120.エルフ
さて、錬金術で困ったら皆のアイドル、マイト先輩の出番だ。
ただし。コノ場の意味は偶像の方だ…。
明後日は半ドンなので魔法店に行けば会えそうだ。
どうしよう?急ぐ話ではない。
冒険者ギルドに”北の眷属”について警告を出すべきだが俺は未だ無印冒険者。
発言力が無い…。
効率良く対抗策を冒険者に浸透しなければ…。
情報を拡散させる方法…。
冒険者のコトは冒険者に任すか…。
時間が余っているので登校する。錬金術科に行けば何かアイデアが浮かぶだろう。
いや、今行くと何か提出物を押し付けられる。
と言うわけで…。午前の授業が終わるまで。
エロフのところに来た。
うん、目標は教員室に居るようだ。MAPに光点がある。
一人だけだ。好都合…。
ダァー☆をゆっくりノックする。
よし、ドアに向かってる。
「ダレ?」
少し空いたドアにブーツの先を突っ込む。
「こんにちは、オットー・フォン・ハイデッカーです。イネス教授お願いがあり参りました。」
「ヒッ!」
ドアを閉じようとするがもう遅い。足が邪魔して閉じられない。
力で部屋の中に押入る。
恐怖で表情が硬くなるイネス教授。
今日も美しい。何故か昨日よりツヤツヤしている。
笑顔で後ろ手でドアを閉め施錠する。
金属音が部屋に響くとイネス教授が身を震わせた。
「申し訳ありません。イネス教授、魔法書を見せて欲しいのです。魔物関係の図鑑と植物、薬草関係の魔法書はお持ちですか?」
「へ?」
「ああ、魔法書で無くてもよいのです。植物図鑑と魔物図鑑が有れば見せて欲しいのです。」
「え?それだけ?」
「はい。それだけです。他になにか?」
「いえ…。ざんね…。い、いえ。何でも無いです。今だします。」
昨日の激戦の舞台になったソファーに腰を下ろして待つ。
いいケツだ。
正にエロフだ。
ダークタワーから本を探すエロフの後姿…。
ココで襲っては話が進まない。散っていった戦友にも申し訳ない。
二冊の本を受け取った。
先ず魔物辞典を読む。
王国語で書いてある。
GUIに”インストールしますか? →YES NO”の表示がでた。
もちろんYESだ。
GUI表示に悪魔辞典と亜人辞典、そして魔物辞典だ。
本の中身をペラペラめくると挿絵からやはりゲームに出て来るモンスターばかりだ。
脳内辞典との差は無いようだ。
よし!!
コレでモンスターコンプリートだ。
この先、随分楽になるだろう。
次に、植物図鑑だ。
「うん?」
「どうかしましたか?」
「いえ…。」
おかしいな。GUIに表示されない。
植物の本はタダの本なのか?
「…これ以外の植物図鑑か薬草の本は無いですか?」
「え、コレしか無いです。一般書ですね。薬師が持っている物はもっと細かいらしいですが…。」
「そうですか…。」
毒消し草を収納から取り出し。
見比べながら辞典をめくる。
「オットーさん何を探しているんですか…?」
「ああ、この植物の正式名称を探しています、ギルドに依頼を出したいのですが名前が不明なのです。」
「あら?この植物。怪我の時の?」
「はいそうです。俺の国では怪我したり魔物に噛まれたりした時に傷口を水で流した後、揉んですり込む方法で使用していました。」
急ぐ時や水の無い時は口で噛んで唾と一緒にすり込めと言われていた。苦いので唾がよく出る。
「ココラ辺では森の中でしか生えない植物ですね?」
そうだな、森の中でしか見たコトは無い。
「はい、大量に必要なのでギルドに依頼を出そうかと。」
金を出して集るヤツが居るなら使い道も知りたくなるだろう。
銭が掛るが。まあ、別の方法で元を取ろう。
「エルフの里でも使っていたんですよ。冷やして乾燥させて粉にすると何時でも使えるんです。使う時には水で練って使います。」
「うーん。」
なるほどフリーズドライか…。
それなら薬として売れるな。生のままなら収納魔法で何とか成るが。
「このページのコレですね。」
教授が付箋をしめす。
開くとデフォルメした挿絵付きで名前と植生。用法が書いてある。
「このページを何枚か複写させてもらいます。」
「ハイどうぞ。」
エロフが机の上を片付ける。
光の魔法で手元を明るくして。
机を借りる、裁断した布とペンを取り出し複写する。
念の為3枚作っておくか…。
「あ、あの…。オットーさんは精霊魔法が使えるんですか?」
「いえ?使えません。」
「でも、この光りは精霊魔法ではないのですか?」
「いいえ?タダの灯りの魔法です。」
「灯りの魔法では、こんなに白い色は出せないのでは?詠唱は?」
「ああ、”光波”に青色成分が含まれるので白いだけです。詠唱は面倒なのでやってません。」
「”KOHA”?精霊魔法の灯りは白いのですがコレほど強い白では無いです。」
そういえば灯りの魔法の呪文は覚えて無いな。
2、3回、本を読上げながら発動したら動作が解かったのでソレ以来無詠唱だ。
精霊魔法か…。見たこと無いな。
「では、もっと、柔らかい色にしましょう。」
制御を変えて昼白色まで落とす。
蛍光灯の色だ…。蛍光灯?何だったっけ?
光を出すもののハズだ。確か灯りの魔法を改良する過程であの世界の光りを出す機械を元に…。
蛍光灯…。どんな形だった?
丸かった様な…。棒の形だった様な…。
HIDは解かる。車と言う乗り物の夜間の灯りに使われる…。
社用車に”主任”が勝手に取り付けて…。よく運転する”新人くん”が喜んでいた…。
”あかるいですね”、”そうだろ?夜、危ないからな。友人が買ったけど車にどうしても付かないから安く買い取ったんだ。車検対応だから、問題ないだろ?”
”ボクの机の上の蛍光灯が調子悪くて…。”、”ソレ安定器が悪いから、まあ、器具交換だな。”、”早くLEDにして欲しいですね、蛍光灯を交換するのボクなんです。”
新人くんが換えの蛍光灯を持って脚立に登る姿を思い出すが肝心の蛍光灯が黒くなって思い出せない。
記憶が欠損しているのか…?。
まて思い出せ。
前に灯りの魔法を使った時、ウサミミっ娘と草原を走った時は問題なかったハズだ…。
アレから何をやった?
気を失ったが頭は打っていない。記憶関係の魔法は使ってないハズだ…。だが本をインストールした…。
本をインストールすると記憶が欠損するのか?
そんなバカな…。俺は何を忘れているんだ?
「凄い…です…。こんな魔法が在るなんて…。」
目の前のエルフを見る。
ゲームの様な…、作り物の様な美しい女で耳が尖っている。
ゲームに出て来たNPCそっくりだ。
いや、はじめ見たときは寝起きだったから残念美人だったが今は凛として光を見ている。
眺めるコチラに気が付き、目と目が合う。
エルフの瞳の中の俺は酷く邪悪なモノに見える…。
エルフの尖った耳に触れる。
暖かい、本物だ…。
「あう。」
呟くエルフ。顔が赤くなっている。
ゲームの記憶はある、しかしあの世界の何を忘れたのかが解からない。
「イネス教授…。」
「あの、イネスと呼んで下さい。二人の時は…。」
「イネス、今度、精霊魔法を教えて下さい。」
「ハイ!」
笑顔のエロフにグッと来るがココは優先するコトが有る。
毒消し草のページの複写が終わる。
背筋を伸ばしているとエロフが声をかけてきた。
「あの、ご一緒にお食事でも…」
「申し訳ありません。学食で学友と取ります。」
「え?あの。」
「学園内で一緒だと噂になりますよ。よろしいのですか?」
「あう、あ…。」
顔が真っ赤のエロフ。
「今度、一緒に町で食事に行きましょう。出来れば夕食で。」
「は、はい。」
俯くエロフを背に教員室を出た。




