196.友好度
腹八分だ。マイト先輩の店に向かう。
店に入ると時間が悪いのか客は居ない。
都合が良い。
「ごきげんよう、マイト先輩。」
「いらっしゃいませ、オットー様。」
入店の儀式が終わるとカウンターで話を進める。
「色々解からないことが有るのでアドバイスをお願いしたいのですが…。」
「はい、何でしょうか?解かるコトならお答えできます。」
「うーむ、ちょっと待ってください。今考えます。」
頭の中で考える。
必要なモノ、ポーションの確保。
マジックインクの受領。
賃貸物件の情報、又は工房の確保。
「まず…。ポーションの販売をお願いします。」
空瓶を並べると先輩が数を数え奥から低級ポーションを出してくる。
問題なく精算に進む。
「コレが通常インクと色粉無しインクです。」
「おお、ありがとうございます。」
二つをサーチして収納する。
GUIに燦然と輝く。
”マジックインク(無色) ×1”
の表示。
コレで勝つる。
「あの、通常インクと色粉無しインクを更に発注したいのですが?」
「オットー様。流石にソコまでですと工房の設立をお勧めします。」
マイト先輩がアドバイスを出す。
コレは親切の顔だ…。
正直解かるが手が足りない。
「工房を設立するほど手が足りません。誰か信用が出来る工房を紹介してもらうしか有りません。」
「うーん、そうですか…困りましたね…。」
肘を組み考えるマイト先輩。
なるほど、錬金術は海千山千。
腕と信用は違うらしい。
「ソレで例えば工房を持つとするなら幾ら掛りますか?」
「そうですね。今から工房を立ち上げるとすれば3っつの方法ですね。古い家屋を改装する、郊外の土地を買って新たに建物を建てて始める。工房を畳む錬金術師から買い取る、ですね。」
「ほう、なるほど…。」
工房自体を買うことが出来るのか…。
「まず、古い家屋を改造することですが…。水や排水のコトがあります。作るものによりけりですが水を大量に使うモノが有るので物件を選ぶ必要があります、あと…。臭いと騒音。」
「そうですか…。意外と少なそうですね。」
「昔の染色屋、皮なめし屋。造酒屋等の物件が出物と言われています。そのまま使える場合が多いのです。まあ…。ソレは各業界でも同じなのですが…。良いモノは高いです。総合的には安く済みます。」
「なるほど。居抜きの物件か…。」
初期投資を安く押さえられるのか?
「いぬ…?次は郊外で新築ですね。広い場所と自由な間取りが選択できます。臭いと騒音の苦情も出にくいです。難点は王都から遠くなることですね、重い物を作ると輸送賃が商品価格を圧迫します。」
「うむ、距離の問題か…。」
収納とポーンで何とか成りそうだが。
俺以外では問題だ。
下手をするとその場の領主に税金を払わされるかも知れない。
特に儲かっていると。
出来れば王都の中で工房がほしい。
”大きな工房”は領地を貰った後で良い。
「そして最後に工房を”畳む錬金術師から買い取る”ですね、王都の中の殆どがコノ手です。大体は金貨800~2000枚ですね。歳を取って生まれた村に戻る方が売り出します。老後の生活資金として弟子に貸す場合も有ります。」
「ほう?ソレは良いですね。」
なるほど、完成した状態で売っているのか?
年金積み立ても無い世界だ。
なるほど…。老後資金としての家賃収入か…。
「ただし、あまり出てきません。今、僕が勤めている工房も親方が歳で…。後数年で止めるそうです、何とかソレまでに資金を溜めないと。」
「順番待ちになるのですか?」
「そうですね。大体は弟子が買い取ります。今居る工房は兄弟子が故郷で工房を立ち上げて継ぐ人が居ません。元々大きな工房では無いので親方と僕だけです。親方は僕の親戚筋なのですが、息子さんは別の仕事を立ち上げています。」
「では先輩は工房が持てるのですね?」
「まあ、ソレまでに腕と資金が集れば…。ですね。」
自虐的な笑みを浮かべるマイト先輩。
なるほど…。上手く行っていないのか?
「わかりました、ソレなら未だしばらくは先輩に注文します。金貨1枚渡します。又通常インクと色粉無しを一つずつお願いします。」
金貨1枚を出す。
「はい、わかりました。来週までに作っておきます。」
先輩が工房を持てば話が早い。
おかしな物を作っても先輩なら喋らないだろう。
先輩が逃げない様にしなければ…。
俺に借金でもしないかな?
周りを見渡す。
客も人気もGUIに光点も無い。
「あの…、マイト先輩。大変失礼なコトを聞くのですが…。いくら位が目標なんでしょうか?」
ひそひそ声で話をする。
「え?何がですか…?」
「いえ、工房の買取です。正直。俺は作業場ダケ有れば良いので経営する気が無いんです。」
「は?はあ。」
「作業場さえ…。道具と材料の置き場と管理、量産は手が足りません。王都で自作できる場所が欲しいダケなんです。」
「え?それなら借りれば良いと思います。工房の期間貸しは今までも在ります。」
ほう、レンタル工房か…。しかしソレでは資産にならない。
経費は免税にならない世界だ。
「なるほど…。ソレは良い話です。ソコラ辺を悔しく。」
「は、はい、悔しいですけど注文が一杯入って作業場が足りないっ!!とか。くやしいっ!注文が間に合わないっ!て時に使う方法です、大体は一月から三月程度他の工房を借り切って…。場合によっては錬金術師ごと借りて…。と言う話です。」
「なるほど、良くわかりました。」
うん、マイト先輩の説明は良くわかる。
ノリも良い。
「問題は、工房の借り切りは結構、割高なので利益が圧縮されます。悔しいです。」
この世界の外注は単価が高いらしい。
良いコトだ…。
”派遣会社”という奴隷商人が幅を利かせて無いのであろう。
「うーむ、あの、工房を借りる場合と”弟子に貸す場合”って何が違うんですか?悔しく無くお願いします。」
「弟子に貸す場合は、基本的に工房買取の月賦払いに近いです。最初に総支払額を決めて、ギルドが仲介します。手数料が発生して…。割高ですね。頭金が必要です。工房の期間貸しは工房間での契約です。」
「ほう…。」
なるほどローンで工房が買えるのか…。金と信用がギルドの仕事か…。
ソコラ辺はあの世界と変わらない。
証券化という裏技であの世界はチートだ。
「僕はコレになりそうです…。」
小声で呟くマイト先輩。
よっしゃ!!聞いたで!!
銭の香りがする言葉!!
「先輩。俺は作業場の確保が必要なんです。工房関係で銭で困ったら言って下さい。たぶん何とか出来ます。」
「え?あの…。」
「俺は、将来…。領地に戻る必要が有りますが。王都での活動する間は。作業場と拠点が必要なんです。今ソレを探しています。もし何か良い物件が有ったら教えてください。銭は何とかします。」
「は、はい…。」
「先輩の信用と俺の銭で何とか工房を立ち上げましょう。出来れば早く。」
「そうですね…。早いほうがよろしいです。でもあと金貨1000枚必要なんです…。」
よっしゃ!!聞いたで~!!金貨1000枚!!
なんと言うことでしょう。GUIには金貨千枚があります。
チョロインです。
現生でほっぺたペシペシできます。
だが…。焦るな。俺、選択は間違わない。
ココは…。もったいぶる。
「うーん。何とか成るかも…。」
「え?オットー様?」
「うむ。コレでも貴族の端くれ。金貨1000も2000も何とかして見せます…。時間を頂ければ。」
「あの。オットー様。」
キラッキラッする瞳で見る先輩を罠にはめる。
殺し文句はココで使う。
「先輩。一緒に王都で…。錬金術で天辺盗りましょう。」
「はい、オットー・フォン・ハイデッカー様。」
硬くマイト先輩と握手する。
よし、NPCのマイト先輩はコレで落ちた。(オホモ無しです。)




