237.太刀筋1
朝だ。
フラン先生とは仲直りが出来た。
お互いゴメンナサイが出来たので晴々した顔でお互いを拭きあっている。
勿論、イネスも拭いている。肌はツヤツヤだ。
後ろでは微妙な顔で激戦後のシーツを片付けるベスタ。
まるでゴミを見る様な目で俺の着替えを持って来たマルカ。
鍛錬用の動き易い服に袖を通すと。
姿の見えない魔女達を見送り。
中庭へベスタと向かう。
もう既にミソッカス共が集合して準備運動をしているが…。
「どうした?カール、ジョン。戦争にでも行くのか?」
カールとジョンがフル装備だ。
「おはよう。オットー、教えてくれるんだろ?あの剣。」
「準備は万端だ。」
訓練用の木刀を見せるカール。
ヤル気マンマンらしい。
思わずタメ息が出そうに成るが何とか我慢できた。
幽霊騒ぎの時の姿だ、あの時は暗かったが。
乳タイプ兄弟の鎧は金属片の鎧の様なモノだ。
襟が布なのでスケイルアーマーかもしれない金属部が大きい。
それに、ハーフヘルムに鎖帷子の頭巾を被っている。
「そうか…。まあ準備運動が終わってからだな。」
柔軟体操から始める。
「おう、俺たちはもう終わっているが。」
「カール、ジョン。カッコイイ鎧だね。」
「そうだろ、フェルッポ、新しく直したんだ。」
「プレートは前の鎧から外した物だがな。」
「兄さん僕も鎧がほしい。」
「何に使うんだ?弟よ?まあ軍に入ったら自分用の鎧を作らなければ行けないからソレまで待て。」
「アレックスは鎧持ってるの?」
「一応持ってるけど革の鎧だね。一部が鉄のプレートだ。家にある。」
「ああ、見たことある。トーナメントの時の鎧か?」
マルコが訪ねる。
「うん、そうだね。手入れが面倒だから。実家に置いてきた。」
呆れる乳タイプのカール。
「おい、アレックス、手入れぐらいしろ。」
「剣の手入れは自分でやってるよ。革は油が臭いから…。御夫人に不評なんだ。」
「いや、イザという時無いと困るだろ?」
1,2っとジョンがツッコミを入れている。
「だ、そうだ、弟よ、毎日手入れが必要なんだぞ?解かったか?」
「う~ん。」
「そうだぞ、フェルッポ、自分の命を預ける物だ。5、6、何時も点検しておかないとイザと言う時に使えないっと!」
「うん、解かったよオットー鎧作ったら毎日点検する。オットーは鎧持っているの?」
「いや、持ってない。サン、シっと」
「あ?」
「おいおい、オットー。鎧無しで戦ったのか?フルプレート相手に。」
「え~。丸腰かい?」
「オットー。良くヤル気になったな。」
「てっきり中に鎖帷子着ているのだと思った。」
「よっし、体操終わり。当たらなければどうというコトはない。」
柔軟体操を終えてタオルで汗を拭く。
うむ、デブが言っても決らない。
収納からツヴァイヘンダーを出す。
「この剣か…。」
喰いつきが良い乳タイプの小さい方に手渡す。
「長いな…。」
「僕にもみせて。」
「こんなに長い剣どうやって鞘から抜くんだい?」
「こんなの振り回せないだろう?」
収納から皮手袋を取り出して装着、服の襟を立てる。
「よし、まとめて答えよう。コレは剣と槍の間を埋める剣だその為、切っ先三割にしか刃を入れない。両手剣で鍔も持ち手になる。最大の特徴は刀身を持って全身を使って振り回す事だ。貸してみろ」
カールから受け取った剣で形を披露する。
肩に担いだ状態から切り払い、受け、突き、小手からの巻上げ。
全身を使った動きだ。
決闘の時はコレに足技と関節技を使った。
バケツの視界が狭いのを利用した奇襲技だった。
「すごいな。ソレでフルプレートを打ち抜くのか…。」
「体力勝負だな…。」
納得する乳タイプ、ジョンが良い所に気が付く。
「そうだな…。身体が大きい者で腕力に自信がある者なら良い使い手に成るだろう。鋼の鎧を貫くには力勝負だ。」
「なるほど、レイピアよりも間合いが長いな。」
「そうだな、マルコ、逆に関節の稼働域が悪い鎧を着ると使い勝手が悪い。軽装歩兵で速さが勝負だ、まあその分リーチが有る。装甲兵の間合いの半歩先から攻撃できる。」
「オットー、僕も欲しい。」
「弟よ…。お前では無理だ。」
「そうだな、フェルッポが使える様に成るには未だ上背が足りないな…。マルコ位の背に成れば問題は無い。」
「それなら大丈夫、もう直に追いつくよ。大きくなって来たんだ。」
まあ、モリモリ食べて要るから大きくも成るだろう。
「そうか、では先ず模擬戦をしよう、アレックス!」
「え?僕?」
驚いた顔のアレックス。
ツヴァイヘンダーの先に布を巻く。
「そうだ。アレックス、前へ。」
「僕、剣もってきてないよ?」
ジョンが木剣を渡そうとするが手で止める仕草をする。
「コレを使え。アレックス。」
収納からダルガンの剣を出し投げて渡す。
受け取るアレックス。
「おお、良い剣だね。カッコイイ。」
「ああ、ちょっとした名剣らしい。やるよアレックス。」
”アレックス、いいな~””おい、あの剣は。””そうだな…。戦利品だな。”
「いや、嬉しいけど勿体ないよ。」
「鞘の付いたまま遣れば良いだろう。実践用の剣だ、軟な拵えでは無い。いくぞ、アレックス。」
アレックスが構えるのを合図に斬りかかる。
コチラの間合いが長いので半歩下がるアレックス。
短槍の間合いと気が付いたのか振り抜いた所を、突きで飛び込む。
コチラも一歩引いてツヴァイヘンダーの刀身を掴み間合いを下げ、アレックスの剣先を押し下げる。
単純な力比べになるが剣の握り幅が肩幅になったツヴァイヘンダーでは両手剣でも不利だ。
恐らくアレックスも下がるタイミングを計っているのであろう。
肩同士がぶつかるが、アレックスの踏み込んだブーツの先を踏みつけ動けなくする。
下がれなくなったアレックスが驚いた顔だ。
王国剣術のアレックスは突きがメインなので前後の動きが多い。
下がれなくなると手数が減る。
姿勢を崩し転がりながら逃げるアレックス。
その瞬間にアレックスの首元に布が触れる。
左手はそえるだけ。右手のを突き出せば喉に食い込むことになる。
「まいった。」
「まあ、こんな感じだ。」
「剣と言うより槍だな。」
「そうだな、ジョン。」
「アレックス大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。相変わらずオットーの剣術は変則すぎる。」
「コレであの帝国製のフルプレートを打ち抜いたのか…。」
納得するカールに驚くベスタ。
「え?フルプレートを」
「ああ、従者殿は見ていなかったのか。オットーが決闘で帝国製のフルプレート着た者と戦って鎧を打ち抜いたのだ。俺も見たが信じられなかった。」
信じられない表情ベスタ。
「種明かしすると。帝国製でもかなり質の悪い物だ。鋼があんなに簡単に割れる物ではない。」
鎧の破片は硫黄の多い物だった。
浸炭ムラも多い。
「いえ、鋼の鎧は意外に割れます。」
ベスタが答える。
「そうか…。」
鋼が簡単には割れない。穴は開くだろう。
おそらくじん性が足りない。
折り曲げ構造で強度を出す形状でも無い。
加工技術が低いか、恐らく帝国でもガス浸炭までの技術が確立していないのであろう。
そうすると…完全100%鋼の剣はこの世界ではオーパーツ扱いだ…。
只のSK鋼だぞ…。早まったか俺?
SUS特殊鋼の剣作っちゃたよ…。
まあ良い、ダルガンは口が堅そうだ。
黙っていれば誰にもわからないだろう。
 




