250.手綱2
さて、娘&ベスタと一緒に王都を歩く。
麩陰気は悪く無い。
「ベスタさんよろしくお願いします。」
「うん?ああ問題は無い。私は職務を果たすだけだ。」
「すまんなベスタ慣れない仕事かもしれないがよろしく頼む、今回はあくまで演習だ、無理の無い様に護衛任務を果たしてくれ。」
「はい!了解しましたオットー様。絶対にもう失敗しません。」
うむ、言葉の意味は解からないがとにかくすごいやる気だ。
護衛任務は今回が初めてのはずなので前回の失敗は不明だ。
だが自信がある様子なので問題は無い。
王都の門を出て馬屋に付いた。
木の割り符を取り出し暇そうな牧童に語り掛ける。
「馬の予約をしていた者だ。馬を引き取りに来た。」
「ああ、はい、馬の調整は終わっています。コチラにどうぞ。」
割符を確認した牧童が厩舎前に案内する。
中は相変わらず閑散としている…。
牧童に引かれて馬が二匹、性格の悪そうな目つきの悪い馬と一回り小さな馬だ。
ベスタを見て喜んでいる様にも見える。
走れるのがそんなに嬉しいのか?
「両方共に調整は終わっていますが。馬が馬車に慣れるまで無理はさせないで下さい。重い馬車でも半日ですね。」
「解かった。」
ベスタが馬の状態を確認しながら答える。
目を見たり触って体温を計ったりしている。
牧童が馬を撫でて落ち着かせている。
「よしよし、頑張って働いて来いよ。」
「オットー様、問題は無いようです。」
蹄の状態の確認が終わるとベスタの報告だ。
「すまんな牧童殿、早ければ5日遅くても12日の予定だ。」
「はい、解かりました、お気をつけて、お帰りをお待ちしています。」
頭を下げる牧童を背に二頭の馬を引いて馬車屋へ向かった。
馬車屋に馬を引いて付くともう既に幌馬車がいつでも納品できる様に用意してあった。
「やあ、お客さん。馬車はできてるよ?」
店主が出て来た。
満面の笑みだ。頬のこけた顔に皺が深くなる。
表情レイヤーの引き出しは有るらしい。
「すまなかったな店主、無理を言って。」
「ああ、良いんだよ、久し振りの大仕事だから皆喜んでた。」
店主が馬車大工共を見渡す。
得意そうな顔の馬車大工たち。
「おい、娘、支払いを。」
「はい。あの、コレ残りのお金です。」
残りの払い金貨120枚を渡す娘。
手早く数える店主。
「はい、確かに。すまないね。これで一息つけるよ。」
なるほど。工場の中は修理の馬車が有るだけだ。
「よし、それじゃあ馬車の説明をしよう。前のと大体は同じに作ってある。改造する前の幌の時のだけどね。」
四輪の幌馬車で予備の車輪が側面に一個づつ付いている。
中には棚があり下半分は引き出しが沢山付いている。
「あ…。懐かしい。」
そうか、娘はエンリケと共に行商に出たことが有ったんだな。
「ダッシュボードが無いですね。」
外周を一回りしたベスタが店主に尋ねる。
「うん?ダッシュ?ああ帝国のヤツに付いてる縦板ね?王国の馬車は付いてないよ?その分、御者の足置き場が斜めで長いんだ。」
「そうですか…。」
イマイチ納得しないベスタ。
「うん、そうだね。よいしょっと。こうすると御者足置き板が縦になって畳めるんだ、まあ、市場で邪魔だからね。それから、コイツをこうやって。長柄が馬車に引っ込む。と。幌のシャフトを外して。突っ張り棒を立てると。コレで店の完成だ。」
馬車から屋台に変形した。
なるほどそうするのか…。ひしめき合う町の市場で馬を外して繋ぎ場を借りて馬を休ませる。
銭が取られるが牧童の見張りと水と飼葉が揃っている。
大きな所では追加料金で蹄の掃除や馬具鍛冶屋、馬医者まで揃っているので安心だ。
良い馬は高いからな。
娘とベスタが動きを試している。
「さてと…。馬を連れてきている様子だが…。ハーネスはどうするかね?買うかね?借りるかね?」
「ハーネス?」
「あっ。」
首を傾げる娘に驚くベスタ。
「どうした?ベスタ…。」
くっころ騎士の顔が赤くなる。
「申し訳ありません。オットー様。忘れてました…。」
「ハハハハ。すまない。店主。ドコで借りられる?」
このポンコツ騎士め。
馬車なのに騎乗用の馬具を用意したが、馬車用の馬具をすっかり忘れて居たらしい。
「何時も使っている馬具屋が隣りに有るよ。まあ、大体は馬車を直す時は一緒に修理に出すものだからね。中古も扱っているよ。」
結局、馬車用ハーネスを二頭分中古再生品を購入した。
娘は金貨8枚を支払った。
馬が馬車に繋がれ発車するまでポンコツ騎士状態のベスタが見れたのは収穫だった。




