Falling Down for Braver
「な、なんなのだこの有様はッ!?」
「やあ、元帥。久しぶりだ。何時ぶりだったかな」
「お前さんの仕業か……? なぜこんなむごいことをッ!」
「むごい? 何を言っているんだか。権力なしでは何もできないアンタ達、元老院の老害の方々を、皆様お得意のようにふんぞり返っていた椅子にしっかりと縫い付けてあげたというのに。むしろ感謝して欲しいくらいさ。アンタ達が汚い手を使ってでも守ってきた席にこうやって居座り続けさせてやってるんだから」
「お主は私たち元老院に協力する立場にあったはずだ。なのになぜこんなことを……」
「ああ、もちろんさ。だから俺は協力した。それによって俺の〝仕事〟は終了。この世界にいる必要性も無くなった。普通ならとっくにおさらばしてるはずさ、こんな世界とは」
「では、なぜッ――――!?」
「単純さ。もう疲れたのさ、この仕事に」
「疲れた……? そ、そんなよくわからん理由で私たちを殺すのかッ!?」
「もちろん、それだけじゃない。アンタ達の汚い裏側を見たのも原因さ。身に覚えはあるだろ?」
「そんあものはないッ!」
「自覚はないか……。なおさらアンタを生かしておけないな。まずはそこの偉そうだったハゲが統べる国だ。今は禿げた頭すらないけどな。砂漠の中心にあるその国は、その過酷な環境にも関わらず、地下水脈からの湧き水や、その環境下でのみ育つ作物の輸出で生計を立てることで結構大きな国へとなったようだが、そこのハゲが頂点に立ってからはどうだ? 砂漠での水の確保が一番大切だという足下を掬って井戸から水を汲むのにバカみたいな税金を設定し、砂漠で育つ作物の輸出にも莫大な税金を設定して国民から金を搾取した。結果、国民は手取りを多くするため輸出する作物の値段を高くし、それにより行商人は減って物の供給が少なくなり、物の価格だけが上がった。俺が訪れた時は酷かったな。旅人には縋り付いてくるし、物を盗むのもそこら辺で平気で起きてた。無法地帯だね、ありゃ。それなのに国のトップに立っていたそのハゲは何もせずに、宮殿の中で優雅に暮らしていたわけだ。あまりにも酷すぎると思わないか、元帥?」
「た、確かにそれは私も問題視していたことだ……。しかし、――――」
「言い訳はいらない。次はそこの偉そうなヒゲのおっさんが治めてた国だ。さっき言った砂漠とは違って、一面を砂じゃなく雪に囲まれた北国だ。あそこはレンガ造りの街並みで、真っ白な雪と茶色いレンガの組み合わせはとても綺麗な風景だったよ。ただし、貧困層を除いてはな。あの国は裕福な層にしか人権がなかった。国の入り口近くは貧困層のスラム街さ。富裕層の住む街の内側と貧困層の住むスラム街の間には高い壁と柵、さらに見張り。しかも外は強いモンスターが沢山いるっていうのに、スラム街から外側には特にモンスターの侵入を防げる壁もない。そこら辺でモンスターが暴れまわっていた。被害のない日なんてなかった。それなのに、そこのヒゲはその現状にに見向きもせず、それどころかスラム街の人間を人間扱いすらしなかった。それが許されると思うか?」
「それは……」
「いや、いい。何も言うな。まだ話すことはある。次はそこの寡黙な男だ。死に直面するとうるさいくらいに喋りまくってたから喉を潰してやったが、まあ、それはどうでもいいか……。そいつの治めていた国は、ハゲやヒゲみたいに国民に貧困の差はなかった。しかし、この男はある意味一番どうしようもない奴だったと思うよ、俺は。こいつはバカみたいな戦闘狂だった。意味もなく、魔族の国に攻撃を仕掛け、全て――――そう、命、金、物、全てを奪っていった。暴虐の限りを尽くした。元帥、アンタは魔族をなんだと思っている?」
「それはもちろん、我々人間の敵だ」
「あはははは、偉そうにふんぞり返るだけで、周りの世界を見ない、自分の考えと知識が世界の全てと思っている。そんなんだから老害なんだよ、元帥」
「なんだと……?」
「アンタの前の世代の元老院のおっさんたちは魔族をそういうものだと教えたみたいだが、魔族も人間も同じさ。彼らも人間と同じようにコミュニティを形成し、人間と同じように大切な存在と愛を育み子を育てる。違うのなんて生まれ持った魔力と見た目ぐらいで、それ以外は人間と何も変わらない。それなのに、人間は魔族を恐れ、敵視した」
「そんなことはない! 奴らは実際にこちらへと攻めてきているではないか!」
「人間側から攻めておいて、その言い草はないだろう? 攻撃されたら仕返ししようと思うのは魔族だろうと人間だろうと一緒さ」
「い、いや、奴らは危険な存在だ! モンスターを操る能力を持っている! あんな危険な力を持っていて放っておくことなんてできるか!」
「何かと言い訳を付けたいみたいだな。そうかそうか。なら、無知の元帥にいいことを教えてやるよ」
「いいこと……?」
「ああ。そこの女だ。おいおい、目をそらすなって。言われるまで女と分からなかったか? まあ、いいさ。そいつは海辺の近くに国を構えていたな。海が近いこともあって船での貿易が盛んだったが、アンタは何が取引されていたか知っているか?」
「それは、様々な食物や資材というのを彼女に聞いていたが……」
「アッハッハッ! こんな無知が、この世界の中心となる国を治めているなんて聞いて飽きれるぜ。そんなんじゃ部下に舐められるのも仕方のないことだな。まあ、部下なんて意識を持ってるヤツがいたかすら怪しいけどな」
「なんだと!?」
「そこの女はアンタに嘘をついていたんだよ。そいつの主な取引物はモンスターさ」
「そんなバカな――ッ!?」
「残念ながら事実さ。その女は、アンタたちの国民が恐れているモンスターの子どもや卵を売買して金儲けしてたのさ。もちろん食料とは別でちゃんと生きているヤツをさ」
「なぜそのようなことを……」
「アンタはモンスターもまともに見たことがないだろ? 確かにモンスターは獰猛で人間を死へと至らしめるほどの強力な力を持っている者もいる。しかし、それもまた一部さ。この国にだって犬や猫がいるだろ? モンスターも一緒さ。幼いころから躾ければ懐くし、ペットにもできる。魔族にも人間にもな。違いなんて育ってきた環境だけさ。例え犬であっても、野犬だったらアンタたち人間は恐れるだろう? 凶暴だとか汚いだとか。それだけの違いでしかないというのに、それなのにアンタはモンスターも絶対的な悪の存在とした。すべてのモンスターは獰猛で、魔族と手を組んで人間を滅ぼそうとしていると。本当に……憐れな存在だ。そこの女のほうがよっぽど賢い。まあ、その女はモンスターを高額で売り捌いた上に、扱いが酷かったからその罪を償ってもらったけどな」
「お主はなぜ、世界を巡り、その状況を目にしておいて、魔王を討ち取ったのだ……?」
「言っただろ。〝仕事〟だからさ。助けを求められたら例えそれがどんな存在であっても救わなければならない。それ以上でもそれ以下でもない。絶対にやらないといけなかったことってだけさ」
「ならば我々を殺す必要はッ――!」
「何度も言わせるな。もう疲れたんだよ、この〝仕事〟に。救う価値のない存在だと分かっていても救わないといけない。そうしないと俺が永遠に世界に囚われたままだ。だから俺は仕方なく、これまでに何度も助けてきたんだ、お前らみたいな腐った連中を。でも、もうそれも限界だ。どうせ腐った連中が生き続けたところで、世界が良くなる保証なんてまったくない。それに、〝俺が救わないといけない世界〟に終わりはこない」
「お主は何を言っているのだ……?」
「ああ、わからなかったか。じゃあ簡単に言ってやる」
「俺は……。この世界を最後に〝勇者を辞める〟。今日から俺が、この世界の王……。〝魔王〟さ」
「――――ッ!!」
「そういうことだ。長年付き合ってきた腐った〝システム〟とはおさらばだ。じゃあな。世界が救いたいなら他の勇者を連れてきな」
『…………………………』
「さて、元帥。この世界を統べていた、腐った人間で残っているのはアンタ一人だけだ。何か言いたいことは?」
「頼むっ! 殺さないでくれっ!」
「腐った人間に相応しい一言だ。でも残念ながらアンタには死んで罪を償ってもらう。知らなかったじゃ済まされないことが沢山あったのにも関わらず、アンタはそれらに気付けず、世界を腐らせた。その命をもって償え、元帥」
「や、やめ――」
「知ってから後悔しても遅い。……俺と同じでさ」
「世界は今や俺のものだ。時間はいくらでもある。……世界を変えるには十分すぎるほどの時間がな」




