遠吠えが聞こえた。
それに続き連続して吠えあう狼たち。
焚き火を囲んだままだが目を閉じていたダケのアジルが目を覚ます。
「沢山居ますね。」
「ああ、谷の奥、更にその向うの山からだ。遠い、ココまで来るのに2日は掛る。」
お茶を飲み干す。
そろそろ交代の時間だ。
女子のテントが騒がしい。
テント内で灯りが点いている。
何か。有ったのか?
テントからペルーラが出てきたが未だ皮鎧を肩に引っ掛けたままだ。
剣を手に持っている。
「オットー様。交代です、ちょっとマルカが暴れて…。来て欲しいのですが。」
「なんだ?」
ロリに何か有ったのか?
「さあ?今はクーリョが付いています。オットー様が良いと思います。付いて来て下さい。」
女子のテントに向かう。
覗くのは躊躇われるが中はランプで照らされている。
マルカが泣いている。
いや、クーリョに縋り付き毛布で丸まったままだ。
「マルカ?どうした?」
「タニア、ごめんなさい、えぐっ、えぐっごめんなざい。」
クーリョの腹に顔を埋めるマルカ。聞いていない様子だ。
「どうかしたのか?」
クーリョに訪ねる。ゆっくり首を振る白髪赤眼。
無言の赤眼の代りに答える赤毛。
「いきなり泣き始めました。怖い夢でも見たのかもしれません。」
「そうか…。」
こまったな、こんな所で。ベスタを呼ぶべきか?
ロリが泣き止む高等テクは持っていない。
「オットー様。今日はココで寝て。マルカをおねがい。」
「なにっ!」
無茶なコトを言う朴念仁。
「そうですね。ソレが良いと思います。我々は朝まで夜営です。」
納得する赤毛のお下げ。
まあ、女子が良いなら問題ないが…。
「判った。任せろ。」
胸を張り言う。
「汚さないで?」
不思議そうに俺の顔を見る21番の赤い目。
「汚すか!!」
「え?なにを?あっ。」
39番の赤毛の顔が赤くなる。
「じゃあ、おねがい。」
「オ、オネガイシマス。」
自然な朴念仁とギクシャク赤毛。
夜営の任務に向かう背中に声を掛ける。
「ああ、オヤスミ。」
そそくさと自分の私物と毛布を持ってテントを出る処女達。
「マルカ、どうした?何か有ったのか?」
マルカを毛布ごと抱き寄せる。
遠くで狼の遠吠えが聞こえる。
「ヒッ、オットーさま。おおかみ…。」
「大丈夫だ、狼は居ない。遠くだ。かなり遠い。ココには来ない。」
収納から俺の毛布を出す。
「はい…。」
泣き止むマルカ。
おい、簡単に泣き止んだぞ?こんなに大騒ぎすることなのか?
「俺は眠い。もう寝る。ココに居ろ。」
「はい。」
「そうか。おやすみ、マルカ。」
「おやすみなさいませ。オットー様。」




