123.特別魔法クラス
朝になった。
一晩寝ると爽快な気分だ。
ストレスが無くなったのか。
日ごろの行いのせいか。
枕元に散っている戦友が少ない。たぶん少ない。
だ、大丈夫だ、コレは未だ正常な範囲だ…。たぶん。
一応元気になったので朝の鍛練に出る。
まあ、何時ものミソッカス共だが何故か準備運動から”ウェーイw”してきた。
バカかコイツ等?タイミング読まないと自爆するぞ?
まあ、病み上がりと言うことなので軽くミソッカス共をボコボコにして終わる。
無論、強化ヒールで全員治癒した。
特にアレックス。気分が良くなるほど倒したからな。
さて、自室で体を拭いて制服に着替え朝食を取ると。
マルカと共に学園の校門で別れた。
どうしよう?
ココで選択だ。
GUIには出てこないが。
錬金術クラスに出るか、魔法クラスにでるか…。ソレとも…他には精霊召喚教員室、特別魔法クラスがある。
精霊召喚クラスは休講だ。エロフの顔を見に行くコトに成る。
見るだけでは済まないだろう。
特別魔法クラスは魔法クラスを卒業した実力のある者や、国王の親族や公爵家の子弟が居るクラスだ。
俺も一応王侯貴族の端くれだが。知り合いが居ない。
いくらどの講義を受けても良いと校長に言われていても…。流石にソコには入れないだろう…。
「あら?オットー・フォン・ハイデッカー君?どうかされましたか?」
後ろにはモミアゲロールパンが立っている。
いかんな道を塞いでしまったか?
鬼畜メガネは連れていない様子だ。
「ああ、コレはすいません。メアリー・デービス様。」
「あら?以前お会いしたコトがございましたか?」
「いえ、Mr.Rには寮の雑務でお話したコトがあります。」
「そうでしたか?それ以外は?」
「特に…。」
「そうですか…。」
なにか考え込むロールパン。
ゲームではもっと高圧的なツンデレお嬢さんキャラのハズだが…。
こうやって見ると普通のお嬢さんにしかみえない。
「オットー・フォン・ハイデッカー君、教室に向かわないのですか?」
「ああ、オットーとおよび下さい。今日はどの教室に行くか思案していたところです。」
「どの教室…?」
「校長より自由にどの授業を受けても構わないと言われています。」
「まあ。噂のどうりの方なのですね。」
「噂と言うのは気になりますが。私用等で授業を離れていたので、ドコの教室に入っても少々躊躇いがありまして…。」
「まあ、ソレでは私の特別魔法科に来てはどうでしょうか?未だ受講されていないですよね?」
「はあ、確かに受講はしていませんが?」
「ではご一緒に。」
ロールパンが手を差し出したので、まるで貴族の様にエスコートして校舎に入る。
おいおい、練習以外で女性をエスコートするのは初めてだ…マイヤー先生!!オットーはヤレばできる子です!!
ロールパンに付いて歩き教室のダァー☆を開ける。
おう、特別教室はダァー☆ノブの形状まで高級だ。
開けたダァー☆をロールパンがお辞儀をして入る。
ココまでは訓練どうりだ…。
中に入ると教室の作りが違う。
凄い金の掛った作りだ。
上のほうの席はまるで親父の執務室に在るような机が並んでいる。
ソコに座る少年少女達は、さも当たり前の様に机を使っている。
おいおい、なんのパーティーだ?コレで勉強できるのか?
「ごきげんよう。メアリー・デービス様。今日の執事は随分と御健康そうな方ですね。」
笑う金髪縦ロール。こんなヤツ、ゲームにいたか?
「ごきげんよう。リリー・ランギーニ様。ご紹介します。コチラの方は、ハイデッカー家公爵三男。オットー・フォン・ハイデッカー様です。」
「オットーです以後お見知りおきを…。」
自分の肩に手を当てお辞儀する。
なめられているのは解かるので上半身をバンプアップする。
制服の下で皮下脂肪の中から筋肉繊維が盛り上がる。
ミシミシと悲鳴を上げる制服の繊維。
「ファッ!!コレは失礼しました!!ランギーニ辺境伯長女リリーです。お見知りおきを…。」
何故かビビる金髪縦ロール。
俺は何もしてないよな?
たしか、ランギーニ辺境伯は南の大湖に近い場所の領地で港町があり交通の要所で栄えているはずだ。
数代前の王様の弟が入り婿で入って王国領に編入された。
ソレまでは敵対していた国だ。
王国とは戦争で競りサッサと王国の支配下に入った非常に調子の良い邦国である。
まあ、民の被害を考えれば頭の良い支配者かもしれない。
金髪縦ロールはメイドとボソボソ話をしている。
”なんで、こんなバケモノが…。””お嬢様、…。宿敵の首切り公の末裔…。”
よくわからんが悪口を言われているような気がする。
何か家に因縁が有るかもしれないのでスルーだ。
「ではオットー様コチラの席にどうぞ。」
メアリーの隣の席を指定される。
「はい、ありがとうございます。」
随分と上の方だ。
教授の声聞こえるか?
しかし、ココのルールなら仕方ないので。
ロールパンが椅子に座るのを待って後ろの生徒に軽く挨拶をして、指示された席に座る。
椅子が悲鳴を上げる。
なんだ?この椅子小さいな…。
とりあえず強化しとくか…。
魔法を使って強化する。
他の机には水差しとコップが伏せてあるが。
俺の机の水差しは空だ。
まあ、従者がやる仕事だろう。
デブに水分は必須なのでクリーン魔法を掛けてから水差しに水を張る。
氷付だ。デブが汗掻くと鬱陶しいからな。
「あのオットー様その魔法は…?」
メアリーが訊ねてきた。
驚いている様子だ。
「ああ、生活魔法です。」
「いえ。そう意味では無く…。詠唱は??」
「要らないのでやりません。」
「魔法の発動には正しい発音と正しい魔力が必要なはずでは…。」
「そうなのですか?単純に”空気中”の水を集めているだけです。大したコトはしていません。」
「はあ?」
「ああ、”水蒸気”と申しましょうか?鍋を煮ると湯気が出ますね。アレを集めて水に戻しているだけです。」
「水が有るのですか?”KUKI”とは?」
しまった、面倒な話だ水銀柱実験から説明しないとダメなのか?
考えていると教師が教室に入ってきた。
というか、校長だった。
校長が教えるのか…。
まあ、見たまんまの魔法使いだからなあ。
「さて。みなそろっているね。」
教壇から教室を見渡す校長。
俺と目が合う。
軽く会釈する。
「ああ、オットー君、皆に紹介しよう。希代の魔法使いと言う噂のハイデッカー公爵家三男。オットー・フォン・ハイデッカー君だ。」
又噂か…。そんなに目立つ行動はしていない。ハズだが…。
紹介されたので席を立ち。挨拶する。
「オットー・フォン・ハイデッカーです。オットーとおよび下さい。」
微妙な拍手に迎えられ席に付く。
「さて、今日は質問形式にしよう。何か質問はあるかね?」
いきなり質問形式かよ…。
俺、参加できないじゃん。
まあ、良いだろう。
教室は静まり返っている。
誰も質問しない、オイ学生、やる気ないのか?
校長が口を開く。
「ではオットー君。キミは無詠唱で魔法を使っている様子だがどうやって無詠唱で魔法を発動しているのだね?」
ガーンだな。
いきなり吊るし上げを食らった気分だ。
「魔力を直接制御しています。」
「ほほう、その魔力の制御とは何だね?」
難しいコト言うなあ。
何て説明すれば良いんだ?
思わず首を捻る。
「解からないのかね?」
「いえ。何と説明すれば良いのか…。うん。よし、まず前提として、魔力はこの世界の空間にあるモノだとします。もちろん密度の濃さはある様子です。魔法が使える人間は外部の魔力を自分の使える形に変換して魔力を行使します。」
校長の眉間にシワが寄る。
「なるほど…。ではどうやって魔力を変換しているのかね?」
「個人によって違う様子です。恐らく自分の都合の良い様に変換しているのでしょう。コレを俺は”パターン”と呼んでます。」
「パターン?個人によって違うのかね?」
「そうですね、ただし。兄弟だと似ているので恐らく遺伝的なモノも有るかも知れません。魔力変換でき無い者も居ます。」
フェンデリック兄弟の魔力パターンは良く似ている。原因は生活習慣上かもしれない。
司書さんは訓練で魔力の制御はできる様子だが。魔力を変換する能力が無いだけだ。
「今まで見てきた魔法使いは、空間の魔力を自分の制御できるパターンに変換して、詠唱という制御を歌にして発動している様子です。失敗する原因は制御がいい加減だとか、自己の魔力のパターンの総量が足りなくなったりしている様子です。」
「キミが詠唱と言っているのは…。歌なのかね?」
「魔力制御のパターンが歌になってますね、いや、音律かな?発動タイミングをリズムにしている様子ですね。何度も詠唱を繰り返せばその分早く正確に発動できるのでは?」
「うむ。そのとうりだ。無詠唱の魔法使いは今までも居たが全て修練の上に出来上がったモノだ。」
まあ、細かくて難しい構成も制御も繰り返し練習で何とかなる。
頭と身体で覚える。
柔道の受身のようなモノだ。
「で、魔力と制御は別のモノとします。しかし両方揃わないと魔法が使えません。」
「なるほど…。ソレではパターンと言うモノは証明できるかね?」
「ただいま実験中です。恐らく俺のレポートの内容はそのあたりになるでしょう。」
「なるほど…。うーんコレは困った、では系統についてはどう説明する?」
「その、系統と言うのが俺には理解できません。まあ、魔力を運動やエネルギーに変換できるので。光りも炎も水も作れるのです。系統は個人の趣味の問題だと思ってます。」
両手を広げてアーク放電する。
俺に任せろ!!(バリバリ)
「個人の趣味…。ソレは雷撃なのかね?」
「はい、”電位"差を作っているだけですね。」
「”DENI”とは何かね?」
エボナイト棒をコスる所から説明しないといけないのか?
エボナイトってどうやって作るんだ?
ダメだ。記憶でも黒い棒にしか見えない…。
コレも忘れているのか?
「電荷とは物質や空間における電子の量です。低いほうに移動します。人間の目ではアーク放電しか見えませんが寒い日にドアノブで”パチッ”とするヤツです、雷はソレの強力なヤツです。」
見せる為の雷撃だが攻撃に使うのには目標まで電気回路を作らなければならない。
魔力チューブ内部を高圧高温にしてイオン化した抵抗値の低い空間回路を作る。
結構手間だ。
未だ真空にして電子マシマシにしたほうが楽なんだ。ただし。アーク光が紫色に成るが…。
困惑する校長。
「雷とドアノブを一緒にしてもらっては困るのだが…。」
「まあ、量はコップの水と大河ほど違いますから。」
「光りはなんとする?」
「俺の認識する光が、諸先生方の言う光と一緒とは思えませんが…。」
やって見た方が速い。
頭の上に灯りの魔法を使う。6500Kの灯りだ~。
「おおお、ソレは何の光だ?精霊か?」
何故か校長が興奮する、生徒置いてきぼりだ。
「いえ、タダの青っぽい白い光です。ちょっと下げます。昼間の太陽の明るさです。」
「キミは光の魔法を熟知しているのか?」
「いえ、コレはあくまで実験に基くモノです。今だ光が粒なのか波なのかすら解かりません。」
「波。粒。解かった、キミには何も聞くまい。ソレをレポートにしなさい。」
「ま、まあ、そうですね。研究が間に合えばの話です。」
なんかレポートの宿題だらけだ。
生徒全員置いてきぼりの午前の授業が終わった。
ココは一先ず撤退しよう。
「あの。昼食をご一緒にどうですか?」
モミアゲロールパンがぐいぐい来る。
ココは一つビシッと…。
「配下の者と内々の話が有りますので、ココで失礼します。」
「う~ん。ソレはオットー様の身の回りの方ですか?」
「はい、俺、個人の従者です。」
「では、御一緒しましょう。」
はい、ダメです。
ツンデレロールパンのノリが良すぎです。
「ふむん。少々、ソレは…。」
イロイロ考える。貴族の従者は誰から俸給を貰っているのかで対応が変わる。
契約社員が契約会社の客先契約内容で態度が変わるようなモノだ。
トラブルの香りがする…。
何故かイレーネとベスタの能面笑いを思い出した。
「申し訳ありませんが…。この後クランの会合が在りますので…。」
「はい。解かりました。では又次の機会に。」
大人しく下がるツンデレ。しかし。表情レイヤー的には笑顔に青筋が立っている。
コエー。ツンデレキャラが初っ端からデレだと。
ヤンデレか地雷にしか思えない。
「では、ごきげんよう。」
「はい、オットー様、また明日。」
ヤメテクダサイ…。




