239.パトロネージュ2
さて、フラン先生は誇らしげに手を掲げ授業を始めた。
「ハイハ~イ、欠席の生徒は手を上げて。全員揃ってますね~。」
指輪が光っている。見せびらかしたい様子だ。
教室を見渡すフラン先生。目が合ったので軽く会釈する。
顔を真っ赤にして指輪を隠し、黒板に向き直るフラン先生。
「で、では、今日は銅の合金について話します…。」
おお。冶金術だ、錬金の範囲なのか?
黄銅(真鍮)や青銅、各種銅合金の話だが。
産地の名前でその加工特性の話がメインだった。
ニッケル黄銅は無い様子だ。
恐らく産地で生産されてインゴットで王国に入っているらしい。
王国には合金屋が居ないのか?
あの世界では普通に合金屋が有ったハズだ。
電気炉等と言うデカイ炉で金属をねるねるしていた。
純粋な金属も沢山作っていた。
そう考えるとあの世界の連中の方が魔法使いだと思う。
「さて、これから金と銀の見分け方から銅合金を分類訳します。金と間違えるなんて錬金術師として恥かしいのでよく覚えて下さい。また、誰かを騙してもいけませんよ。」
うん?今更、真鍮を金だと言って騙すヤツ居るのか?
比重や重さ、臭いや味と言った判別法だ。
電気抵抗等は未だ実用化されていない様子だ。
「はい、では。薬品による判別法も在ります。」
なるほど…。まあ普通だ。何に拠って色が変わるか?と言う話だ。
変り種は酢を紙に湿らせて。花の汁を一滴、銅か亜鉛の板を載せると言う方法が在った。
なるほど電子の移動によるpH値の変化か…。
思いっきりボルタ電池だな。
「では、最後に。試験を行ないます。このプレートの金属を何か当てて下さい。紙に名前を書いて提出です。」
フラン先生が。木の板、緑の羅紗にはめ込まれた黄色い金属プレートを掲げる。
「はい、はい、順番に出てきて。紙に書いて元の席に戻って~。手にとっていいけど手袋はめてね。」
生徒が前にでる。
皆、手に取って重さを量ったり、息を吹きかけ擦った後の臭いを嗅いでいる。
順番に並ぶ。
前のマイト先輩が頭を捻っている。
解かった様子なので俺の番。
まいあ良い、サーチで誤魔化す。
サーチ結果
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道具:黄銅
効果:銅合金(銅:61.9%亜鉛:34.4%鉛:1.8%鉄:0.7%リン:0.5%その他:0.6%)
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うん黄銅だね。
真鍮だが不純物が多い。
まあ良い。そんなに細かく書かなくても良いだろう。
鉄まで紙に書いてフラン先生に提出する。
「オットー君。これダメ。」
俺の提出した紙を見て眉毛の間に皺を寄せる先生。
「何故ですか?」
「ドコの銅か書かなきゃ。」
「むっ、ソレは解かりません。解かるのは何が混じっているかダケです。」
”え?それって凄くない?”
後ろのお下げの女生徒がツッコミを入れるが無視する。
「え?じゃあこのプレートは何?」
新たに取り出した銅板を見せるフラン先生。
”先生いまどっから出したんですか!”
おさげがうるせえな。
サーチ結果
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道具:銅
効果:銅合金(銅:90.7%鉛:6.6%鉄:1.2%亜鉛:0.6%錫:0.5%その他:0.3%)
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「ああ、九割、銅ですね、鉛が六分で他。鉄や亜鉛です。」
「え~、じゃあコレは?」
何も出さずに手を見せるフラン。指輪しかない。
コレはサーチする必要が無い。
「”白金”です。」
「”HAKI”?銀じゃないの?白銅とか?」
「”白金”は”白金”です、金でも銀でも銅合金でもありません。そういう金属です。」
「え~。」
途端にテンションが下がるフラン先生。
もっと手の込んだ物だと思ったらしい。
銅クズから作ったけど向うの世界では高いんですよ?
「新たな金属なんですか!!」
食いつきが良い、ブラウン髪のおさげ。
青い目でソバカス付である。
「生徒グリーュン提出を。」
「あ、はいフラン先生。」
紙を渡すソバカスおさげ。
髪がほつれてアホ毛が立っている。
「はい、正解です。」
「あの、この金属は何ですか!!」
「あの、この生徒は何ですか?」
興奮するアホ毛をフラン先生に尋ねる。
「生徒グリューンです、全然卒業できない子です。座学は満点ですが実技がダメダメな子です。」
「先生、それは酷いです。」
フラン先生に抗議するおさげ、コレは鈍臭い香りがプンプンする。
「そうですか…。」
なるほど、残念な子らしい。
「あっ!何か失礼なコトを考えている!!」
なるほど、受信感度は良好らしい。
「さて、先生、俺は合格ですか?」
「む?オットー君。合格にしてあげます。特別ですよ?」
「はい、ありがとうございます。」
一礼して立ち去ろうとする。
「ずるいです先生!!」
「生徒オットーは特別生です。授業は関係有りません!!」
喰いつく女生徒を尻目に席に戻る。
マイト先輩は既に机の上を片付けていた。
「では食事に行きましょう。」
「はい、そうですねオットー様。」
食堂に向かうが何かが後ろから憑いてくる。
アホ毛のおさげだ。
「何か御用でしょうか?」
立ち止まり聞く。
「いえ…、あの。折り入って話が…。」
神妙な顔で語り掛けるアホ毛のおさげ。
「マイト先輩宜しいでしょうか?」
「いえ、ダメです。彼女の家系は金を作り出す為に取り憑かれています。」
うん、先ず間違いなく面倒事だ。
「あの…。金を得る方法の話が有るのですが…。」
はい、ダメです。
この手の話はぜんぜんNGです。
言葉巧みに壷とかお札とか売りつける話です。
ダイヤとか絵画かも知れない…。
錬金術詐欺だな。
断っても纏わり付いてくるであろう。
「では、こうしましょう。」
収納から、”金属塊 10.6kg”を取り出す。
手のひらに載せてハンケチで隠し魔力を展開する。
「ウェーイ!!別れよ”パラジウム”」
「は?」
「あの。オットー様?」
何をしているのか解からない観客。
この世界では道すがらで芸を見せてお金を取る様な仕事は無い様だ。
エンリケの店の前で実演販売した時は大盛況だったからな。
面白ければウケは悪く無いと思うのだが…。
大きい塊を収納してGUIは”金属塊 10.0kg”に成った。
残った銀色の板を分ける。
「三つに別れよ!!」
よし、銀のプレートになった。
一枚200gも無いが…。小さい。
ハンケチを取り去り三枚の金属プレートを見せる。
「この金属板を一枚渡そう、コレが何で出来ているのか解かれば話を聞こう。金を得るのならコレぐらいは解かるハズだ。」
アホ毛のおさげに一枚渡し残りを収納する。
GUIは”パラジウム(197g) ×2”だ。
「え?銀では無いのですか?」
「さあ?調べてみて下さい。合金かもしれません。」
「はい、解かりました…。」
「では、ごきげんようさようなら。」
呆然とプレートを眺めるアホ毛を残して食堂に向かった。




