277.四日目5
死んだ新鮮な熊の下から何とか這い出す事に成功した。
呼吸を整え熊を見下ろし観察していると、森の中から冒険者を先頭に立てた馬車がやってきた。
手を振る。コチラに気が付いた様子だ、目が合い安堵する冒険者達が手に取るように解かる。
「おう、悪いな、今片付いた。」
手を上げる俺は泥だらけだ。
「オットー様!!」
叫ぶマルカ。
頬が痒いので触れたら血が手に付いた。
知らない間に負傷していたらしい。
「シェールさん手当てを!」
「は、はい!!」
金髪ショートが走ってくる。
ラカスもモーガンもだ。
クリーンの魔法を掛ける。
10番の手当てを大人しく受ける。
「おい、ラカス。合図が有るまで待てと言ったな。」
「はい。申し訳ありません。皆の相談の結果です。」
「オットー様、ベスタさんがどうしても行くと…。」
オシリスキーが言う。
「あの…、オットー様。」
申し訳なさそうなベスタ。
顔が赤い。
「生徒オットー。独断専行は減点の対象だ。今回は行なわないが良く覚えておけ。」
「はい、教授。胆に命じます。」
「魔物は倒したのか?」
「はい、コイツです。熊ですね、大物です。」
足元の熊を示す。
「よし、では生徒オットー。戦果、熊。1」
「くまさん…。」
冒険者達も集まって来た。
「オットー様。すごいですね。魔法ですか?」
「いや、棍棒で叩いて締め殺した。身体強化魔法は使ったが、俺は接近戦を想定した修練を行なっている。」
「えー。」
何かイヤ毛なダーク少年。
「流石ですオットー様。宮廷魔法使いクラスなら素手で熊も倒すんですね?」
「いや、絶対無理だぞ。」
冷静な教授のツッコミが入る。
「やべぇ、熊より強いって。」
「妹よ…。コレだけ大きいとクラスBでも数人必要だ…。」
「いや、単独ならクラスAでも難しい。クラスAが居る冒険者チームが熊で全滅した話を酒場で聞いたことがある。」
なるほど、リーダーは情報収集を怠らないタイプらしい。
クラスAがどれ程の実力を持っているかは知らないが、恐らくその特攻野朗Aチームは自爆したのであろう。
「ああ、安心してくれ。俺は故郷の森で熊を良く狩っていた。これほどデカイのは初めてだが熊ぐらいでは遅れをとらん。」
「流石ですオットー様。魔法でですか?」
「いや?普通に山刃を使っていた。まあ、肉と毛皮が目的だったからな。」
「いや、おかしいだろ?生徒オットー。」
「む?家の猟師団とは熊と狼の数で競っていました。狩り尽くしましたが、流石に山が近いと大きいのが居ますね。」
「…。」
教授が呆れている。
いや、皆が額を押さえている。
「やべぇ、ハイデッカー…。」
「妹よ…。」
「いや、ドラゴンを落すのだ、熊ぐらい…。」
「あの、申し訳ありません。チーム山猫団を代表して謝罪します。」
どの部分かは不明だが謝罪は受け入れる。
「ああ、問題は無い。」
熊を収納する。
”レッドベア(大) ”
よし、これなら高く売れるだろう。
周囲を見渡す。丘の周りには倒れた馬車や、散乱した鎧(中身入り)と馬の半身が散らばっている。
水源の池の中にも在る。
コレでは飲用は不可能だ。
腐敗臭がすごい。
「教授、困りました。昼の休憩をココで行なう心算でしたが、あまり環境が宜しく有りません。」
「そうだな…。どうする?」
「正直、ココで休憩を行なうには埋葬や清掃を行なう必要が有ります。時間が惜しいのでココは通り過ぎ、次の休憩に大休憩にしたいと思います。」
皆頷く。
「よし、そうしよう。」




