好き
誤字・脱字はすいません。
バスロープを羽織った男は、ベットに近寄ると、すでに眠りについている彼女の頬に優しくキスをした。
さっきまでの激しい行為のせいで彼女は、疲れ果て泥のように眠っている。
堪らずもう一度、手を出しそうになる気持ちをぐっと堪えて、布団をしっかり掛けなおしてやった。
急いで身支度を整えると、部屋から静かに、出て行こうとした男は一度部屋の中を振り返った。
心の中でごめんなと侘びを入れた。
もう彼女の前に顔を出すわけには行かない。
彼女のお腹の中には俺の子じゃなくて、他のやつの子がいる。今日それを告白された。
俺が彼女にもっと早くプロポーズをしていれば、こんな事にならなかったのに・・・・・・・・・
後悔しても仕方が無いと思いながらドアを静かに閉めた。鍵を掛けると鍵を新聞受けの中にそっと落とした。
奈美は、ドアが閉まる音を聞くと、ベットの中で声を上げて泣き出した。
ただ彼にヤキモチを焼いて欲しかっただけなのに・・・・勢い余って違う男性の子供を妊娠したなんて嘘をついてしまった。
「浮気した挙句に違う男の子供を妊娠しているなら避妊する必要はないな・・・・・」
激しく攻め立てられて、何度もいかされて、今まで優しかった彼の変貌振りに言葉が出なかった奈美は、
結局嘘だなんて言えなかった。
昨夜、一緒に夕飯を食べに行った同僚に彼が可愛い女の子とジュエリーショップに入っていったと聞かされたのが発端だった。
奈美以外の女性と仲良く腕を組んで・・・・(二股・・・私遊ばれていたの?)
本当のことを聞き出せないまま、引っ込み思案の奈美が精一杯に取った行動が、ヤキモチを焼かせる作戦だった。それなのに・・・あんな風に嘘をつく結果になった。
痛む身体を引きずるようにベットから降りると、熱いシャワーを浴びた。
彼と終わった現実をしっかり受け止めようとするが、涙が溢れて止まらない。
きっと彼は、同僚が見かけた可愛い女の子が本命だったのだと奈美は思った。
それから一ヵ月後、毎月しっかりきていたものがこない、奈美は焦りを感じて、仕事の帰り薬局に寄った。周りの目を気にしながら検査薬を手にするとレジに向かった。
部屋に戻り、どうしたものか?テーブルの上にそれを乗せ、いろいろ一人で考えた。
もし出来ていたら一人で育てる?でも仕事をしないと食べていけない。
愛していた人の子供は産みたいが父親のいない子は子供が傷つくかもしれない・・・どうしたら良いのか解らくなり、ソファーの上で頭を抱え、泣き出していた。
玄関のチャイムが鳴り、(もしかして翔太)慌てて立ち上がると玄関に向かった奈美は、ドアを開いた。
玄関には幼馴染の啓太が酔っ払ってふらついた足で立っていた。
奈美を押しのけ、部屋に入り込む啓太の背中に腹が立ってきたが、慌ててテーブルに駆け寄った。
目的の物は啓太の手の平の中・・・・・・
「違うのそれ、友達に頼まれて別に私が使うわけじゃ無いし・・・・・・」
言い訳がましい言葉が次から次へと出てくるが、
「やんねえのコレ?だったら俺が持ち帰るぞ」
意味深な顔で話す啓太に、
「だからコレは友達に頼まれたの・・・・・」
啓太の手から奪い取ると、さっさと鞄の中に押し込んだ。
「啓太こそこんな時間になんの用事?」
イライラをぶつけるように啓太に叫んだ。時刻はすでに十二時を過ぎていた。
いつもだったら明日の仕事に備えて寝ている時間・・・・仕事の帰り薬局屋に寄りあれからずっとテーブルの前に座っていたことに今更、気付いた。
「さっきまで翔太と飲んでいたんだ。その時お前達が別れたことを聞いてお前の顔を見にきてやったの。
俺はお前達が付き合うことになった時、辛い思いをして身を引いたのに今更別れるなんて酷いだろう。
翔太より違う男を選ぶなら今更だけど・・・・俺のことを選ぶって選択は無かったのか?
違う男の子供を妊娠してるなんて嘘だろう。奈美にそんな事が出来るはずはないのは、俺は良くしっている。もしかして、翔太の子供を妊娠しているのか?そうなら俺と一緒に育てよう。俺は翔太の友情より奈美を選んでやるから・・・・」
見透かしたように話す啓太の目の前に冷たい水を置いた奈美は、涙を浮かべた目で啓太を睨んだ。
「そんな事出来るわけないでしょう。私は、あの時翔太を選んだのに、それなのに・・・・・」
「その翔太を捨てて他の男がいるなんて嘘をついたのは奈美だろう。翔太は凄くショック受けていたぞ。プロポーズする予定だったって」
「違う・・・・・翔太には、私以外に交際している女性がいたの・・・・その子と一緒にジュエリーショップに行ったの・・・友達が見たって言っていたんだから」
泣き崩れる奈美に、啓太は、
「それが本当なら、俺が翔太を懲らしめてやる。だから、奈美は正直な気持ちを俺に話せ、後のことは俺に任せれば良い。安心しろ」
優しく囁いた。
奈美は、翔太と別れた、あの日のことをすべてを啓太に向かい話した。・・・・泣きながら話す奈美が可愛くて仕方がない啓太は、心の中でとっても満足した気分だった。
それを顔に出さないように、気をつけながら、
「さっさと検査薬してこい。出来ていたら俺が責任とって結婚してやるから・・・・」
そっと声を掛けた。
奈美と結婚できるなら最初から翔太との子供ぐらい引き受けてやるつもりでいた。
思っていたよりすんなりと物事が運んで嬉しくて仕方がなかった。
奈美と翔太が付き合うようになった時、啓太は、打ちのめされ、傷ついた。
幼馴染でいつも三人一緒だったはずなのに、翔太が啓太より先に奈美に告白したことで奈美は翔太のものに・・・・許せなかった翔太のことが、俺が子供の頃から奈美のことが好きだったと知っていたはずなのに・・・・
だから俺は、翔太に罠を仕掛けた。
飲み会で突然行けない奴が出たと困った振りをして翔太を、無理やり参加させて、奈美に良く似た女を隣にあてがい無理やり酒を飲ませた。
酒を大量に飲ませ、ウトウトしたところを狙い、ラブホテルに翔太を運びこんだ。
後は翔太の勘違いに期待するだけ、女も翔太に惚れている女だった。
最初、女にこの話を持ちかけたときは騙すみたいで嫌だって言っていたが、翔太のことが諦められない想いが勝ったみたいだった。
好きという気持ちは、抑えきれない。だから俺も奈美を傷付けても諦められなかった。
その日を境に女はすっかり翔太の彼女気取りになり、翔太が二股を掛けている状態になった。
無理やり誕生日に指輪を翔太に買って貰ったりして、(きっと奈美の同僚はそれを見かけたんだ)
トイレから出てきた奈美はとても不安そうな顔をしていた。
「反応が出たのか?」
やんわりと聞くと、奈美は頷いた。
俺は心の中でガッツポーズを取りながら、冷静な声で、
「俺が奈美も子供もまとめて引き受けるから、俺と結婚して欲しい」
プロポーズした。不安そうな奈美の身体を抱きしめ、優しく唇を重ねた。
奈美は、これで俺のものになる。子供の頃から奈美の性格はよく知っていた。
突然の啓太の言葉に驚いた。だって誰が見ても啓太は綺麗な顔をしている。もの凄くもてる。
それなのに、幼馴染だから・・・私が可哀想だから・・・(そんな気持ちで結婚してくれるなんて間違っている)
子供のころ、啓太が私のことを好きだったのは、知っていたが、大人になり、もてるようになった啓太から逃げ出したのは私・・・翔太の告白に逃げ込んだ。
ドキドキする相手より、一緒に居て落ち着ける翔太を選んだ。
それなのに啓太と唇を重ねた瞬間、またあの頃の胸のドキドキが戻ってきた。
(本当に甘えて良いの?)目を開くと啓太の優しい瞳と視線がぶっかった。耳元で、
「優しくするから安心して」
囁かれ、お姫様抱っこをされてしまった。
本当にこれで良いのか解らないが、今の状況だとどうすることも出来なくて啓太に身を任せるしかなかった。きっと今、一人ぼっちだったら絶えられなかった。
ベットに降ろされた瞬間、重なる唇に心臓がドキドキして止まらない。
好きという気持ちが溢れてくる。
絡めた舌の熱さが気持ちよくって敏感な部分が、疼いてきた。
それなのに、服を一枚ずつ脱がされるたび、気持ちが冷め、軽い女になったみたいな気がした。
胸を覆った啓太の頭を眺めながら、(本当にこれで良いの?)自分に問いかけてみた。
視線を感じて頭を上げると悲しそうな顔をした奈美と視線がぶつかった。
「・・・やっぱり無理だよ、啓太を利用するみたいなこと・・私できないよ・・・お腹の子供の父親は翔太だもん。それなら私、実家に帰って一人で子供を産んで育てるよ」
その言葉に俺の胸は張り裂けそうだった。俺じゃ駄目なのか?
「俺にもチャンスをくれよ・・・」
気付くと啓太は、そう呟いていた。
「俺は子供の頃からずっと奈美のことが、好きだったんだ。翔太にも俺の気持ちは告げてあった。いつか俺は、奈美に告白するって・・それなのに翔太は、俺に黙って奈美に告白したんだ。
今まで俺がどんな想いで二人のことを見てきたか解るか?いつも胸が張り裂けそうだった。
奈美の幸せそうな姿を見るたび、奈美のことを諦めようとしたか・・・一人で泣いている奈美を見たら無理だよ、頼むから俺のことを頼ってくれよ」
啓太の気持ちは、初めて聞いた。両想いだったなんて・・・信じられなかった。
平凡な私と、どこにいても人目を惹くかっこいい啓太
「そんなの信じられないよ、私が惨めだから慰めてくれているの・・・」
嫌な言葉ばかりが口から出てしまう。止めようと思ったが涙と共に次から次へと・・・
「こんな平凡な私なんて啓太が今まで付き合ってきた女の子達と比べたら月とスッポンだよ」
泣きながら話す奈美を見ていたら思わず抱きしめていた。
こんなに華奢な身体で子供が産めるのか心配になりながら、
「もう俺で良いだろう。俺なら奈美の全てを受け止める自身がある。奈美が子供の頃からいろいろ考え込む悪い癖があるから心配なんだ」
顔を無理やり啓太の方に向けられると、自信に満ちた啓太の瞳が奈美の瞳を捕らえた。
「奈美だけを愛している・・・だからもう俺以外の奴のことは考えるな」
優しく言われ、奈美は思わず頷いていた。
やっと手に入れた喜びに身体中が熱くなった。
絶対に離すつもりは無い。今度のことが翔太にばれたとしても、先に裏切ったのは翔太の方だ・・・・
読んでくれてありがとうございます。