異世界チート戦記……はさすがに無理だった
活動報告で書いた「チート戦記やろうとしたら条件付で絶望」を短編でやってみました。
「壮観だな」
私は、自分の目の前に広がる光景を見て感慨に浸っていた。
「やっとここまで来たな」
「ですね、閣下」
この世界に来て以来世話になっている、さらには初めて召喚した人間の一人である副官の言葉に、私はウンウンと頷く。
5年前、この世界から見て異世界の国である日本から、私はこの世界へとやってきた。日本ではいわゆるミリオタな大学生だった私は、ネット上の小説サイトにある異世界戦記ものも大好きだった。
異世界戦記の定番と言えば、近代兵器で魔法と剣と槍の世界で大活躍する話。近代兵器大好きな私としては、近代兵器が魔法を圧倒する話は壮観の一言だった。
そんな話の主人公に自分もなれればな~と言う適う筈もない願いを呟いたあの日、突如大学帰りの私の目の前に全身黒ずくめのスーツ姿の男が現れた。
その男曰く、「本当に異世界に行って君も戦ってみないか?」
もちろん、そんなこといきなり言われて信じるほど私もバカじゃなかったけど、とりあえず冗談で「出来るならやってみたいですね」と言い返した。
すると男は「ではお望みどおりにしてあげよう。ただし、ハンデがなければ面白くないだろう」と言ってきた。これが曲者だったんだけど、その時の私はあまり気にせず。
「そうですね」と言ってしまった。
そして、異世界へ行って兵器を召喚して天下無双のチート戦記をやる……と言う話にはならなかった。行かされてからようやくハンデについて知らされたんだけど、そのハンデと言うのが召喚できる兵器に制限があること。しかも、その召喚できる兵器の多くがマイナー兵器や凡作兵器、さらには欠陥兵器であること。しかも、最初の段階ではそれらから数種類ずつしかチョイス出来ず、自分でレベル上げ(戦いに勝利したり領土を拡大したり)しなきゃ種類を増やせなかったこと。
いやあ、もう本当に大変だったな。最初の頃召喚できた兵器って言ったら、銃は明治時代の三十年式小銃とか、誰が知ってるの?的なイ式小銃とかだったし、戦車も豆タンクのガーデンロイド系のタンケッテや92式装甲車で本当、絶望した状態だったし。
慰めと言えば、それら兵器を操縦する兵士はちゃんと使いこなせる士官から兵までセットで召喚できたこと。これがなかったら、マジ死んでたよ。
で、とりあえず最初に出せる兵器と兵を使って、拠点となる村を占領した。幸いだったのはこの異世界は魔法なしの槍と剣の世界で、しかもその村を占領していたのも暴虐な領主だったから、こっちを解放軍として迎えてくれた。
そこから少しずつ版図を広げて言ったけど、大変なのはそこからだった。補給路の確保や民生面での施策は戦闘以上に苦労の連続だった。特に民生面は占領した村々の人々を食わして、生活レベルあげなきゃいけなかったし。
兵站路だって、こっちがトラックとかジープを召喚できるようになるまでが大変だったし、召喚できるようになってからも、敵がこれを狙ってくるから貴重な実戦部隊から割かなきゃいけなかったし。
どこの戦略ゲームだよこんちくしょう!
それでも救いだったのは、兵器に比べて炊具や工具の類の召喚条件はかなり緩かったこと。だから最初のころは随分と工作機械や工作者、工兵を召喚したな~。おかげで自前の工廠も持つことが出来たし。鉄道とかのインフラ整備も進められたし。
飛行機も最初はニュー・ポールとか甲型戦闘機とかの第一次大戦時の複葉機しか召喚できなかったけど、レベルアップしてF2Aとか98式軽爆とかの単葉機が召喚出来た時はマジ泣けた。
軍艦も最初は小型の水雷艇や特殊潜航艇、モニターみたいな艦しか召喚できなくて、レベルアップして三景艦や海防戦艦と段々大きな艦を獲得して、ようやく「扶桑」を出せた時はやっぱりマジ泣いた。
この頃には占領した領土も国って言える位の規模になって、工廠や造船所を作って戦闘機や軍艦も幾らか自前で造れるようになったし。
自軍の規模を拡張して、ジワジワと進軍しながら兵站線を固めて行きながらで時間は掛かったけど、ようやく一番厄介だった王都を臨む所まで来た。
その王都攻略を前に、攻略軍は最後の出撃準備に余念がない。M26重戦車にニムドッロ対空戦車、一式装軌車に1式自動貨車。小銃は五式自動小銃にSKS自動小銃。
航空機はフィンランドのミルスキー戦闘機にTBYシーウルフ、百式重爆呑龍を装備している。
艦艇は空母「グラーフ・ツェッペリン」に戦艦「ジャン・バール」重巡「伊吹」に「松」型や「フラワー」級。
まあね、最初の頃よりは遥かにマシになったけどね、本当にスゴイラインナップだよ。それでもロマン求めて第二次大戦前後の兵器でなんとかまとめきった自分の手腕には、本当に自分で自分を誉めてあげたいよ。
いやもちろん、自分の力だけじゃないよ。召喚できるのは兵器とそれを操作するのに見合うだけの兵士に加えて、レベルアップすれば司令官や参謀が務まる高級士官も召喚出来たから。彼らがいてくれたおかげで、今まで戦ってこられたと言っても過言じゃない。
「閣下、時間です」
「うん、ありがとう」
閣下。それがこの世界での私の呼称。リアルはまだ二十代の自分がこう呼ばれるのは正直恥ずかしいけど、私が全軍の指揮官と占領地域における国家の代表であるのは違いない。
私は全軍に放送が行き渡るようにセットされたマイクを持つ。呼吸を整え、言葉を紡ぐ。
「全部隊に告げる。私は総司令官だ。これより我々は最後の攻勢に打って出る……この戦いに勝利すれば、事実上この戦争も終わることになる。皆今日までこの不出来な総司令官のもとで戦ってきてくれた。私は、本当に本当に感謝している」
いけない、今日までのことを思い出して目頭が熱くなってきた。様々な苦労もした。仲間を失ったこともある。特に自分の楯となったり、殿とナなって死んでいった人の顔を思い出すと、余計につらい。
「閣下」
「すまない。皆、死ぬんじゃないぞ。こんな詰まらない司令官に召喚されて扱き使われるだけなんて最悪だろ。皆生き残って、この世界で生きていこう!」
「「「おー!!!」」」
部下達の歓声に、私の心に自信がみなぎる。
「ようし、全員乗車!」
既に車両に乗っている者はそのままに、降車していた者は車両に乗り込む。
「出撃!」
御意見・御感想お待ちしています。時間さえあれば、これを長編でやりたいんですけどね。