番外編.近衛兵団警備派遣小隊
「おい!お前ら!!何考えてる!!全て正確に報告しろ!!」
小隊長が吠えるが、今はそんな問題では無い。
「全員復帰しましたが。命令に忠実に従った結果であります!」
軍曹は古参で下町出の幼年兵の使いっパシリからココまで上がって来た叩き上げだ。
報告に間違いは無いだろう。
小隊長が言う問題とは、昨晩学園内の歩哨で我々の小隊が全滅したのだ。
全員気が付いたら裏庭で並んでおねんねだった。
武器も魔法も使った痕跡は無い。
装備も失ってない。
歩哨に出た兵が戻ってこないので全員で突撃した。
松明が消え鼻を摘まれても解からない様な暗闇の中で全滅したのだ。
「伍長!昨日在ったコトを順に話せ!」
軍曹が伍長に目配せしている。余計なコトは喋るな合図だ。
「は、はい、隊長殿。昨日、昼過ぎに軍曹から”夜営の準備と夜間巡回をセヨ”との命令を受け班分けと準備に取り掛かりました。後半巡回班の班長は私です。日没前に全ペアが巡回、監視重要箇所とルートの選定が終わりました。異状は在りませんでした。」
「それで?」
「日没になり巡回を開始。三順目に出た貴族寮周辺ペアが戻ってこなくなり。逆周りで巡回班を出しました。コレも音信不通。」
「…。」
「軍曹の指示で松明を装備し全員で裏庭に突入。突入と同時に松明が消え、兵の叫び声の中、私も意識を失いました。」
「なにか、気が付いたことは無いのか…?。26名の一個小隊が全員何も見ていなかったとは考えづらい。」
一人の兵が手を上げる。
「あの、最後に戻った巡回ペアーですが…。中庭に入ったときは異状は在りませんでした。」
「私は次に通りましたが中庭中央で異状無しを確認、次の場所に移動する所で後ろから何かに襲われました。」
「何かとは何だ?」
「あ、申し訳ありません、不明です…。」
「その次の巡回ペアは私です。あの。あまり覚えていないのですが…。倒れた兵士のブーツを見ました。」
「何だと?」
「あ、はい、最後に見たのが官給品のブーツでした。」
「ではその場に何か居たのか?」
「恐らくは…。」
「次のペア者ですが…。物音か話し声を聞きました、前のペアだと思い裏庭に侵入すると…。」
「何か見たのか?」
「い、いえ、申し訳ありません。見間違いだと思いますが…。白いメイドが立っていました。」
「なに?」
「いえ、最後に記憶に残っているのが…。絵の様な表情の女と白いエプロンドレスと白い帽子なので…。」
「おいおい、そんな事聞いてないぞ…。」「いや、でも白いモノは見たな。アレはエプロンなのか?」「俺は…。白い髪の女だと思った。」「お前も見たのか?」「い、いや、気のせいだと思って話さなかった。」
ざわつく兵たち。確かに俺も暗闇に白い影は見た。
しかし、速くて解からなかった。
女か…。そういわれてみれば…。
ウヘェ…。やっぱり幽霊かよ…。
「まて、落ち着け。何か寮内で変わったコトは無いのか?」
「昨晩の寮生の所在は全て確認しました。デイビス家の執事の方が学園出口を何時も見張っています。ただ…。」
「なんだ?」
「一昨日から頻繁に裏庭に立つ生徒が居たそうです。」
「誰だ?ソレは?」
「あ、あの…。ハイデッカー家の三男です…。凄いデブの魔法使い…。」
衝撃的な報告だ…。
どうすんだよ…。
小隊長は頭を抱えている。
「いや、そうとは決ってないだろう…。理由が無い。」
「あの、軍団長の娘が…。」
「聞いている。しかしソレが理由でも。一個小隊を全滅させるなど…。」
「あの…。寮内の生徒の話では昨夜、夕食後にハイデッカー家の三男が凄い格好で寮の外に出たと…。」
「凄い格好とは?」
「見た生徒の話では顔に墨を塗って大ナイフを装備して網を被っていたそうです…。」
「山賊の様な姿だな…。」
軍曹の呟きに全員が微妙な顔になる。
確実にあのデブが裏庭に潜んでいたのだろう。
理由は解からない。
魔法使いの理由なんて知るか。
何らかの理由によりデブと交戦したのだ。
頭痛が痛い小隊長の姿。
そうだろ、ケンカ売ったのはこっちに成るのだ…。
嫌な貴族に目を付けられた。
しかも、相手は政治的な嫌がらせでなく。
腕と度胸で来ている。
兵が腕と度胸で負けるワケに行かない。
勿論負けたコトを知られるワケにも行かない。
苦悶の表情の小隊長は決意したように吐き捨てる。
「よし、解かった。上には…。我が小隊は目撃情報の在った幽霊と交戦、損害を出しつつもコレを撃退に成功せり。退治に到らず。対策が必要。だ、その様に報告書を書く、軍曹、兵に口裏を合わさせろ。」
「了解しました!!」
忌々しそうに話す小隊長。
「皆、昨日の晩に有ったコトは誰にも話すな。かん口令だ。どうせ魔法使い貴族のお遊びだ。付き合う道理は無い。」
「「「ハッ!」」」
「よろしいのですか?隊長?」
「伍長。本物の幽霊ならどの道、小隊で対応できない。魔法的な防御が必要だ。この学園では腐る程居る。要人も来る。防御が強くなるのに問題はない。」
「はあ?」
「対幽霊用アイテムの代金は学園持ちだ。俺達は仕事をした。良いか!!デブの魔法使いなぞ誰も見ていない。」
「「「ハッ!」」」
「ですが…、デブは知っているのでは?」
伍長が質問する。
「デブの目的は何か解からないが…。我々の名誉を傷つけるのが目的なら、もう既に王都じゅうに知らぬものが居ないだろう。」
「ハッ。確かに。デブの目的は解かりませんが…。学園内では兵の単独行動を控えた方が宜しいのでは?」
「そうだな、軍曹そうしてくれ。解散。」
「「「ハッ!」」」
敬礼してわかれ。
「やれやれこまったな。」「班分けどうしよう?」「巡回を数人で回るのか?遠足じゃないぞ?」「でも。襲われたらどうするよ…。」
動揺する同僚達。
この学園には確実に人を倒せる知能の高い猛獣が潜んでいるのだ…。
くっそ!ココは王都の真ん中なのにまるで未開の森の中のか?
相手は狼より惨忍で熊より強く。ゴブリンより夜目が利いて。俺達より頭が良い。
勝てる気が全くしない。
そろそろ鐘の鳴るころだ、とりあえず飯の時間だ…。
ゾロゾロ皆兵が揃って食堂に向かう。
先ほどの話も忘れてヨタ話に花が咲く。
生徒達がまばらだが直に混雑するだろう。早めに来れたので良かった。
雁首揃えて兵達が食券売り場に並ぶ。
…。後ろから凄い殺気が…。
振り向く事が出来ない。
喉が渇く…。
解かる。解かるぞ…。このプレッシャー!!後ろにデブが居る!!
”おい、””わかってる””どうする?”
皆、口には出さないが…。
何とかやり過ごそう…。
「次は…。コ…ロス…。」
はい、無理です。
先頭が左向けをしたので全員が習う。
頭前のまま先頭に続き前に進む。
俺達、”王立近衛兵団は行進兵だ。行進ダケは上手い兵達だ。”
国軍兵のイヤミだがこんな時こそ皆実力発揮出来るのだ。
訓練の成果だ。
俺達は食堂の入り口に向かって行進、死地から脱出した。
一糸乱れず…。




