1.主人公オットー
俺の記憶には幼いコロから、何処か遠くの伊佐治 翔太と言う男の記憶が在る。
理由はわからない。
ただ、自我が育つ前から伊佐治 翔太の価値観と知識が在ったのだ。
只漠然と子供の頃に見たもの全てをソレに任せていた。
魔法に驚いた。
ソレを考察する方法を知っていた。
簡単な魔法道具を分解して大人に怒られたコトもあった。
計算を難なくこなしたら大人たちが驚いたこともあった。
伊佐治翔太はかなり高度な学校に通っていたらしい。
22歳まで学校に通うなんてちょっとこの国の常識では無い。
そのため俺は魔法や社会に対する知識欲に傾いた。
あの世界に在ってこの世界に無いモノ。
かなり変わった子供だったのだろう。
本ばかり読んでいた。
しかし、俺はあの日、この世界を知ったのだ。
俺は朝、鏡の前で自分の顔と名前が伊佐治翔太の知識と繋がった。
名前はオットー・フォン・ハイデッカー。
ハイデッカー公爵三男、8歳。
「おれ、ゲームの登場人物?」
そうだ、このロジーナ王国はゲームの舞台になる。
主人公が王立魔法学校に通う時に出てきた名前だ。
後半戦争する国はゲームではカペー帝国だが、西隣りの小競り合いしている国はカルロス=ペニャーリア帝国。
カルロス帝国とかペニャーリア帝国と言われている。
本での短縮表記はカ・ペー帝国だ、
「ぼっちゃん?どうかされました?」
「いや…。なんでもないよ。」
呆然とする俺はまじまじとメイドを見る。
俺の身の回りの世話をするメイドだ。
この俺の生まれた屋敷は領地の本宅だ。
物心つく前に母親は流行り病で死んだ。
当時の俺は漠然と”中世ではそんな物だ。”と思って泣かなかった。
領内から雇われた娘でハイデッカー領の生まれだ。そろそろ結婚退職する予定が在るらしい。
伊佐治翔太の知識ではメイドキター!!とか叫びオムレツの上にハートマークを書いてもらうのが常識らしいが。
この国にそんな常識は無い。
もちろんやらない。
オムレツも存在しない。
ただ、俺の伊佐治翔太が騒ぐだけだ。
何でVRMMOじゃなくてコンシューマーなんだ!!はっ!NC-17版なのか?
ワケがわからないよ。
未だ結婚は早いでしょう?
この国ではちょっと遅いぐらいだ。
戸惑いの笑顔で返すメイド。
「ぼっちゃん。もうじきマイヤー先生が見えますよ。」
ゲームとは思えない…。
思わず呟く。
「コレは俺の”リアル”なんだ。」
部屋でマイヤー先生を待つ。
マイヤー先生とは正確にはエリー・マイヤー夫人で元のハイデッカー家執事だった夫が亡くなったのでハイデッカー家に教師として雇われている年配の御夫人だ。
夫人の子供達は独立して家を出たらしい。
王都の学校で学んだ経歴もある。
家で働いていたのも長い。
主に子供の礼儀作法としつけを教える家庭教師だ。
兄貴達も教えたらしい。
いつもニコニコしているが怒らせると怖い。
俺は末っ子だが下の兄貴より6歳も離れている。
一番上の兄貴とは9歳だ、あまり話した記憶は無い。
まあ。ココまで年が離れると話すことは無い。
マイヤー先生の話では上の兄貴がかなりやんちゃだったらしい。
下の兄貴は素直で完璧主義者だった様子だ。
俺は素直で理解が早いが何をやり出すか解からない危険な子らしい。
当初の質問攻めにはかなりうんざりした様子だった。
まあ、字が読めるようになってからは本で調べれば良くなったんだが。
上の兄貴は軍学校へ行ってそろそろ卒業だ。
この国の貴族は軍務があるらしい。
別にやらなくても問題は無いが、軍務経験がないと貴族のサロンで話すことが無い。
大概は戦歴の話で盛り上がるらしい。
もちろん又聞きだ。
下の兄貴は王都にある国立の主計学校へ通っている。
王国の役人になるつもりらしい。
俺は末っ子で予備の予備なので自由きままに趣味の魔法に没頭していた。
と言っても本ばかり読んでいた。
目が悪くなるといけないので時々遠くを見たり目の運動をしている。
ゲームなら話は早い。
伊佐治翔太はこのゲームをやりこんでいる。
レベルもカンスト?、魔法も全て網羅している。
でも。俺じゃない。
何処かの村の只の自由民だ。
しかも俺はヤツの敵だ。
主人公がHAPPYENDなら俺はBADENDでございます。
いかん、情報を収集しよう。
伊佐治翔太(俺)の知識で回避しよう。
コレはゲームではない。
目の前に聞けば答えてくれる人がいる。
先ずは国際情勢とこの国の現状からだな。
家に在る本は大分情報が古い。
入室して挨拶を行なう。
そして席に付くと開口一番。先制攻撃だ。
「マイヤー先生、質問が在ります。」
親父に質問病が再発したと報告された。