ぼんじり串
なにこれ、なにこれ。
突然の展開に頭はパニックになる。
だって無理だよ。無理無理無理。
2人で会うのなんていつ以来だろう。
思い出して緊張とドキドキが高まる。
ーーー別れを告げられたあの日以来だ。
あれから1年半、か。ーーーー
ーーーー元彼のKとは3年半付き合った。中学の同級生で当時はたまに話はするものの恋愛感情は全く無かった。
高校3年の夏頃、バイト帰りにばったりKに会った。彼は私のバイト先近くの飲食店でバイトをしていたようだった。その日は昔話に花を咲かせながら一緒に帰った。家の前まで送ってくれて、また一緒に帰ろうよ、彼はそう言って立ち去った。
そこからバイト終わりには一緒に帰るようになった。
夏休みに入ると翌日の事なんて気にしないで、公園で話しながら朝まで過ごした事もあった。自転車で何個も先の駅まで走りながらたわいのないことを話したり、真夜中の小学校の校庭に侵入して遊んだこともあったっけか。
そんなある夏の終わり、いつもの様に公園でたわいのない話をしていたら、告白してくれて付き合うことになった。ーーーーー
当時を思い出して思わず笑みがこぼれる。あの頃は純粋に楽しかった。何もかもが新鮮で毎日が輝いていて。お互い初彼初カノだった事からこの人と一生を共にしたいだなんて本気で願っていたものだが、そう思っていたのは私だけだったのかもしれない。結局、他に好きな人が出来たと振られてしまい、私の3年半の大恋愛は終了した。最後の最後に泣かずに、縋らずに別れを受け入れたのは私なりの最後の優しさのつもりだった。きっととやかく言うとKは困ってしまうと思ったから「好きな子と頑張ってね。」なんて思ってもない事を笑って伝えて別れたんだっけ。
今日は地元の友達が飲み会を開くとのことで楽しみにしていたが、天気が大荒れで交通機関はほとんど使い物にならなかった。電車組のメンバーが全員足止めを食らっているとの連絡を受けた私は、幹事からのラインの一言に目が止まる。「Kは間に合うはずだから二人で先に合流しておいて。」
Kに会うのはあれ以来だ。どうしよう、いきなり二人でなんて無理だよ。無理無理無理無理。そんなこんなで待ち合わせの時間が近づく。
待ち合わせ場所を遠目からこっそり確認すると、見慣れたはずの姿。大好きだった、Kがいた。キョロキョロしてるけど向こうも落ち着きがない。体温が上がる。色々な感情が押し寄せてくる。緊張とドキドキでどうにかなってしまいそうだ。でも........。
私はKの元へ向かって歩き出した。
「K!久しぶり!」
何でもないような表情と声色で話しかける。
「おう、久しぶりだな。」
当時と変わらない、いや、少し大人っぽくなったKに思わずときめく。
「参ったよなぁ、皆遅れてくるなんて。」
「本当だよね!」
「先にお店入ってようか。」
「雨すごいし、そうしよう!」
居酒屋に入ってメニューを眺める。やっぱり最初は空気読んでビールかなー。あ、大好きなぼんじり食べたいなぁなんて考えていた時、「自分が好きなの飲みなよ?」「ぼんじり好きだったよな?頼もうぜ!俺らよく家の近くの焼鳥屋行ってたよなぁ」とまるで見透かされてるように言われる。三年半も一緒にいたんだ。もう何もかも分かられてて当然だ。そしてやっぱり気を使わないし、居心地の良さは抜群だ。別れてしまったけれど私は嫌いになったわけではないし。嬉しさと切なさで胸が苦しい。
乾杯をして、お互いの近況報告をした。時折なかなか皆来ないなぁなんて時計を気にする素振りをしながら、何処かでもう少しこのままが良いなんて思ってしまっている私は最低だろうか。お互いほろ酔いになってきた時、Kが口を開いた。
「俺さ、本当はずっと後悔してたんだ。今日だってこうやって笑って話せるのが夢みたいで。あの時の俺は自分勝手だったから、きっとすごく傷つけてしまった。今更合わせる顔なんてないってずっと思ってた。自己満足かもしれないけど、この飲み会のタイミングでもう一度会えて、嬉しい」
ポツリポツリと出てくる突然の本音に動揺した。
そんな事言わないで....もう止めて。
「あの時は本当に申し訳なかったです。すみませんでした。」
頭を下げるKを見て、何とも言えない気持ちになる。駄目だ、泣いてしまいそうだ。
「私は大好きだったよ。」
絞り出した声で言うのが精一杯だった。
Kが困惑した表情を浮かべる。
これから問い詰められると思ってる?
あの時の分まで怒られると思ってる?
まだ未練引きずってるって思ってる?
言いたい事はいっぱいある。
あの時言えなかった感情も、そしてずっと好きだったという事実も。馬鹿。本当に馬鹿。こんなタイミングで勘弁してよね。
「でも私はもう大丈夫だから!立ち直ってるし!彼女いるんでしょ?大切にしなよ!」
嗚呼、1年半前と同じ。
Kの困った顔を見るのが余計に辛いから、心にもない事を笑って言ってしまうんだ。それでもKはまだ困った顔をしている。ずるいなぁ。本当にずるいなぁ。私の強がりも、ちっぽけなプライドも、本当の気持ちも全部見透かされてる気がして、目を反らせない。
「言ってなかった、俺もうあの子とはーーーー」
END