212.極地3
ロリロリを先頭に図書室に入ってくる少年少女12名。
何故か笑みを浮かべている。
何か良いコトが有ったのか?
「よし、全員揃ったな。番号の若い順から席に並べ。マグカップを配る、個人の物として管理せよ。無くしたら替えは無いと思え!各員自分の名前のと番号を書き込め。」
マグを一つづつ前に並べる。
何だコイツ等、無言だがマグとポーションが前に置かれると目をキラッキラッさせている。
視界の隅で番号1番の少年が両手で大事そうに触れている。
が、振向くと手を机の下に入れ姿勢を正す。
「よし。コレより。水とハーブの種を配る、各自適量投入したら隣りに回せ。」
「「「ハイ。」」」
「では準備が出来たものから、前回の練習を初めよ最後に確認を行なう、出来た者は繰り返し訓練、逆回転や別のパターンに素早く切り替え。」
「「「ハイ。」」」
うむ、皆真面目にやっている。
良くこんなアホなコトできるな。
「お前達はA班との差はあくまで技量の差しかない。習練で追いつける。ただし、漠然とやっても解からない時は何らかの試行錯誤を試せ。頭を使って魔力を使え!」
「「「ハイ。」」」
うむ、やはりA班程ではない。
この時間一杯使えば回転パターン全てが何とかできる程度には成るだろう。
さて、問題は無さそうだ。
無言の図書室の中にガヤガヤとミソッカスとサンピン共がやって来た。
「やあ、オットー今日は何をやるんだい?」
「そうだな、フェルッポの質問に答える講義を行なおう。デーニック、エド。お前達にマグを配給する、無くすなよ?マルカとエミリー。司書さんと合流して練習を行なえ。ロビンが指示しろ。」
「「はい。」~い♪」
正直、ロビンに俺の女達を託すのは癪だが大丈夫だ、今回はソレほど重要な話はしない。ココで行なう。
準備を整え長机を占領するミソッカス共。
アレックスがロビン達を羨ましそうに見ている。
「オットー。どんな話?」
「先ず、大地が丸いと言うことは知っているか?」
「お盆の様な世界で海の先は滝になって話?」
フェルッポなんだよその平面説
「いや、そうでは無く球体だというコトだ。」
「おいおい、そりゃないだろ?」
「落っこちるだろ?」
「どっちにしても御伽噺のはなしだろ?」
「オットー意味がわからないよ?」
騒ぐミソッカス共。
「うむ、ではこうしよう。大地は球体で丸い。皆球体の中心に引き寄せられている。物が落ちても大地球の中心に落ちるのだ。水も鳥もだ。」
「下の人は逆さになっちゃうよ?」
「フェレッポそうだ。逆さの人から見たらオレ達が逆さだ。」
「あっそうか…。」
「だとしても何の役に立つんだ?」
呆れるマルコ。
机の上に作った実験道具を並べる。
「さて、この振り子だが。振り子、いや、運動する物体は真直ぐ動く。石を投げると真直ぐ飛ぶと言う話だ。風の影響は受ける。」
「ああ、そうだな。」
「そうか?」
「いや、何の問題が?」
「馬車に乗って馬車が急に方向を変えると体が進行方向にもってかれるだろ?ソレと同じだ。」
ワケが解からないらしい乳タイプ兄弟。
脳筋にもわかるように説明しているのだが。
「いやいや。」
「では、振り子を動かしてゆっくり振り子の台を回した時。振り子は動いた台に追従するかしないのか?どっちだと思う?」
「追従しない。」
「「する、」」
「すると思う。」
「…。」
無言のマルコ。
「ではやってみよう。」
振り子を動かし安定したらゆっくりターンテーブルを回す。
「え?動かない?」
「「なんでだ?」」
「オットーどうして?」
「こんな物なんの役に立つんだ?」
「独楽と言う庶民の遊びは知っているか?」
「ああ、あの回すの?昔遊んだ。」
「やった事は無いが、領民に送った事がある。」
「回転している状態では倒れない。解かるか?その場に居続けようとする。ぶつけ合う遊びだ。」
「うん、解かる。」
鉄で作った球を取り出し示す。
「つまりこの大地は丸い独楽で回転しているとしよう。どうやって証明する?」
「何で回転しているのだ?」
「マルコ、回転していない世界だとどうなる?」
「回転の落ちた独楽の様に不安定になるのでは?」
アレックスが替わりに答える。俺も解からないので答える。
「そうだな…。どうなるかは解からんが。」
「回転が不安定だと東から日が昇らないだろうな。」
マルコが答える。
「北から太陽が昇るのか?」
カールの発言だ、ジョンは付いていけないらしい。
「まあソレに近いコトに成るだろう。」
魔力で鉄球を回転させながら浮き上がらせる。
直上で光の魔法を使う。
「このように大地球が一回転すれば。一日になるだろう。光が当たっている所が昼で裏が夜だ。回転しない世界では夜が200日昼が200日だ。」
「なるほど。しかし、境日は年二回だぞ?」
境日は春分秋分のコトだ。何故かこの世界は夏至冬至は重要ではない様子だ。
「そうだ、俺はソレが不思議だと思っている。」
「なんで?オットー。」
「普通なら日が一番長い日と日が一番短い日が重要になるハズだ。」
「えー。」
フェルッポは呆れ顔だ、アレックスもマルコも…。乳タイプ兄弟は目で通信している。
「さて、何故、昼と夜の長さが変わるのか?フェルッポ解かるか?」
「わかんない。」
「いや、ソレは…。日が動いているのだろう?」
「うむ、カール。日は動いているが、この前程では動いていない。」
「何だそりゃ?」
マルコのツッコミが入る。
「この鉄の大地球が動いているのだ、日の回りを一周回って一年だ。」
光の魔法の周りを鉄球が回る。
その前に地軸が曲がってないと1年の概念が無いだろう。
冬も夏も無いのだから。
「なぜ?そうだと?」
「月の大きさに関係する。」
”月”は内側の惑星の名前で日の出と日の入り後に見える明るさの変わる星だ。
接近して天気の状態が良いと昼間でも見える星だ。
恐らく大きいか反射率の良い氷か雲のに覆われた白い惑星なのだろう。
「オットーなんで”月”なんだ?」
「うむ、迷い星の”火”に係る話だ。もし、この大地球体の外の球体を見た時どんな動きをする?特に追い抜く時だ。」
さらに、外周に鉄の球を浮かせて公転させる。
「え~。戻るの?」
「迷い星そうなるが…。」
「いや流石にソレは…。」
「では、日の長さが変わる場合を考えよう。この大地球は傾いているのだ。この日を中心にして回る一年の回転軸に対して。」
「なんで?」
「さあ?解からん。何か昔在ったのかもしれない。この大地の回転軸が日の周りの回転軸とドレだけ傾いているのか解からない。傾くとどうなる?大地球を見て答えよ。」
「え?日の周り一周回る間に昼間が長くなったり短くなったりする?」
「そうだな、年二回。大地球回転軸が日に対して直角になる。つまり昼と夜の長さが同じになる、境日だ。」
「もしそうだとしてどうやって調べるのだ?」
「日の高さを計ればよい。毎日一番高くなる同じ時間に。後昼と夜の長さを計る。」
「簡単だな。」
「いや、簡単では無い。正確な機械時計が要る。特に一日の差は非常に少ない。そして大地球の回転軸に近い所へ行くと昼と夜の差が大きくなる。冬は昼間が短い。極地になると殆ど日が出ない。」
「え?白くて日の出ない世界?あるの!!」
「そうだ、フェルッポ。しかし、数年と言うコトは無い。境日には普通に日が出て落ちる。かなり低くなると思うが…。。そうなると高い山で囲まれているのか。ひょっとしたら数年周期で大地球の地軸が変芯しているのかもしれない。独楽の様に。」
鉄球の地軸を変芯させる。
ジョンが答える。
「だとしても、ソレは魔法とは関係が無い。」
「えー。でも、本当に在るんだ。白くて日の出ない場所…。」
「くだらん。」
フェルッポは興奮しているがマルコはうんざり顔だ。
「そうだな。話が大きくなりすぎた。問題は。人が動ける範囲でどうやって知るかというコトだ。先ずこの大地、球が回転していると言うコトを。」
「どうやるんだいオットー?」
「実験道具を作っておいた。」
「すごい!!オットー。」
コーヒーメーカーの様な実験道具を見せる。
「え~。」
「なんだ?これは?」
明らかにフェルッポは思ったものとは違うものが出てきたような落胆した顔だ。
困惑するカール。
「うむ、では実験を始めよう。先ず、上の容器に栓をして下の容器の中の水を入れ。波が収まったら、栓を抜く。」
よっし、反時計回りに渦を巻いている…。成功だ。
思わず拳を握る。
「うむ。成功だ!!」
「オットー、わけが解からないよ?」
アレックスが答える。呆れるミソッカス共。
「うん?ああ、すまんな。さっきの振り子の動きを考えてくれ。台が動いても振り子の動きは変わらない。アレは模型だが恐らく15尋から20尋のロープに錘を付けて振り子を作ると一日掛けてゆっくり動く。」
「ああ?なんだって?」
「地面が動いているのだ。振り子はその影響を受ける。恐らく北極地で振り子を動かせば左り回りで一日掛けてゆっくり一週回るだろう。大円部では振れは無く南極地では右回りで一周だ。」
「つまり?」
「北に上がれば振り子の動きが大きくなる。南方大湖の近くで計測して王都か、北領で計測すればこの大地、球のどの角度に立っているか解かる。二点間の距離を測ればこの大地球の大きさが解かる。極地までの距離も出る。」
「成るほど…。」
「その証拠がコレだ、静かな状態なら高確率で左回りで渦を作る。南の極地に近づけば逆の右回りの渦だ。」
「ちょっとやってみる。」
フェルッポが喜び勇んで漏斗の中の水の渦を見ている。
「こんな実験でわかるのか?」
疑わしい毛なマルコ。
「正直、日の高さと正確な機械時計が在れば簡単な器具で解かる。今、自分がドコに居るのかさえもだ。ただし、ソレには長い期間測定が必要だ。」
「なんだって?オットー。」
ジョンが乗ってくる、流石脳筋、理論はアレだが応用には食いつく。
「山や川を見て現在地を計るが機械時計と日の位置で自分の場所が判る様になる。正確な地図を作る時に重要な要素になる。」
地図や暦、時計が完成すれば六分儀を作れば良いのだが…。工作精度を要求される。
今の工作精度で作ると。四分義でかなり大きなモノに成るだろう。
「すごいじゃないか。オットー。」
「そうだ、軍隊行動中に迷子になる危険が減るのだ。」
計算式と略図を描いた紙を見せる。
マルコが計算している様子だ。
「なんで一周を360にしたんだ?」
「いや、割れる数が一番多い数だから…。計算しやすい。精度が悪くなる場合は100倍して考えると楽だぞ?」
何となく納得するマルコ。
「オットー、コレ面白いね。極地ってどんな場所なんだろう?」
渦に熱中するフェルッポ。
「さあな。全く判らんが白くて日が出ないなら、全てが凍りつき氷の大地が何百尋の厚さで強力な風が吹く場所だろう。到底、人が到達できる場所ではない。」
「そうか…。行けないのか…。」
何故か残念がるフェルッポ。
「だが見た者が居るから話が残っているのであろう。きっと誰かが行って帰って来た者が居るのだ…。」
あの世界のチート人間共は到達したが多くの犠牲を払っている。
全く恐ろしい人間共だ。この世界の汎人とは作りが違うのだろう。
過酷な状況下でも生き残る。
俺に必要な要素だ、伊佐治、もし会うことが出来れば礼を言いたい。
俺はお前の知識のお陰でこの先生きのこることが出来るのだ…。
なお…。フェルッポはこの時の話を一生覚えており。
晩年…。まあ、それなりに出世したフェルッポは、出資者として数度か”北征極地探検隊”を送り出した。
フェルッポの生きている間には極地征服は出来なかったが。
新しい国との交易や、珍しい品を集め戻り、それなりに経済的には成功した。
結局、フェルッポと俺の子孫達が何度も失敗して恐怖の山脈や氷の中に埋まった者を乗り越え。
極地に始めて立つ人類になるのは、かなり先の話である。
その時、極地に建った記念プレートの下にはこの時の振り子の錘がフェルッポの肖像画と共に埋められた。
正直すまんかった…。フェルッポの子孫。
(´・ω・`) フェルッポ。57歳。古い模型の振り子を見せて人々に地動説と極地探検の必要性を説く。
周りの反応。
(´_ゝ`)”伯爵様…。又始まったよ…。”
 




