100.ランニングマン1
草原を走る俺。
もう既に日は落ちて辺りは暗くなっている。
唯一夜と夕日、空のグラデーションが足元を雲らしている。
そろそろ行くか。
「光よ。」
別に言わなくても良いけど。
頭の直上4mに光源ができる。
光を照らす魔法だ。
なぜか、生活魔法の光りは蝋燭の様な電球色だった…。たぶん3000Kぐらい。
良くわからんが炎の替わりらしい。光の強弱はできるが拡散光だ。
馬鹿馬鹿しいので光源波長を短くしている。
たぶん6800Kぐらい…、会社の天井の蛍光灯、いや車のHIDぐらいの青白い光りだ。
周りが明るく照らされる。
GUIを赤外線モードにする。
温度の高いものは赤くなる。
高温は白だ。変温動物は探知不可能だが心強い。
「娘、道を見失うな!」
「は、はい!!」
背負子に背負われるうさみみっ娘。
横座りしているような状態だ、肩に手を回している。
うん。良い感触だ。
ウェイの魔法を絶やす事無く走り続ける。
筋組織が炎症を起こしても疲労物質が筋肉に溜まってもヒールでムリヤリ処理する。
魔力とスタミナが切れるまで走り続けるぜ!!
順調に走り続けるが、遂に来た。
GUIに光点が現れた。
正面だ!
敵か味方か?
それほど大きくない。
この動きは狼だ。
光のリングを構築する。
夜間は利用する光量が少ないので威力が落ちる。
視界に狼の角膜の反射を捕らえた瞬間にGUIのレチクルを合わせる。
その場で倒れる狼。
一匹ゲット!!
止まらず収納する。
GUIには
”グレイウルフ ×1”
と表示が出た。
後で魔石が出るかと思ったが出ないようだ。
「今!何が起きたんですか!!」
「狼だ、倒した!」
「へっ?」
「まあいい。娘、前をしっかり見ていろ。」
「は、はい!!」
GUI上のMAPに高速で接近する光点が!!
ATフィールドに当たってウサギが潰れている。
棄てずに収納する。
”ボーパルバニー ×1”
ああ、ATフィールドはパッシブだからな。
自動発動した様子だ、危なかった。
対応する暇がなかった。
このタイミングか。
探知範囲を広く取るか…、しかし魔力の消費が上がるうえに精密射撃も甘くなる。
角膜の反射が前方に幾つか現れる。
たぶん狼より小さい。
ヒトではない。
そうか。魔物がコチラの光源を見ているから反射で見えるのか?
リングを構築。
数が多い。
GUIに光点が現れた瞬間に焼いていく。
命中した何かに引火して炎がおきる。
影からするとゴブリンの集団だ。
何か騒いでいる。
運悪く隊列の側面に出くわしたらしい。左右に集団が在る様だ。
止まらず構わず視界に入る目を全て焼ききる。
走り抜けると、離れた左右の集団にウォーターボールをメクラ撃ちする。
魔力チューブ無しの高圧高温水蒸気弾だ。
炸裂した熱風が頬をなでる。
息を止めて耐える。
恐らく中心は高温で蒸し焼き。拡散した蒸気を吸い込めば肺が火傷して窒息死だ。
ゴブリンごときは収納しない。
魔石を出さないからな。
しかし…。魔石落ちないな…。
途中その後、何度か狼の集団に出くわした。
リングで片付かない場合はファイヤーボールを連射した。
遠くに一面火の海だ。
荒野が燃えている。
お陰でGUIを赤外線モードが使えなくなった。
空が赤いが大丈夫だろう。
無人だからな。
”グレイウルフ ×82”
”ボーパルバニー ×5”
”トビウサギ ×12”
状態の良いモノしか拾ってないのでこんな物だ…。
しかし、未だ魔石はゼロ。
どうなっているんだ?
トビウサギの肉は旨いのでキャッチアンドキルだ。
腹時計的にはもう深夜だ、6時間ほど走っている。
「娘、今どれぐらい進んだ?」
「フーベル村の手前ぐらいだと思います。」
「そうか、一旦休憩しよう。こんな時間では村の門も開いていないだろう。
「はい。」
周囲に何も無い丘の上に陣取る。
背負子を下ろし、うさみみっ娘を地面に下ろす。
星が綺麗だ。
毛布を収納から出して娘に渡す。
俺は周囲警戒を最大モードにして毛布を敷いて地面に寝そべる。
息を深く早くして体内の二酸化炭素の放出を早める。
ウェイが途切れて疲労感が一気に襲ってきた。
ポーションを飲んでヒールで押し流す。
「あの。オットー様なぜ、こんな安い依頼を受けたんですか?」
安い?しまった。
魔物の殺戮と魔石の収集が嬉しくて金計算のコト何も考えてなかった。
「女が助けを叫べば手を貸すのが男だ。」
はい、誤魔化しです。
チャクラを最大に廻す。
体の老廃物が一気に分解される様な気がする。
そして憂う表情のうさみみっ娘の髪の流れに何故かドッカが疼く。
イカンだろ。護衛対象を襲ったら。
体操座りの娘のフトモモのラインが何故か眩しい。
パンと梨と肉串焼きを取り出して渡す。
「喰っておけ、先は長い。夜明け前に村に着くようにする。」
「あの、オットー様は?」
「ああ、後で食べる。問題ない。今、俺に必要なのは休息だ。」
喋りながら息を整える。
娘は毛布を自分の髪留めで簡易ポンチョにしている。
なるほど。髪留め便利だなそういう使い方が在るのか。
俺も買っておくか…。
ふと思う。
移動ポーンは使用者の行った場所に移動するアイテムだ。
ポーンを娘に使わせて移動すれば全てカタが付いたのでは…。
いやいや、ゲームは道程が大事なんだ…。
こういう地道なレベル上げとアイテム収集が…。必要か?
未だ魔石は入手出来ていない。
クソの様な狼ばかりだ。
ウサギの肉なんて旨いが安い。
俺、無駄な努力をルーチンワークしてないか?
うわー。
どうしよう?
ココでいきなりポーンで飛んだら台無しだ。
よし、最後まで押し通そう。
俺はギリギリ頑張っているんだ。
そうすればクライアントの満足度が上がるハズだ!!
向うの世界ではそうだった。
「結界を張っている…、少し休もう。落ち着いたら出発する…。」
「は、はい。」
足を高くしてブーツを緩める。
仮眠しているとうさみみっ娘に叩き起こされた。
「オットー様。何か起きました。」
「なんだと?何かとは…。」
娘の指差す向うの空に何か明かりが煌いている。
火事か何かだ、夜空を通る雑音は遠くに戦争音楽が鳴っている。
ケダモノ達の雄叫びだ。
「あの先は何がある。」
「たぶん。フーベル村です。」
「そうか…。何かに襲われているな。迂回路は有るか?」
「た、助けないんですか!?」
「ソレは俺の依頼ではない!!」
「そんな!ヒドイ!!」
「俺は冒険者だ、目的を忘れない、お前を目的地に送り届け王都に連れ帰るだけだ。」
「あの村には私の叔父さんが!!」
「良く考えろ、何が必要で何が重要なのか。その上で話せ。」
「あああああ。」
地面の小石を幾つか拾いポケットに入れる。
「良く考えろ…。」
「オットー様。追加依頼です、あの村の人たちを救ってください。」
「解かった。努力はする。」
ブーツを閉めなおし、娘を背負う。
「ウェイ!!」
力がみなぎる。
「ゆれるぞ!!しっかり掴まっていろ。」
「はい!!」
丘を駆け下りた。
(´・ω・`) ボツネタ。
ゴブリンA「ぎゃぎゃっぎゃっつ」(何だ!巨人が!!)
ゴブリンB「ぎゃぎゃぎゃぎゃっぎゃ」(2m級奇行種だっ!!)
ゴブリンC「ぎゃぎゃぎゃっぎゃ」(散開して包囲しろ!心臓を捧げよ!!)




