269.三日目1
さて、教授との尽きない話も進み、水差しのワインが無くなると。
交代の人員が来た。
「あ、オットー様交代にきました。」
眠たそうな赤毛のポニテ39番のペルーラ。
「オットー様、お任せ下さい。」
元気なオシリスキー。
「やべぇ、酒臭い。ムロ黙って酒呑むとリーダーに言いつけるぞ。」
非難する声。女性の高音は夜風によく通る。
「モーサ。これは気付けだ。大した量ではない。」
冒険者が言い訳をするが納まりそうに無い。
騒ぎが大きく成りそうなので嗜める。
「冒険者殿、お茶と焼き菓子が在りますので眠気覚ましにどうぞ。」
収納から寮でパクッた焼き菓子とお茶葉を出す。
「やべぇ、すっげぇ待遇がいい。お菓子まである。」
うむ、機嫌の良さそうな声、注意がそれたので成功だ。
朝までの交代要員3人だ。
仲良くしてもらわないと困る。
「生徒諸君。充分注意すること。」
教授が纏めるので俺が交代式を行なう。
「おう、異常なし。後は頼む。俺は休む。」
「「はい、」任せてください。」
うむ、心強い返事だ。
少々心配だが、俺が結界を張ったので破れると一番に俺が気が付く。
眠っていても飛び起きるだろう…。しかし。
ペルーラの額の鉢がねに魔力を補充しながら話す。
「ペルーラ。何か在ったら直に叫べ。」
「はい、解かりました。」
「ケダモノに襲われた時もだ。」
「はい。ケダモノぐらい何とでも出来ます。」
「モーガン。紳士でいろ。責任が取れない様なコトはするな。」
「はっ、オットー様。紳士として対応します。」
元気なオシリスキーの言葉で意味が解かりペルーラの顔が赤くなる。
ククク、この世界には未だアカハラの概念は無い。
この人類には早すぎる…。
なので遠慮なくセクハラする。
意識した、ペルーラとモーサがオシリスキーから距離を取っている。
うん、目が覚めただろう。
緊張感溢れる夜営の焚き火から離れる。
男子テントにはダーク少年が夢の中だ。
毛布を巻きつけ横に眠る。
教授も一緒だ。
四人用なのに狭いな…。
潰されるダーク少年が何かうなされる、
”やめて姉さん…。そんな、固いのアーッ”
悪夢を見ているらしいが、そんなモノにはお構いなく睡魔に身を任せる。
未だ日が出ていない。
寒さに目を覚ます。
放射冷却では無いが。
昨晩は夜半から風が出ていた。
非常に朝冷えが強い。
外に出ると東の空が白くなり始めている。
周囲は異常が無い。女子のテントを見ると29番の緑の髪を梳いてソバージュになったキーファが大あくびでテントから出てきた。
目が合い目礼するが、赤い顔で直にテントに引っ込む。
寝起きを見られたのが恥かしいのか、大あくびが恥かしいのか?
寒いので焚き火に向かう。
何故かギクシャクしている下級生達。
近くの切り株に腰を落す。
徹夜組に声を掛ける。
「おう、おはよう諸君、お茶を貰えるか?」
「はい、オットー様、今すぐ用意します。」
元気なオシリスキー。
寝てない様子だ。
しかし、手際よくお茶を入れる。
「どうぞ。御熱いのでご注意下さい。」
取り出したマグに注がれる湯気を吐く液体。
香りを試す、悪く無い。
「うむ、良い入れ方だ。」
「はい、最高のタイミングです。」
元は寮からパクって来た物だ。
香りも良い。
渋みも悪く無い、酸味も控え目だ。
「うん、旨い。流石だ。」
「はい、ありがとうございます。」
「モーガン、疲れは出ていないか?」
「はい、オットー様ご安心下さい。頂いたお守りのお陰で疲れは出ていません。」
なるほど…。回復のアイテムを使ったか…。
「え?モーガン君使ったの?」
「ああ、何か嫌な汗が出るからさっき身体を拭いた。」
さっぱりオシリスキー。なるほど爽やかな顔をしていたのは回復だけでは無いらしい。
「え?あたしも使おう。」
首から下げた金属片を握るペルーラ。
魔力が循環して光った様に見える。
成功した様子だ。
「39番ペルーラ、魔力が無くなった様だな。こっちへ来い。」
「はい…。あ。あれ?」
肌に球の様な汗が吹き出ている。
「え?ちょっと、なんで?」
両手のひらを見る赤毛のポニテ。
「俺も、そうなった。嫌な汗だが拭くとさっぱりだ。」
「え?イヤ。なんか汗臭い。」
「おい、39番魔力の補充をするぞ!」
「え?遠慮しておきます!!」
後ろに後退する。
「おい、ペルーラ。」
女性テントの影に走って隠れるペルーラ。
「オットー様、この回復アイテムを使うとまるで蒸し風呂に入った後の様な心地です。疲れも消えます。すばらしいですね。」
得意そうなオシリスキー。
そうか…。老廃物や疲労物質が汗や尿と共に排出されるのか…。
まあ、内臓循環器系の回復魔法だ。
そうなるだろう。
しばらく後に戻って来たペルーラは肌がツヤツヤしていた。




