下準備 08
そう言ってアキトは少しだけぎこちない手つきで番号を入力し、どこかへ電話を掛け始めた。電話があるといってたが、死世界は一体どんなところなんだろうか。電話で誰かとやり取りをするアキトをぼんやりと見つめつつも、先ほどの公園での光景を思い出してみた。公園の外の住宅街が田んぼのあぜ道に変わっていたこともあり、鬼みたいな異形がいる世界って言われるとなんとなく古臭いイメージを思い浮かべる。しかし、コガラシの服装に違和感を感じなかったことや、電話があることからちょっとそれも違う気がする。
「――じゃ、それでお願いします。坂月くん電話ありがとう。助かったよ」
一体どんな世界なのだろうかと考えがまとまる前に、アキトは電話を終えたようだ。
「身体貸すよりも簡単だから気にするな」
「確かにそうだな」
俺がそう返すとアキトは笑いながら同意しつつも軽く伸びをした。そういえば、俺の身体は運動部仕様とかじゃないけど、あんな立ち回りをしていて大丈夫なんだろうか。ついでに言うとそろそろこの時間ならお腹がへる時間だよな。
「この後どうするんだ? なにもすることがないなら、なんか食べるか?」
カップラーメンも常備されているし、冷凍庫にはチャーハンとかの冷凍食品があった気がする。
「そうだな……それも魅力的だけど、坂月くんが俺からあまり離れられない件をどうにかしよう」
少し考えるそぶりを見せ、アキトはそう提案してきた。
「どうにかできるものなのか?!」
あんな落ち着かない気持ちはできればしたくない。
「できるっちゃできると思う。一番簡単な方法としては繋がりを切ればいい。ただ、そうするとこの身体に戻れなくなる可能性もある」
「却下!」
すぐさまその提案を却下するとその反応を予想していたのか、大して反応もせずアキトはすぐさま別の案を提案してきた。
「一番安全な方法は坂月くんが身体から離れるのに慣れることだと思う。この繋がりって精神的なことも影響しているだろうから、慣れてしまえば落ち着くだろう」
精神的なことといわれれば、身体を忘れていると気がつかなかった時よりも気がついたあとのほうが落ち着かない衝動が強かった気がする。
「なるほど……って慣れる時間ってあるのか?」
「出る可能性が低い昼から姿を現すやつだからなんとも言えない。傷を負ってしばらくはおとなしいと考えたいが、ゆっくりとした時間はないと考えたほうがいいと思う。そうなると少々危険だけど俺に近くて、ある程度戦闘に巻き込まれない位置にいるしか解決が思いつかないんだよな」
「そんな都合がいい場所ってあるのか?」
公園みたいに障害物があれば隠れる場所があってなんとかなるかもしれない。でも、A++以外の鬼もうろついている世界だ。隠れていて安全とは言い切れないきがする。
「そんな考え込むなよ。上だよ。上」
考え込む俺にたいしてアキトはひょいっと自分の真上を指差した。
「え、コガラシも言ってたけど、それ本気で言ってたのかよ!?」




