呼び声
事の始まりは夕食を終えた時だ。
少し離れた場所から甲高い鳴き声が聞こえた。
その明らかに狼類とは違う鳴き声を耳に入れた瞬間、身の毛がよだつような感覚した。
まるで黒板を爪でひっかいた音を聞いた気分だ。
あまりの不快感に身悶えていると突如、右翼を何者かに噛みつかれた。
バカ犬の時と違って、その牙は俺の体に突き刺さる。
痛みで顔が引き攣るが、大きく翼を動かし、それを振り払う。
久しぶりの痛みで驚いただけでダメージ自体は大きくない。
一応ステータスを開いて確認したけど、体力値は一桁しか減ってなかった。
周囲から無数の足音と唸り声が聞こえる。どうやら囲まれたみたいだ。
どこから現れたんだ?近づいてくる音は一切聞こえなかったのに。
考えるのは後だ、こいつらをどうにかしないと。
気合を入れるためにお腹に力を入れて咆哮上げた。これは威嚇も兼ねている。
気合を入れるのは成功したが、威嚇は効果がなかったようで、奴らは逃げ出すことなく今も俺の周囲にいる。
その内の一匹が雄たけびを上げると、それを合図にこいつらは一斉に跳びかかってきた。
両翼を振り、何匹かは落とせたが、数が多すぎる。
撃ち漏らした奴らが俺の全身を噛みついてきた。
上等だ!全員蹴散らしてやる!
それから20分ほど掛かったけど、全て倒すことに成功した。
バカ犬よりは強かったけど、大したことはない。
これで一安心だ。
そう思っていたら、再びあの甲高い鳴き声が響いた。
足元からもぞもぞと動く音が聞こえる。
足元だけではない、その音は360度から聞こえてきた。
それから数刻もしない内に再び獣の唸り声が響く。
おいおいまだいるのかよ。いいよ、また蹴散らしてやるさ。
☆
疲れた……早く寝たい。
襲撃が全く終わらない。
かれこれ何時間戦い続けているんだろうか。
間引き子の敵寄せ効果があったとしてもこれはおかしい。
思い当たる節はある。あの甲高い鳴き声だ。もしかしたら、あれがこいつらを引き寄せているのか?
だけど、いくらなんでも多すぎる。
最低でも300は倒しているはずだ。
何か種があるはずだ。それを見破らなければやられる。
現在進行形で噛みつかれているが、ダメージは少ないし振り払うよりも思考を優先しよう。
まずは情報収集だ。感覚を最大限まで研ぎ澄ませる。
初めは聴覚だ。耳を澄ませても周囲の音で気になる物はない。
予想通りの結果だ。聴覚は常に最大限活用しているのだ。
次は触覚。これも特に気になるところはない。
そして、嗅覚。周囲に漂う匂いを嗅ぐ。
草などの植物の匂いにまじって変な臭いがした。何だこの臭いは。
もっと思い出すのおかげですぐにその臭いの正体を思い出せた。
これは肉の腐臭だ。だけどおかしい。腐らせてしまった肉は地中に埋めているはずだ。
まさかこいつらって……
だが、まだ確信はできない。
確信を得るために最後の味覚を使おう。
一番強い匂いがする奴に喰らい付き、その肉を口に含む。
まずい!
思わず、その肉を吐き出してしまった。
やっぱりそうか。こいつらは死体。ゾンビだ!