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173.未完成

「ハイハ~イ、欠席の生徒は手を上げて。全員揃ってますね~。」

教室を見渡すフラン先生。目が合ったので軽く会釈する。

顔を真っ赤にして黒板に向き直るフラン先生。

「で、では、今日は記述の応用とセオリーの続きを。」

なるほど、記述の応用だ。

今まで有名な魔法使いが書いた物や、よく使われている書かれ方を解説している。

「ココは良く解かっていませんが無いと動きません。また、先ほどの順番で配置しないと動作が不安定になります。」

どうやら魔法使いは独自のコーデックを使用して記述しているらしい。

教科書に書いてあるモノはあくまで基本的な方法のみ。

PUSH、POPが入り乱れ、条件分岐と移動が飛び回り。

位置不明のスタックポインタと変数格納箇所。

それでは誰にも解からない只動くだけの装置ブラックボックスだ。

SYSTEMの改修も変更も出来ない。

維持、メンテナンスにただひたすらリソースを喰われ続けるデスマーチだ。

あの世界ではもう既に奴隷戦士SE達によって駆逐されたハズのシステムだ。

しかし、古いSYSTEMが発見される度に多くのSEが命の灯を消していくのだ…。

ソレはまた大きなSYSTEMとして生まれ変わり、より多くのSEの血を求める存在になるのに…。

あの世界は人類には過酷過ぎる。

この世界であの悪夢の様な物を産む訳には行かない。

ソレにはより多くの魔法使いの意識改革は必要だ…。

眉間を揉む。

「どうかされましたか?オットー様。」

「いや、意外と問題が難しくて頭が痛くなりました。」

「はあ?」

「はいは~い、では今日出た例文を使って、この時間内に何か作っちゃって下さい。魔石を使っても良いですよ~。」

フラン先生が教壇で元気に仕切る。

「よっし、行くぞ!!」

先輩は気合を入れて作業に掛っている。

先生はこっちを見て満面の笑みだ。

え?俺も提出するの?

思わず自分を指差す。

笑顔で頷くフラン先生。

しかたない。

道具をと銅の水差し一個を机の上に出す。

何時か作ろうとして設計図まで描いたが…。

ココで作っても構わないだろう。

ノートを取り出し。

設計図を授業の紋章を取り入れた記述に書き直す。

俺は記述をブロック化しているので一部の変更が容易に出来る。

しかし、記述面積が大きくなるのが難点だ。

蓋や底、取っ手まで記入しなければ…。

台木の上に水差しを置いて記述を書き込む。

蓋の裏に魔石を固定する。

記述を見比べ間違いないコトを確認して魔力を通す。

うん、各ブロックの動作は正常だ。

総合動作確認に入る。

よし、停止装置も帰還回路フィードバックも正常だ。

安全装置も動くコトを確認する。

「せんせーできました。」

「はーい早いですね?先生は未だデキてません。」

何が?と思ったが。薮蛇そうなので何も言わない。

未完成フラン先生が完成した水差しを検品している。

「オットー君、授業で出た紋章は?」

「ああ、すいません、底に書いて有ります。冷却用の記述で使用しました。」

「え?冷却?何の為に?」

「ああ、この水差しは”無限水差し”を目標に製作しました。取っ手から魔力を供給して蓋に付いた魔石を充足させると、傾けるダケで水が出ます。魔石の魔力が無くなるまで。」

「あ~、”無限水差し”」

「はい、冷水が出ます。」

「え?なんで?」

「いや、水を飲むなら冷たいほうが良いかと…。安全装置が付いています、規定角度以上の…。ひっくり返したり蓋が開くと止まります。」

「え?どうして?」

「いや。水浸しになるとイヤなので。環境により水の出る量は変わりますが出る勢いは変わりません。」

「え~。え?どうやって?」

記述を読むフラン先生。

「フィードバック回路です。蓋には空気清浄回路が組み込まれています。裏技で水差しの口を口に銜え、蓋を閉めて逆さにして魔力を通すと綺麗な空気が吸い込めます。」

「え?何のために?」

「いえ、水に埃が入るのを防ぐための記述です。ソレの応用です。」

冒険者に売りつける為の水差しとして設計したのだ。

傷口を洗い流した後に毒消し草の粉末をすり込む。

火傷に対応するために冷水にした。

普段は水筒代わりだろう。

飲み水で無いと困る。その為の空気清浄機能だ。

あくまで空気フィルター以上の性能は無い。

炭鉱、毒ガス何でも来いだ。でも一酸化炭素は簡便な?

ソレも中に触媒を詰めれば何とか成るかもしれない。

作り方がわからないが…。

「え~、凄いけど普通…。」

「はい、空気を清浄して中から水を取り出し冷却しているだけです。こういう単純なモノは使い方により応用が利きます。」

「どんな?」

「奥様!長雨の季節でも、この取りい出したる魔法の水差しが有れば大丈夫!!」

「え?ええ?」

「お洗濯物がお部屋の中で乾かない?水瓶にこの魔法の水差しを引っ掛け魔力を通すだけでこのとお~り!お部屋を乾燥させてお部屋干しでもしっかり乾きます!!」

「え?どうして?」

「はい、お部屋のじめじめをこの魔法の水差しが水に替えれてくれるからです!!お部屋の湿気をたっぷり吸収!長雨で干物や干し肉が腐ることもありません。」

「えええ?凄い!!」

「はい、この魔法の水差しの凄い所はそれだけじゃない!!(バンバン)なんと!何時でも冷たい水が出ます!寝室に水瓶を置いて水差しをセットするだけ!!蒸し暑い夜も快適涼しくオヤスミできます!!」

「え?魔力は?」

「はい、圧縮した熱エネルギーは一部魔力に変換しているので省エネ設計!熱い時期なら一回の魔力充填で一晩持ちます。」

「え?熱を魔力?そっちの方が凄くない?」

「はい、このハイテク魔法の水差し!ただ、冷たい水が飲めるだけじゃない!!使い方しだいでどんなコトにでも使えます!使い方は奥様しだい!!賢い奥様に買って頂きたいこの一品!!(バンバン)」

「いくらですか!?」

「金貨2枚…。だと高いかな?」

「えーちょっと高いです…。」

テンションが下がるフラン先生。

うーん、やっぱり高いか…。

一般ご家庭用では高額だ。

冒険者用ならそんなモノだと思うのだが…。量産して安くするしかないか…。

ソレには製造ラインと職人を集める必要がある。

「うーん、それでは先生、コレを提出します。」

「あ、はい。」

「フラン先生、ボクも出来ました。」

「はい、マイト君受け取りました。」

「ソレとフラン先生、マイト先輩。お願いがあります。実は俺が記述のテキストを書いたのですが、ソレの添削をお願いしたいのです。ソレほど枚数は無いので暇な時で良いのですが。目を通して下さい。」

昨日作った王国語エンチャントマニュアルのコピーを取り出し渡す。

「あ、はい。解かりました。」

ぱらぱらとめくるフラン先生。

「ああ、朝のお願いとはコレのコトですか…。」

マイト先輩も中身を確認して呟く。

「はいそうです、やはり自分だけで書くと思い込みや勘違いで説明抜けや間違いが在ると思いますので…。写本なのでソレに書き込んでもらっても構いません。」

「え?コレ内容凄くない?」

「はい、解かりやすさを目指して書きました、入門者向けです。」

「あ、あのオットー様。錬金術師は手法までは弟子に教えないのですが…。」

「ご安心下さい。コレは俺の使っている紋章の一部で教本に載っているモノに基本的な紋章を追加したモノです。他の魔法使いが書いた紋章は書き方が独特ユニーク過ぎて学習に向きません。」

「ああ、そうですね。”錬金術師は独自のモノを編み出す”と言うのが定説です。」

「ソレでは効率が悪すぎます。共通基本言語と文法を決めて約束を作れば簡単になります。」

「それは…。誰でも書けてしまうのでは?」

「はい、ソレを目指しています。」

「え?何コレ?簡単じゃない?」

「はい、残念ながら、欠点は記述が多くなるのと、ノートぐらいの大きさの紋章しか出来ません。それに応用紋章を使わないと複雑な回路は組めません。あくまで紋章の組み方を覚える為のモノです。」

そうだ、この考え方で組んだ紋章は共通の文法の組み方になる。

応用も改造も思いのままだ。

「このフローチャートと言うのは?」

「ああ、回路の目的と動作をブロック化するためのモノです。この時点で上手く組めないと動くものが出来ません。」

「何故、この様な方法を?」

「単純に動作をブロック化して分けて居るので、不具合箇所の発見が早くなります。」

無論ブロックで動作OKでも全部繋げた状態だとNGの場合もある。

ルールを守ってブロック数が増えなければ障害も少ない。

「えーコレだと失敗しても一から書き直さなくて済むじゃない。」

「そうです、フラン先生。コレは試行錯誤の手間を減らすものです。残念ながら大きなモノは書けませんが。初級程度のモノならコレで全て構築できるはずです。ブロック化しているので数人の魔法使いで分担して書く事もできます。」

「オットー様は何時もこのやり方なのですか?」

「ああ、先輩。そうですね…。大雑把には何時もこのやり方です。もう少し紋章の種類が増えたり言語が違ったりしますが…。」

「なるほど…。凄いですね…凄い発明です…。」

「いや、コレでも試行錯誤の結果なのですが…。」

あの世界のね。

「凄い、解かりやすい。これ来年使っていい?」

「たぶん、コレだとスグに書ける様になりますね。」

「まあ、手法と考え方の入門テキストのつもりで書いてます。上手く出来たら使ってください。先生、先輩。添削をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「はい、先生に任せてください。」

「オットー様、お任せ下さい。」

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[気になる点] でも一酸化炭素は簡便な? 勘弁
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