209.後ろ髪。
校舎の前で考える。
ドコに行こうか…。
偶には授業に出るのも良いのかもしれない。
しかし、課外授業の件で質問もある…。
フラン先生に相談したら碌なコトに成らないだろう。
ココはエロフの魔窟しか手が無い。
精霊召喚科教員室へ向かう。
部屋の中に光点一つ。
イネス教授は在席中の様子だ。
ドアーをノックする。
「はい、どうぞ。」
エロフの声でドアーを潜る。
「オットーです入ります…。うわぁ。」
エルフの魔窟で有った教員室は全て綺麗に片付け…。いや、本が全て無くなっている。
断捨離か?この世界でもあの悲劇が繰り返されるのか?
「オットー様、おはようございます。」
「ずいぶんと部屋が綺麗になりましたね…。」
「はい、オットー様のお陰です。収納魔法で全て本を収納しました。」
「そ、そうでしたか…。良かった。」
「はい、お陰で分類ワケも検索も楽で欲しい本も直に取り出せます。便利ですね。」
やべえ、このエロフ。エロフペディア化しやがった。
図書館エロフだ…。欲しい本が直に出てくる。一家に一台欲しい存在だ。
「それはすばらしいコトです…。魔法の効果は応用が一番大事です。」
「はい。お部屋も綺麗になりました…。こんなに床が見えるのなんてココ50年無かったコトです。」
エロフがお茶の用意をしている。
なるほどこのエロフ何歳なんだろ?
後姿のケツの形が良い、まあ、あの身体なら100でも200でも喜んで!!
しかしそうなると呪いの店のエルフ婆は何歳なんだ?
新しく…。では無く。
本に埋没していたであろう。
発掘された丸テーブルの上にお茶が並ぶ。
椅子にすわり収納していた焼き菓子を並べる。
「あら、ありがとうございます。」
「いえいえ、寮で出るヤツですので。」
「あらあら、でも久し振りです。」
お茶を飲みながら取り留めない話をする。
さて本題に入ろう。
「実は教授。俺の配下の者が…。未だ課外授業の単位を取っていないのです。ソレでご相談が…。」
「あら、ソレは大変です。」
「それで馬車と冒険者の当ては何とか出来るのですが…。学園への申請についてお話を聞きたいのですが…。」
「ああ、それなら簡単な話になります。まず…。購買部で…。」
ふんふん、重要なコトをメモに箇条書きにする。
なるほど…。
意外と書類が多いな…。
配置される教授は学園が決めるらしい。
個人でお願いすることは禁止だそうだ…。
袖の下防止か?
「うーむ。」
良く解かった。
計画書を付けて申請してから学園の判断。
担当教授との具体的な計画設計。
そして準備と実行。
なるほど…。意外に書類が多いな…。
「例年同じパターンが多いので用紙記入例が出来ているんです。その為個人で計画を立てるのが難しくなって…。」
「うーむ。」
掌を口に当て考える。
なるほど…。お役所仕事の本末転倒だな。
あいつら書類作るのが仕事だと思っている割には。
大事な書類捨てやがる…。
古い書類を捜せば我が邦国まで遠足に行った記録も有るかもしれない…。
しかし、計画では数日、長くて10日。
理由は天候不順によるものの場合が多いらしい。
出発地点と到着地点は別に決っていない。
人数が多かった時は行きと帰りで分かれて二つの班で研修を受けたことが在ったそうだ。
行きの班が研修を受けて目的地で終了解散。乗合馬車で学園に帰り、帰りの班が乗合馬車で目的地に向かい行きの班と交代で学園までの帰路、研修だそうだ。
但し、評価発表が学園で行なわれるので便宜上往復が多いダケだそうだ。
なら話が早い。ハイデッカー領出発の北の炭鉱の町着までの計画が立てられる。
ハイデッカー領まではポーンで飛べば良い。
チーム登録すれば全員飛ぶのは解かっている。
ゲームでは馬車ごと飛んでいた。
試したことは無いが…。だいじょうぶだよな?
先に実験しておこう。
眺める紙の向こう、視界の片隅に。
イネスのにこやかな視線に気が付く。
イカンな怖い顔になっているのかもしれない。
「ありがとうございます。イネス教授。コレで配下の者を卒業させることが出来ます。」
「あの、配下の者とは…。生徒マルカのコトなのですか?」
丸テーブルの対面に居るのに椅子ごと移動して近づくイネス。
目がちょっと怖い。
俺が嘘を言うと思っているのか?
「はい、そうです。彼女は俺の大事な女です。」
「そうなのですか?大事な…。」
目の奥が怖い。
「ハイ、そうです。彼女を…。見つけた時はそれは酷い状態でした…。俺は情けを掛けた女を粗末にしない。それは貴女も同じだ。」
顔が近くなって来るので。
手を伸ばし耳に触れる。
うん、本モノだ…。
エルフの耳はホントに尖っている。
犬耳のブランの人間耳はどうなっているんだろう?
一度あの髪の中をまさぐって調べて…。
いや、確かおぼろげな記憶では人間耳も在ったが擬態であった。
犬耳のほうが感度が良かった印象がある。
エロフの耳の輪郭を撫で、髪に触れる。
うむ、健康で強力な戦友達だ…。
直毛で太くて力強い。
色は金髪だが…。艶やかだ。
「あ、あの…。オットー様?」
「ああ、すみません。良い髪ですね。」
俺の戦友とは大違いだ。
地盤の差だろうか?
「はい、自慢の髪です…。」
何故か顔が赤い。耳まで赤いエロフ。
「少し下さい。」
いや、俺に植毛してくれ。
「へっ!!」
「いえ…。ほんの一つまみ、根元から長いのを…。うなじ辺りの見えない所で良いのです…。」
「な、なんで!?」
きょどるエロフ。
「食べます。」
「ふにぁっ!!」
可愛い声で鳴くエロフ。
完全に真っ赤だ…。
「すみません冗談です。しかし…。故郷の…、いや、戦地に向かう兵は皆、妻の髪か恋人の髪を胸のポケットに入れて征ったそうです。」
あの世界の狂戦士達の話だ…。
大体、自爆上等の兵隊なんて頭がオカシイ。
「な、なぜ?」
「さあ?死んでも一緒に朽ちるからなのでは?骨と髪は腐りませんから。」
「は、はひ。わ、わかりました。」
何故か慌てふためくエロフ。
収納からナイフを出して震える手で髪を持ち上げている。
「ああ、そんなに要りません…。」
「で、でも。でも!!」
「ではイネス。俺が切ろう。」
「は、はひ。おながいしまっしゅ。」
何故か噛むイネス…。
うむ、すばらしい力強い髪だ…。
俺の戦友も…。いや、止めよう。
エロフの後ろに立ち。
うなじのしなやかな髪をひとさし指に撒きつけ根元をナイフで刈り取る。
流れる髪を丸め香りを嗅ぐ…。
うむ、イネスの香りだ…。
その姿を見て何か言いたげなエロフ
「あ、あう。あの…。」
「うん、良い香りだ…。イネスの香りだな。」
そのまま胸のポケットに入れる。
よっしゃ!!
この毛なら上手く行くハズだ!!
湿度計の毛に!!
「あの、あの…。この後…。」
何故か置いてあるソファーに悩ましげな目を移すエロフ。
完全に工口工口工口フに変身している。
恐るべし…。もじもじ工口フ。
「あの…。ゆっくり出来ないので、今晩夕食後にしましょう。」
「は、はひ。今晩、わかりました!!よういしておきましゅ。」
何故か瞳の中が渦巻きだ。非常に怖い。
大丈夫かこの工口フ。




