誰よりも変態でありたい
1
私は変態である。誰よりも、変なことを考え、それを実行に移すことができる。また、常にひそひそと生きて、いやらしく生きることができる。誰も私を超えることはできない。誰にも負けることはない。そう、私は素晴らしい変態である。そうだ、私こそが、「史上最強の変態」である。
2
私は変態である。ある日、私は町で一人の変態と出会った。その変態はとても人を怖がる変態だった。その変態は私にこう話した。
「私は人が怖い。人に嫌われるのが怖いのだ。でも、人と一緒にいたい。一人は寂しいのだ。だから、私は人に嫌われずに一緒にいる道を目指した。そう、私は限りなく足音を消すことができるのだ。これで私は嫌われずに人と一緒にいることができる。私はもうこれで『一人』になることはないのだ。」
私はこの変態を心から凄いと思った。確かに彼の話に私は共感することができたからだ。でも、ここで引き下がるような私ではない。私にだって一人の変態としてのプライドがあるのだ。負けるわけにはいかない。私はこの変態に勝つため、足音を消す修業を始めた。そして私は足音を消すことができるようになった。そう、私はこの変態に勝ったのだ。この変態は最後にこんなことを言った。
「お前は私を超える変態となった。これでお前はもう、私ほど、一人になることはないだろう。」
3
私は変態である。ある日、私は小さな公園で一人の変態と出会った。その変態に私は触れることができなかった。でも少し時間をおけば、触ることができるようになった。やがてその変態は私にこう話した。
「私は人にずっと、汚いと言われ続けてきた。ずっと嫌がられて生きてきたのだ。だから、私は人に迷惑をかけないように生きようと思った。そう、私は触れない人間になることができるのだ。これでもう誰にも嫌な思いをさせなくていい。もう人に迷惑をかけずに済むのだ。」
私はこの変態を凄いと思った。この変態の言うことを理解することができたからだ。だが、ここで身を引くような私ではない。私にだって一人の変態としての誇りがあるのだ。
このまま終わるわけにはいかない。私は触れない人間になるため修業を始めた。そして私は触れない人間になった。私はこの変態をも超えることができたのだ。この変態は最後にこんなことを言った。
「君は私を超える変態となった。これで君はもう、私のように、人に迷惑をかけることはないだろう。」
4
私は変態である。ある日、私は大きな木の下で一人の変態と出会った。その変態は私に対して何かを話していた。でも、何を話しているのかわからなかった。だから、その変態は、紙に何かを書き始めた。私はその紙を受け取って、そこに書いてある文字を読み始めた。
「私は思ったことを口に出せなかった。人に『空気が読めない』と言われるのがとても怖いのだ。私はもう話したくない。ここまで周囲を考えて言葉を話すのは嫌なのだ。だから、私は私が話したことが、人に聞こえないようにした。そう、これで私は私の好きなことを話せるようになったのだ。もう誰の目も気にしなくていい。私の言いたいを好きな時に言うことができる。私はもう、素直な思いで、言葉を話すことができるのだ。」
私はこの変態から凄い何かを感じた。もはや、尊敬に値する思いであった。だが、私だって変態だ。幾多の凄い変態を超えてきた変態中の変態である。こんなところで負けるわけにはいかない。私は話したことが人に聞こえなくなるように、修業を開始した。そして私は、私の話したことが人には聞こえないようになった。私はこの変態と同等の力を手に入れたのだ。この変態は最後に私にこう言った。
「お前は私の技術を完全に我が物とした。そして、お前にはその他にも多くの変態としての力を持っている。もはや私はお前を超えることはできない。お前こそが真の変態だ。」
5
私は変態である。ある日、私は都心の路地で一人の変態と出会った。だが、私はこの変態を見つけることができなかった。しかし、声だけは聞こえてきた。その変態は私にこう話した。
「私は人に見られるのが嫌だった。ブサイクな顔を、人に馬鹿にされるのが怖かったのです。だから、私は人が私を見ることができないようにしました。姿を無くしたのです。これで人の目を気にしなくていい。私はもう、馬鹿にされる心配をせずに生きていくことができるのです。」
この変態は最強クラスの変態だった。これまでの変態と比べても頭一つ抜き出ているだろう。だが私だって変態だ。最強クラスの変態まで上り詰めた変態なのである。ここまで来て逃げるつもりはない。私は姿を無くす修業を始めた。そして私は姿を無くすことに成功した。私はこの変態すらも超越したのだ。この変態は私にこう言った。
「あなたはこの能力も、自分の物にしました。もはや、この私ですらもあなたの相手にはならないはずです。あなたを超える変態はもうこの世にはいないでしょう。あなたこそが史上最強の変態です。」
6
私は変態である。こうして私は「史上最強の変態」となった。しかし私は足音と、触る感覚と、声と、姿を失った。誰にも気付かれず、誰とも触れ合えず、誰とも話せず、誰にも見られない存在となっていたのだ。もはや私は人ではなかつた。人というものからまったくかけ離れた「何か」となってしまったのだ。私はいったい何を求めていたのだろう。いや、何を怖がっていたのだろう。私にはわからなかった。ただ、私のもとにはもう何も残っていない。