桜並木にて 02
意識が覚醒した瞬間、感じたのは妙な軽さだった。
「は?」
意識が落ちる前に感じた激痛が感じられず、むしろ体が軽い。何がおきた? どのくらい気を失ってた? 何がぶつかった? 全くわからない。……なんだってんだ。
むくりと体を起こし、元いた道に目を向ける。が、誰もいない。先ほど半分すけた野郎がいたなんて嘘のようだ。隠れてるとかないよな。そう思い、あたりを見渡すが桜並木にその半透明な姿は見あたらなかった。
「つか、最初からいなかったかもな……」
疲れてたんだな、俺。だから変なのをみたんだ。きっとそうだ。新しい環境に慣れず、疲れが溜まってしまったんだ。早く帰って飯食って風呂入って寝よう。
「帰るか……」
吹き飛ばされた時に落とした通学カバンを拾い上げ、汚れを落とす。ただ地面に落としただけなのにかなり汚れている。というよりなぜか軽く潰れていた。新品だったのに勘弁してほしい。そいや、服のほうは大丈夫だったかな。慌てて見てみるが、泥とかはついていなかった。
学校帰りに適当に寄り道して帰るかつもりだったが、随分遅くなった。
「はあ……」
一つため息をついて、帰りなれぬ家へと俺は歩きだした。
自分がなにを落としたのかに全く気がつかずに。ただ、ああ、やっぱり桜がきれいだな。と、幽霊に声をかけられたなんてことを忘れ、呑気に考えていた。