下準備 03
「妖刀か……。間に合うか? そうすぐに持ち出しできるもんでもないだろ?」
「あ……でも、申請はしといたほうがいいじゃないですか? 生世界の身体使って捕獲・倒しましたって報告書には書けないっすよ?」
コガラシの言葉にアキトの顔が少し引きる――といっても、俺の身体だから俺の顔が引きつっているわけだが。一瞬どうでもいいことを考えたがそれは捨て置き、そこも聞いてみることにした。二人の様子や、次元移動が大変なことを踏まえるとあんまりいいことには思えない。
「そういえば、俺の身体を使ってるのってばれたらやばいのか?」
「やばいというか、色々めんどくさいかな。他次元干渉はそれぞれの次元にどんな影響を与えるかわからないから、ほいいほいしていいものじゃないんだよ……まあ、坂月くんには関係ないことだから気にするな。君はつかの間の魂ライフを楽しめばいいさ」
ぐっとサムズアップつきだしてくる顔は大変腹立たしい。まさか、自分の顔に苛立つ日が来るとは……!
「どう楽しめと!? こんな半透明な状態でなんら楽しいことなんてないんですけど!?」
寝れもしないし、食べれもしない。家にいてもなんも触れないからどうしようもないし、外にでれば鬼がいる。
「落ち着いて考えれば見つかるさ」
「落ち着こうにも、なんかそわそわした変な衝動に駆られるんですけど!」
そういえば鬼との遭遇ですっかり忘れていたが、いつのまにか衝動は収まっていた。やはり、身体からあまり離れられないということなのだろうか。
「ん?あ、そういえばなんでこの公園のほうに来たんだ?」
今更ながらアキトは不思議そうな顔で、俺がここにいる理由を尋ねてきた。
「身体から離れられたせいか、すごく落ち着かない気持ちになって探してたんだよ」
「そうか、坂月くんは完全に身体と魂が分離しているわけじゃないんだよな。最初に見つけた時、そのつながり利用したのすっかり失念してたよ」
「アキトさんからあんまり離れられないのか……人から見えない状態だ、いろいろできるのに残念だな少年」
俺がアキトと話をしている間に、どこからか紙と筆を取り出し、なにかを書いていたコガラシが話に入ってきた。
「いろいろってなんだよ」
「言わせんなよ、恥ずかしい。少年も少年ならわかるだろう」
コガラシはそう言ってわき腹をひじでつつくような動作をするが、次元が違うためか感覚は伝わってこない。
「ちょっとよく意味がワカラナイナー」
「嘘言って……と、アキトさん。いったん俺は申請しに戻りますんで、ここに印だけください。言うだけだと、通りにくいと思うんで一応それらしい書類ってことで」
「俺が申請したほうがいいが、この身体だもんな。頼んだ」
コガラシからアキトは紙と筆を受け取ると目を通し、それになにかを書くいてすぐさま返却した。
「承知したっす! すぐに戻るんでこっちは任せます! じゃあな少年!」
受け取った書類を大事そうに折りたたみ、アキトに礼をしたあと俺に挨拶を下かと思うと、コガラシがその場から消えた。




