16.灰色の魔道士(その1)
手持ちが無い。
結局何も買えずに店を出る。
困った。足の無い金持ちを探すか。
いや、そんなドジョウの下にミミズ千匹居る分けない。
なお、コノ世界でヤナギは見たこと無い。
考えながら歩いていると。
ハゲのおっさんが突っ込んできた
襲撃かと思い剣に手を掛ける。
「姪っ子の命を救ってください!!魔道士様の力なら必ずや!!」
鼻水と涙を垂らして迫る赤道のハゲ。
何の罰ゲームだよ!!こんなのゲームになかっただろ?
「金は出すのか?」
「この身を奴隷に落としてでも支払います!!」
あー。オットー・フォン・ハイデッカーです。
いま、押し売りしようとしたオッサンの案内でなんか中途半端な下町を進みます。すごいでじゃぶ
なんだよ。これ?脂肪フラグ?俺。建物に入ったら囲まれてタコ殴り?
案内された家はこじんまりとしているがなかなか小奇麗な家だった。
中に入ると陰気臭いオッサンとおばさんが居た。
オッサンは商人だが最愛の娘の体が弱くて成人まで生きられないとの医者の見立て、奥さん(おばさん)は赤銅の妹で赤銅は姪っ子のために高い薬を稼いでいたそうだ。
赤銅は未婚なので姪っ子を自分の子と思ってかわいがっていたそうだ。フーン。
なんだよ、コノ安い人情劇!!
で、俺が治癒魔法の高僧と判断して藁をも掴む思いらしい。
クッソ!!初見で地雷に引っかかった!!
「この、魔道士様は俺の脚と指を治癒してくれた高位の魔道士様なんだ!!」
まるで自分のコトの様に威張るハゲ。
「俺は治せるものと直せない物があるぞ。大言妄想は止めろ。」
釘は刺しておく、いや、コイツ(ハゲ)は疫病神だ心臓に刺しておくか?
「私の娘のエミアは幼少より体が弱く成人までは生きられないとの教会治療士の見立てでございます。」
「「何とぞお力添えを。」」
話す夫婦は何かを見放したような目だ、きっとイロイロ諦めているんだろう。
しかし、テンション高いな赤銅くん。こんなキャラゲームに出てきたか?
「その娘の状態を見てみないと分からない。診察させて下さい。」
「ハイ分かりました。」(おばさん目が死んでる!!)
蜀台を持ったおばさんが前を進む。
「こちらです、」
ベッドに横たわる娘さん。
なんだ、俺より年上だな。
色白で美人の部類だが母親似だ、オッサン似でないのが幸いだな。
さっそくサーチ。ほほいう循環器系に問題があるな。
「はい、じゃあ、胸出して」
オッサンと赤銅が飛び掛ってきたので拳で沈める。
「診察だ…。」
おばさんと娘が青い顔で慄くが正義は我に…。ウッホ~π乙カイデー!!
いやいや、これは医療行為なんだ、今晩はうつぶせで寝よう。
白いやわらかい胸板に手のひらをあて、うっほ!!あったけ~!!やわらけ~!!
いや、分かった。
この娘は生まれつきの心室中隔欠損で成人になっても改善しなかったようだ。
こまった。
これは難しい。
動いている心臓を直すのはムリ。
一旦心臓を止めて魔法の治癒力で塞いで。
さらに心肺蘇生ってドンだけハードル高いんだよ!!ムリだよ!!!
鉄拳を受けてなお立ち上がる赤銅。
「コレはむずかしい。この女は生まれ付いて心の臓に問題がある、穴が開いている子供が生める身体ではない。コレを直すのには一旦心臓を止め穴を塞ぎさらに蘇生する必要がある。」
サーチした結果を壁に書いて説明する。
全員驚いている、何だよお前ら自分の心臓見たこと無いのかよ?俺はサーチの練習で全部輪切りにしたぜ。
「あ、あの、魔道士様それは魔道士様なら出来るのですか?」
おばさんが質問する。
「やったことが無い。」
ココは切捨てでしょう。メリットは無い。
「やり方はご存知なのですね?直った方も?」
あーなんだろ、今は足の大動脈からカテーテルでフタが多いんじゃないかな?答えが分からず無言になる。
「魔道士様、オネガイシマス。私を普通にしてください。」
娘が話す。
「正直。成功するかどうか判らん。」
「…。」
無言の娘に追撃する。
「用意がある、銭が掛る、結果、おまえが死んでもソレは変らん。」
「わたしはあとどれくらい生きられるのですか?」
「わからん、そう長くない。子供を生まなければ長生きするだろう。」
「好きな人が居るんです。」
驚くオッサンとおばさん。
「その人の子供を生むことは出来るんですか?」
「命と引き換えだな。ただし両方ダメになる方が多いだろう。」
「わかりましたオネガイシマス。」
娘が頭を下げる。
おっさんが迫ってきた
「幾ら用意すれば良いんですか?」
「この赤銅のツケも含めて金貨16枚です。」
ハゲを指差す。そうです全部コイツのせいです。
「そんなに安く?」
しまった!!もっとボッて置けば!!
「失敗した時の娘さんの命が16枚で足りますか?保障は無いんですよ?」
絶句するオッサン。
どうやら決断できないらしい。
良かった。面倒ごとだ、このまま消えよう。
立ち去ろうとするとおばさんが手を握った。
「娘をオネガイシマス!!」
娘さんも強く頷く。
や、おま!ちょっと待てよ!!
なんでそんなにギャンブラーなの?
深呼吸をかなり長くさせる生命維持装置が無いので血液に酸素を多くさせる。
もちろん、気休めだ。脳に障害が出ると困る。
いざと言う時のポーションを並べる。
母親に”よこせ”と言ったらすぐに使える様にさせた。
ああ、ココに正統の指輪が有れば…。無いモノは仕方ない。
娘を魔法で眠らせる。
手順を考えて一気にヤル。
景気づけにポーションを1本のむ。
電撃魔法で心臓を止めて。
ヒールで穴を塞ぎ
電撃で。
動かない!!
「くっそ!!」
ベッドに横たわる娘の上に飛び乗り。
急いで心肺蘇生マッサージ。
娘の頭を動かし。気道確保!唇に空気を送りこむ。
何度か繰り返す。
三順目に呼吸と心臓が回復した。良かった。
サーチすると順調に心臓が動いている。
胸に耳を当てる。
うん。心音も問題ない。
入念に頭部をサーチ、うんタブン問題ない。
意識を回復させると。
娘の受け答えは問題無さそうだ。
治った。
疲れたのでポーションを煽る。
おっさんずはボーゼンとコチラを見ている。
母と娘は抱合って泣き崩れて喜んでいる。
「まあ、これで少し動いたダケで息が切れることも無くなるだろう。」
おっさんずに語りかける。
「ほれ。金貨16枚よこせ。それから赤銅、あんまり俺のこと喋るな。有名人にするつもりか?面倒だ。」
そのまま、家を後にする。
よし!コレで本が借りれる。
 




