下準備 07
「坂月くん、本当にごめんな。傷物にしちゃって。」
「その表現ヤメ――」
「今後は怪我しないように、もっと注意するから」
救急箱の場所を教えて、リビングのソファーにて治療をし終えたアキトはそういって謝ってきた。言い回しに思わず突っ込みを入れてしまったが、真剣な面持ちだったのでその先の言葉を飲み込む。適当な対応ばかり目立つが、俺の身体を拾ってくれたり、鬼から助けてくれているのだから、嫌なヤツではないことはなんとなくわかってはいた。
「……頼むぞ」
だから一言、短く返す。これでこの怪我の話は終わりにしよう。靴擦れで済んだことでラッキーって思っておけばいいんだ。
「任せとけって!」
こちらの意図が伝わったのかわからないが、すぐにいつもの調子に戻って軽い返答がくる。切り替えの早さに脱力したときだ。家の電話が鳴った。
「あ」
「ん? 電話かい? 出たほうがいいか?」
「いや、大丈夫だ、どうせ大した用件じゃないと思うから……?留守番だ」
きょろきょろと電話を探して立ち上がろうとするアキトを止めて、ふよふよと電話へと近づく。電話自体はすぐに鳴り止んだが、留守番のマークが赤く点滅していた。
「再生するか?」
「あー頼む。ここのボタン押せばいいから」
俺の声にアキトはこちらへと来てくれたのでボタンを押してもらう。一件目は電話が切れる音がして、二件目はなんと学校からの無断欠席についての内容だった。
「あああああ、やばい。やばい! これ母さんにも連絡いってるって……」
なんて言われるかわかったもんじゃない。そういえば、連絡を入れるのをすっかり忘れていた。これは早急に言い訳を考えなければ……!そうだ、携帯の方に連絡は来てないかな。ぽかんとするアキトをせっつきリビングの隅においてある通学かばんから携帯を取り出して操作してもらった。案の定昨日から放置しているからかトークやら留守番電話がたまっている。その一番上に、母さんからの通知があった。開いてもらえば、学校から連絡来たけまた腹痛?と心配する内容だ。怒ってないことに一安心するとともに、心配を掛けてしまったことへの罪悪感が沸く。
「あー、俺の言うとおりに文章打ってくれるか?」
無断欠席した理由は…胃痛でいいか。悲しいことにちょいちょい胃痛で遅刻したり、欠席している身としてはこれで通用するだろう。
「……どうやって文字を打つんだ?」
アキトはどうやら携帯の入力に慣れていないらしく、だいぶ時間がかかったが、なんとか言い訳と心配を掛けたことを謝る内容を送信して一安心した。
「そっか、俺とか独り身だから忘れていたけど家族と暮らしてるんだよな……。親御さんに心配掛けないためにもほんと早く方をつけないとな」
「仕事が忙しくてなかなか顔を合わせるタイミングがないと思うから、ごまかしはある程度聞くとは思うが……頼んだ。あ、あと携帯持っててくれ」
連絡が来ても分かるように、持てない俺の代わりにポケットに携帯をしまいこむように頼む。
「おう。早くケリをつけるさ。と、そのためにもこの電話を借りてもいいか?」
「いいけど、どこに連絡するんだ?使い方わかるか?」
「この電話マークを押せばいいんだろ?で文字を打ったときみたいに数字を入力だろう。この形の携帯電話って俺のところでないから戸惑っただけでわかるさ」




