その怒りは……
出現したのはビー玉サイズの小さな黒い球だった。
その能力はすぐに明らかになる。
跳びかかろうとしたため空中にいたゾンビ犬たちが目標であるマコトまで到達せず、地面に叩き落とされたのだ。
超重力領域の形成。
それが黒球の能力の第一段階。
領域に捕らえられた者はもはや逃げることはおろか指一本動かすことはできない。
領域に捕らわれ、地に落ち、動きが取れなくなったのはゾンビ犬だけではない。
木の上から様子を見ていたサルの群れ。
その周囲にいる様々な種類のアンデッド。
たまたま頭上を通りがかった鳥。
その全てが大地に叩き落とされた。
この状況にサルたちは恐怖の悲鳴をあげていた。
低位のアンデッドであるゾンビ犬には意思などなく、墜落した鳥は地面に叩き付けられた衝撃で即死だ。
悲鳴を出せるのは彼らだけ。
そのサルたちにとって、この状況は予想外だった。
彼らはネクロマンサーモンキー、位階は四位。
その鳴き声は死霊を呼び、彼らはそれを操ることが出来る。
ゾンビ犬は死霊を遺体に憑依させることにより、彼らが生みだした物だった。
自分たちは高みの見物を決め込み、狩りは死霊たちにやらせる、それが彼らの手法だ。
彼らの失敗は二つある。
一つ目は狩りを死霊に任せっきりにしてしまったこと。
これが原因で、敵の力を測る能力が退化してしまったのだ。
もう一つは自分たちの力を過信して、近づきすぎたこと。
故に、超重力領域の範囲内に入ってしまった。
この二つの大元の原因は知恵を付けてしまったことだ。
知恵があったからこそ過信し、知恵があるから危険察知という本能を発揮ができなくなってしまったのだろう。
黒球の力はこれで終わらない。
黒球は徐々に高度を上げ、10メートルほどの高さまで到達すると、力の発現は次の段階に移行した。
地面に縫い付けられた者たちが徐々に球体に吸い寄せられていく。
始めに吸い寄せられたのは鳥の死体だった。
それが黒球に触れた瞬間、死体が消えた。
その光景を目の当たりにしたサルたちは最後の力を振り絞り、抵抗を試みるが、それはまるで意味をなさない。
一匹、また一匹とゾンビ犬とサルたちは黒球に飲まれていく。
最後に残った一回り大きいサルとそのサルが複数の遺体を繋ぎ合わせて作ったアンデッドキマイラと呼べる存在だけだ。
二体は飲み込まれないように、木や地面にしがみついていたが抵抗むなしくそれごと吸い込まれていった。
黒球はその後も周囲の木々や土などを吸収し、残ったのはマコトだけだった。
理不尽……この惨状は表現するにはそれが一番の言葉だ。