191.会敵(タリホー)。1
部屋に戻り体を拭く。
朝食を取りに食堂に出るがカールとジョンが居ない。
仕方がないのでメモ書きしてMr・Rに送る内容は、
”本日、病人食を特盛二人分、果物付き。一日三食を、カール・バージェルとジョン・ヴォルーデにそれぞれ配食してほしい。言付けは’全部食べろ。’オットー・フォン・ハイデッカー”
大銀貨一枚を付けて寮の者に託す。
部屋に戻り、メイドさんずには休日宣言をして、青隠者姿に変身だ。
先ずは王都、北門の皮なめし屋へポーンで飛ぶ。
魔石の回収だ。
店はもう既に開いている。
カウンターに進み受付に話す。
「おはよう。冒険者のオットーだ。解体した素材の一部を受け取りに来た。」
テーブルに用紙を広げる。
一読したニイチャンは紙をクリップに閉じハンコを押して返してきた。
何故か微妙な顔だ。
「裏で引渡しを行ないます。」
「ああ、解かった。」
ニイチャンの表情に何か引っかかったが裏の作業場に回る。
なめし職人達は仕事中だ。
兵が居る何か有ったのか?
「ああ、すまない。親方は居るか?以前に魔石の剥ぎ取りをお願いした者だ。」
「あ、はい、あの…。又後で…。ではダメでしょうか?今は都合が…。」
前の若い職人だ困った顔をしている。
なんだ?間が悪かったのか?
「渡しなさい!わたしの命令が聞けないのですか!?」
「しかし、コレは所有者の…。モノでして…。」
親方と誰かが押し問答をしている。
人だかりだ、兵も居る。
なるほど…。クレーマー対応か…。コレは確かに間が悪いな。
親方と目が合う。
職人達の困った顔がさらに困った顔になった。
なんだ?
「あら、又貴方ですか…?」
言い争う女の方の声だ。
俺に向かって放たれた言葉だ。
まるで蔑む様な口元の笑み。
コイツ…、商業ギルドの時の女だ。
取り巻きのメイドと若い大男の執事。
そして王立騎士団の騎士達だ。
コイツ王族か…。
「ほう?誰だ?俺はお前の名前を知らんが?」
騎士たちが一斉に剣に手を掛ける。
12人か…素手では無理だな。殺すか。
「クリザンヌ・ブリュムドリュフ=ロジーナです御見知りおきを…。」
華麗に薄いピンクドレスのスカートを持ち上げ頭を下げるお姫様。
コイツがヤンデレ姫か…。
今は後ろでお団子にしているのでデコ全開だ。
アニメ絵とは髪型が違うせいで気が付かなかった。
「冒険者のオットーだ…。」
「おや?以前、聞いたお名前とは違うご様子ですが?たしか…。」
煽るヤンデレ。
「「オットー・フォン・ハイデッカーだ」と?」
俺の声とハモる。
途端に一歩引く騎士たち。
何故か怒りがこみ上げる。
「騎士が下がるな。」
腹の底から思わず口に出してしまう。
うん、剣は抜いてない。
剣を抜いたら魔法で首を引っこ抜く所だった…。脊椎ごと。
飛び掛ってくると思って発動直前だったのに。
なんだ?コイツ等?本当に騎士か!?
顔色の悪くなる騎士モドキ共。
こんな兵が騎士と言えるのか?
怒りに上半身の筋肉が盛り上がる。
「姫様。後ろに…」
呟く羽根付きヘルムを無視してヤンデレと話す。
「今日はお前とは何も用事は無いハズだ…。」
「そうですね…。コチラの用事を済ませましょう。主人、白銀の狼の毛皮をお渡しなさい。」
何だ買い取りかよ…。
「あ、あの…。持ち主はコチラの方でして…。」
親方が蛇に睨まれた蛙の様に俺に手の平を向ける。
「あら?また、貴方のモノなのですか?支配者の狼の毛皮を差し出しなさい。わたくしに。」
「ダメだ。もう既に渡す相手が居る。」
はい、即答です。
コイツは何で何時も俺のモノを欲しがるんだ?
自分で取って来いよ。草原を制覇して。
「わたくしに相応しい白銀の毛皮だと思いませんか?高貴な者が身に纏ってこそ、ふさわしい毛皮です。」
「お前、新しいワインの様な赤い色の方が好きだろ。」
思わず突っ込みを入れる。
コイツは自分の好み問題で散々好感度がアップダウンするキャラだ。
主人公が選択で苦労する。特に選択前のセーブ・ロードのやり直しだ。
この女の考えることなぞ全て解かる。
何回ロードしたと思っているんだ。
「な!なにを!?」
きょどるツン姫、このままツンツンのままの方が遣り易い。
ツンデレ攻略は来年度入学する主人公に任せよう。
コイツの顔は学園で見た事が無い。
そうなると…。
メンツを見渡す。
このイケメン大男執事が裸執事のマルダーか…。
絵の様にマッチョっぽい。
執事服という鞘の下には小麦色の肌と筋肉があるハズだ。
理由を付けて脱ぐ。理由が無くても脱ぐ。
主人公の上腕二等筋がうつくしいと言う理由で無条件に俺の敵になる。
「俺は冒険者だ。冒険者には冒険者の決着方法がある…。」
もったいぶって見渡す。
騎士共は何故か恐怖で動けない様子だ。
「おい、お前、お前!執事の姿だが冒険者だろう。」
裸執事を指名する。
そうだ、冒険者だろ?首をおいてけ。
「あ、ああそうだ…。昔の話だ…。」
「なら、ソレでカタを付けようじゃないか?」
親指で木の樽を指す。
「何をするんだ?」
「腕相撲だ。お前を主人の代理に認めてやる。俺に勝てば支配者クラスの狼の毛皮を売ってやる。高値でな!!」
偉そうに言う。
鼻で笑うツンツン姫。
「やりなさいマルダー。主君への忠誠を示すのです。」
樽を持ち上げ中央に運び立てる。
この重さなら問題ないだろう。
右手の肘を樽に置き手を差し出す。
「さあ来い。俺は冒険者のオットー。クラスなしだ。」
うん、言ってもイマイチ決らない。
早くクラス上げたいな。
「俺は元クラスAの冒険者マルダーだ。」
上のシャツを脱ぎ上半身ハダカに成る執事。
ホントに脱ぐのかよ…。
ゲームだな。
手と手が合わさる。
一瞬で裸執事の顔が変わる。
そうだろ?解かるだろ。
俺の手が今まで何を殴ってきのか?
俺には解かる。
お前は剣を…、サーベルを握って生き抜いたのだ。
思わず口に笑みが零れる。
周りは職人と兵士が取り囲んで賭けを始めている様子だ。
「俺に掛けるヤツは居ないのか?金貨20枚を俺に掛けてやる。」
裸執事の目を見て叫ぶ。
「おれ!!太いの!お前に賭けるぜ!!」「おれ、Aクラスの冒険者に賭ける!!」「俺は!!執事に賭ける!!」
親方が袋に金を落していく。
いいねェ冒険者っぽい。
酒場で無いのが残念だ。
「では、開始を勤めさせて頂きます。」
羽根付きヘルムの騎士が両手を俺と裸執事の腕に添える。
「開始!!」
腕に被さる力と力。
「いけ!いけ!いけ!」「負けんなデブ!!」「勝てよ!!デブに負けるな!!」
男達が叫ぶ。
メイド達が眉を顰めている。
こういう蛮勇はお嫌いか?お嬢さん方。
ツンデレ姫だけが冷めた目で見ている。
そうか…。ゲームの通りお芝居は嫌いか?
お前が”わたしは一番の女優”と言ってデレたのに…。
良いだろう。
お前は俺の敵だ。
押している相手の腕を瞬発力で一気に樽に沈める。
決着が付きタメ息を吐く男達と痛みに悲鳴を上げる冒険者崩れ。
腕を痛めた様子だ。
「俺の勝ちだ。あの毛皮は売らない。まあ、赤い熊の毛皮で我慢するんだな。」
「解かりました、良いでしょう。諦めます。」
背を向け振り返らないヤンデレ。
怒っている様子だ。
「マルダー!貴方はクビです!!」
振向かず目を合わせず冷たく言い放つヤンデレ姫。
「あ、あの…。」
執事は崩れ、傷めた手を伸ばすが立ち去る姫。
振向かない。
イケメンばかりなので妙に絵になる。
立ち去る兵隊共は全てすった様子だ。
ザマあみやがれ。




