254.手綱6
さて、食堂に向かうと俺の二人前の札が裏返る所だった。
うむ、良い時間だ。
そのまま最後の俺の札を反して席に付く。
何時もの緊張感は無い。
お誕生日席に座るのはモミアゲロールパンでは無く。
上級生の男子生徒であった。
横には年配のメイドが立っている。
なるほど…。Mr.Rとメアリーは週末、出かけたのか。
次席の者が音頭を取る習慣らしい。
恐らく俺に回って来る事は無いので関係は無い。
「そろいました。では。始めます。宜しいでしょうか?」
年配のメイドが話すと無言で頷く次席くん。
ソレを合図に壁紙になっていたメイド達が動く。
見渡すとマルカがワゴンを押している。
ミソッカス共は全員揃っている。
運ばれてきたメインの大皿は謎肉のローストと付け合せ根野菜とカボチャの蒸し煮。
タマネギと豆のスープとパンだ。
何の肉かわからない物が多い異世界だ。
食べてみれば解かる。
例え魔物の肉でも美味しいは正義だ。
でも人型モンスターだけはかんべんな。
食事が終わり解散する。
マルコにサロンを誘われるが。
明日は早いので丁重に辞退する。
土産話を待っていてくれ。
部屋に戻ると最終チェックだ、下着良し、変えのズボン良し。
収納のGUIをチェックするだけの作業です。
コレで全ての作業は整った。
後は寝るだけだ!!
殆ど遠足だな。
ただし、命のやりとりが有る。
準備が終わると、何故か心配になる。
毛布は人数分馬車に積んだし天幕も積んだ。
水筒もある。
指折り数えているとマルカが帰って来た。
「ただいま戻りました。」
「マルカ。俺はもう少ししたら休む。明日の準備を行なえ。重要な物は収納魔法を使え。」
「はい。」
「替えの下着とタオル。携帯食料と水も三日分、雨具と毛布は収納しておけ…。あとは…。」
何が必要だろう?思わず顎に手を添える。
思い出せ俺。
「オットー様、大丈夫です。準備してあります。」
マルカから冷たい視線を受ける。
「そうか…。すまなかった。」
「ふ、ふふふ。」
笑うマルカ。
俺がマルカの笑う顔を正面から見たのは初めてかもしれない。
「では、俺は休む。下がって良い。後のコトは自分でする。」
選択を誤ったらしい。途端に無表情になるマルカ。
「あ、あの…。今日は一人なのですが…。」
問題は無いハズだ。
言葉の裏を考える。
何か有るのだろう。
寝室に向かう。
「そうか…。俺は早いが休む。が。明日のコトで話がある。就寝の準備が整い次第ベッドに来い。」
「はい、解かりました。」
寝室のドアーを開けながら話したのでマルカの顔は不明だ。
正直マルカの無表情は見たくない。
泣いた顔もだ。
制服をトルソーに掛けクリーンの魔法を掛ける。
俺自身にも掛けるが綺麗になったと言っても気分的な問題で魔法で桶に水を張り加熱してタオルで体を拭く。
頭を拭くタオルに戦友が絡みつく。
あの世界には頭皮のコントロールと言う考えがあり、その為のアイテムが揃っているらしい。
この世界では到底考えられない話だ。
全てはコントロール下に置く事が最悪な事態を回避する手段だ。
ショウちゃん、俺は負けない。
寝巻きに着替え、キングサイズのベッドに転がると。
反省会だ…。
正直反省するポイントが見つからない。
全ての準備を揃えた。
フラグも立てた。
結果を確認するだけだ。
俺は何を失敗したのかも不明だ。
失敗は取り戻せばよい。
その為の準備だったのだ。
大きな失敗をしない準備。
その為に随分と無駄な労力を使った。
だがちょっと待って欲しい。その無駄が本当に無駄だったのか?はゲームが終わらないと解からない。
ドアーをノックする音が響く。
「入れ。」
「失礼します。」
マルカが何時もの寝巻き姿だ。
「ココに来い。」
「はい。」
硬い声のマルカ。
ベッドの脇に座る。
「あっ。」
マルカの肩を抱き寄せると。
ベッドの枕に沈む。
マルカに腕枕をしながら。
髪に触れその香りを楽しむ。
マルカの髪はしなやかで流れるようだ。
そのまま取り留めの無い話をしながらまどろみに身を任せた…。
流石に昼間のハッスルで賢者モードだ。




