278.四日目6
休憩無しで森を進む。
相変わらずツノウサギが多い。
倒していないのはマルカだけに成ってしまった。
「マルカ?ウサギを倒すか?」
「いえ、嫌です。」
「うさぎさん…。おいしい。」
「しかし、得点が…。」
「生徒オットー分担が決っているのだ、必ず倒す必要は無い、このままなら生徒マルカは炊事班と設営班で合格点に達する。」
教授が考査表を捲りながら答える。
「そうなのですか?」
「まあ、点数稼ぎに危ないコトを行なう生徒が居るのでこうなった。別段失点が無ければ問題は無い。協調性の審査と屋外演習の練習だ。」
がーん、だな。
熊も鹿もサイクロプスも加算必要ないらしい。
「あの、それなら…。なんで鹿さんを…。」
29番が思いつめた眼差しで俺を睨む。
「うん?旨かっただろ?この長い道程の活力に成ったのだ。鹿さんは。」
「鹿さ~ん、うさぎさ~ん!!」
「よし。よく志願した29番、単独であのウサギを仕留めろ。明日のシチューの為だ。」
「はい。わかりました。うさぎさんごめんなさい…。」
うむ。鬼幽の様な足取りで前に進む29番。
緑のお下げが揺れる。
「うさぎさん…。覚悟してください。」
ウサギがジリジリと近づく、お下げを敵に認定したらしい。
耳と尻尾が揺れお下げをロックオンする。
「ごめんなさい。左手は添えるだけ…。」
自分に言い聞かせている様子の29番、緊張は解いていないので問題ない。
右手に握ったナイフを左手で軽く触れている。
ふらつく足取りで腰の近く。臍の下で両手に固定された抜き身のナイフは未だ揺れる事は無い。
「うさぎさん…。フフフ」
ウサギが腰を降るのを辞め低い姿勢から飛び出す。
「えいっ」
臍で捕らえたナイフは真直ぐウサギの中心を目指す。
突き出された腕の先が柔らかい肉と皮を裂き、生命の維持に重要な器官を絶つ。
「やった、やっちゃった。うさぎさん。」
地に落ちるツノウサギ。
未だ痙攣して、その血を大地に染みこませている。
時期に死ぬであろう。
カウンターで一撃だ、なかなか出来ない。タイミングが難しい。
拍手で賞賛する。
「おお、良くやった。29番さあ、腸を抜こう。手順が悪いと肉がダメになる。皮は売れるから傷つけない様に」
「は、はい。」
返り血をで頬を濡らし微笑む29番。
「うむ、命を頂いたのだ。ウサギさんに感謝しよう。」
「うさぎさん…。ごめんなさい。必ず食べます。」
「そうだ、ソレが死んだ者への手向けだ。その心を忘れてはならない。」
「はい…。」
「さて、ラカス、処理の仕方を教えてやってくれ。」
「あの、オットー様?」
「うん?なんだ?」
「宜しいのですか?」
「何がだ?」
「いえ…。良いです。」
そそくさと29番に解体の仕方を教えるラカス。
なかなか29番はスジが良い。
教授にカウントしてもらい小休止を早めに取り。
パンと干し肉を炙りキャベツと共にパンに挿んでお茶で遅い昼食にした。
ああ、後、食後に梨を出した。




