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ブラック・ウィドウ  作者: 橋高 幸克
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第八章

 そして五日後。

 二十日の夜。

 アレクシス・スパレティが家族を集め歓談する前日の夜。

 ジャニィ・ジャニスとマキのヴァンクリフ姉妹、通称『ブラック・ウィドウ』の二人とこの二人に雇われ、この襲撃計画に参加する事になったハンター六人、あわせて八名がマクガルド東部、高級住宅地へと獲物を狩りに集まった。

 と言っても八人全員が同じ場所に集合したのではない。それでは目立ちすぎるので、彼女達は自分達を三つのグループに分け、それぞれがそれぞれの手段で、決められた集合ポイントに集まる事にしていた。

 マキとジャニィ・ジャニスとAは、蒸気自動車のタクシーを使い、自分達のスタート地点である場所から少し離れた場所で降車する。そしてAはそこで目出し帽を被る。タクシーの中でこれを被る程、間抜けではない。それを見てジャニィ・ジャニスとマキも同じ様に黒いバンダナを頭に巻く。さあこれで、黒後家蜘蛛の準備は出来た。後は獲物に牙を立て毒を注入し食い尽くすのみ。

 この三人の集合ポイントは邸宅の玄関から直線に西に少し伸びた所。おそらく門の前に一人もしくは二人の見張りがいるであろうと予想し、もしいるのならばマキのライフルで頭を打ち抜く予定である。

 他の二つのグループ、B・C・DとE・Fのグループの内、B・C・Dはジャニィ・ジャニス達とは逆の東側、ただしライフルの誤射の可能性もあるので直線状ではなく少し角に曲がった所、E・Fは邸宅の裏側より少し離れた所に待機している筈だ。両グループとも、時間に合わせて放たれるマキの銃声を合図に動き出す算段となっている。

 現在の時間は夜の十一時五十分。作戦の開始予定時刻の十分前だ。

「なあ、M」

 Aがおもむろに小さな声でマキに問い掛ける。

「すごく今更な質問していいか?」

「ええ、どうぞ」

 マキはスコープに暗視キャップを付けたライフルを調整しながら、たおやかな顔で答える。

「ここからあそこまで、あんたはワンショットで見張りを殺せる腕はあるのか?」

 マキはその質問に一端答えず、立射の格好をしてスコープを覗く。

「見張りは一人ですね。少し仕事が楽になりました」

 そしてA の方に向き、質問に答える。

「今日は風もほとんど吹いてないですし、ハンティング日和ですよ。と言ってももう夜ですけど」

 と言ってニッコリと笑う。

「この距離と条件なら百回撃って九十九回は当てる自信はありますよ」

「その外す一回の条件は?」

「撃つ瞬間にくしゃみがしたくなった時でしょうか」 

 マキはそう言うとクスリと笑う。

 おそらくマキにとって渾身の冗談だったんだろう。しかしジャニィ・ジャニスは心の中で『面白くないよ、マキお姉ちゃん!』と突っ込んでおいた。口に出さないのは今の空気を悪くしたくないからだ。いや、もう悪くなっているかもしれないけれど。実際質問をしたAは目出し帽で表情は分からないが、なんとなく呆れているような、そんな雰囲気を醸し出している。

「まあ冗談はさておき」

 マキは表情から笑みを消すと腕時計で時間を確認する。作戦開始まであと数分もない。

「手筈は整いました。あとは作戦を実行するのみです。ここには私を含め三人しかいませんが、実行には問題ありませんね?」

「ああ」

「うん」

 野太い声と軽やかな声が両方共同意の答えで重なる。

「こういう時に通信機が死滅しているという事実が恨めしくなりますね。出来れば他の二つのグループの方々にも確認を取りたいんですが」

 今の時代を生きる人間には誰も分からない、大昔に起こった電磁ハザードによる無線機器の使用が出来ないという事実は、こういう作戦を行う際にどうしても支障をきたす。しかし今の人間にそれはどうしようもない。何より、そのような機械はほぼ全て廃棄されている。使えないガラクタを取っておく人間は、希少である。それが今よりもずっと前の出来事であるならなおさらだ。

「では。J、時間の確認をお願い。0時になったら、合図して」

「了解」

 ジャニィ・ジャニスはそう言われると懐中時計の盤面を見る。よく見ればもう一分を切っている。

 三十秒…

 二十秒…

 十秒…

 九、八、七、六、五、四、三、二、一…

「今!」

 ジャニィ・ジャニスの掛け声と共にマキのボルト・アクション・ライフルから銃弾が放たれる。と、同時にジャニィ・ジャニスとAはアレクシス・スパレティの邸宅目指して一直線に走る。見張りに銃弾が命中したかどうかは分からない。だが、ジャニィ・ジャニスは姉の腕を全く疑っていない。邸宅の前には哀れな死体が一つ転がっている筈だ。

 ジャニィ・ジャニスとAだが全速力で走っているのに、二人には差が付いている。先行するのは大型ナイフを二つ腰に付け、脇に短銃を装備しているジャニィ・ジャニスだ。Aは機関銃と予備銃、あとマガジンを体に付けている為、どうしても走るスピードが落ちてしまう。だがこれも折り込み済みだ。今ここで多少の差が出たとして、作戦に支障はない。しかし、二人が何も装備をしていなくともおそらく同じ結果にはなったであろう。ジャニィ・ジャニスの運動能力は、それ程までに高い。大の男ですらあしらえる。そこまでの能力を持って生まれてきた。

 作戦開始時間になったので、他のグループも動き始めたはずだ。B・C・Dのグループは自分達と同じく邸宅の正門に向かっている。EとFの二人は邸宅の後門を制圧し、その後家の裏口を封鎖し逃げようとする人間を殺す。これに関しては各自を信じるしか無い。各々の能力を。

 ジャニィ・ジャニスは邸宅の門前へと辿り着く。他のメンバーはまだ付いていないようだ。通用口の前には顎から上が無くなった哀れな男の死体が転がっている。やはりマキの腕は、射撃能力は確かだ。流石はナタリア義母さんから鍛えられただけはある。

 そのままジャニィ・ジャニスは仲間が付くのを待たずに通用口を確かめる。この単独行動もきっちり話し合っての行動だ。今は少しでも時間が惜しい。ならば素早く動く。それが今回の作戦の方針だ。

 通用口には鍵は掛けられていなかった。何たる無用心。しかしこのような慢心は自分達にとっては好都合。そのまま通用口を開けて邸宅の庭へと入り込もうとすると同時に、AとB・C・Dのグループがほぼ同時に邸宅に到着した。

「もう行くのか?」

 目出し帽の誰かがジャニィ・ジャニスに問いかける。残念ながらジャニィ・ジャニスには声だけで誰が誰だか分からない。

「善は急げ」

 言葉短かに答えるとジャニィ・ジャニスは庭へと躍り出る。そのまま玄関へと突入を懸けようと判断した瞬間、横からいかにもな唸り声が聞こえた。

 番犬だ。黒い、大きな、獰猛そうな犬。

 ジャニィ・ジャニスは右手を上げ、後ろの四人に一旦動かぬよう指示を出す。

「番犬です。これはあたしが相手をするんで、合図をしたら皆さんは玄関へと走って下さい」

「大丈夫か?」

「もちろん」

 というとジャニィ・ジャニスは右手を前方に振り、メンバーに動くよう指示を出す。モタモタしていると家から狙撃されかねない。ならばここで動いてもらうのが得策だ。

 番犬はその四人の動きに反応して襲いかかろうとするが、その動きを読んでいたジャニィ・ジャニスに進路を塞がれる。黒い犬は自分の動きを邪魔したジャニィ・ジャニスを鋭い眼光を向けるとそのまま後ろ足に力を込めると、番犬はジャニィ・ジャニスの喉元に照準を定め、跳躍した。

 しかし番犬の牙はジャニィ・ジャニスには届かなかった。大きく開かれた口に刺さる一本の大型ナイフ。それは口から喉、食道、胃までと到達し番犬の命を一瞬にして奪った。

 犬に罪はない。ジャニィ・ジャニスには分かっている。犬に悪意はない。この犬だって、侵入者に対して教わった事を忠実に、立派に成し遂げようとしただけだ。

 だが、飼い主が悪かった。この番犬の不幸はそれだった。飼い主が悪人でなければ、この街の一番の犯罪組織の首領でなければ、ここで死ぬ事は無かったろうに。ジャニィ・ジャニスは犬を飼った事はないが、動物には近しい生活をしていたから、この犬の無念さは分かる。だが、こちらも仕事だ。

「JJ」

 後方から声がかかる。ライフルでの狙撃の為、到着が遅れたマキだ。

「番犬?」

 マキは駆けながらジャニィ・ジャニスに問う。

「うん」

 それに合わせてジャニィ・ジャニスも玄関へと走る。よく考えると、家からの狙撃はなかった。まだ油断しているのか? それとも中で待ち伏せしているのか? まあいい。待ち伏せしているのなら、その全てを突破するのみ。そう考えて、ジャニィ・ジャニスは玄関へと駆け、すぐに到着する。

「どうですか? 玄関は」

 マキが他のメンバーに問う。

「鍵は掛かってる。今Dが開けようとしている所だ」

「D、時間は掛かりそうですか?」

 Dは少し焦った口調で、

「本業じゃないからな」

とだけ答える。

 それを聞き、マキは一瞬だけ考えると、

「じゃあ、私がやりますよ」

と言う。

「皆さん、扉から離れてください、危ないですから」

 マキの提案に顔を見合わせたメンバーだが、その自信めいた顔を見て判断したのか、全員が扉から距離をとった。

「まあ跳弾の心配はないと思いますけど」

 そう言ってマキはボルト・アクション・ライフルを構える。よく見るといつの間にかスコープは外してある。

「お、おい、もしかして・・・」

 マキはまるでその声が聞こえなかったように扉の蝶番に照準を合わせ、まず一発ライフル弾を打ち込む。ボルトを引くともう一発。もう一度ボルトを引き、三発目。

 見るとこの距離からライフル弾を三発浴びた扉の鍵は完全に崩壊し、穴が開いている。

「誰か跳弾とかで怪我をされた方、いますか?」

 マキはまるで今自分が行った行為をさも当然だと言わんばかりの口調でメンバーの怪我の有無を聞く。

 しかしそれに答える者はいない。ただただ、呆れているのだ。こんな馬鹿なやり方で扉を開けるなんて、誰も聞いてなかった。それはそうだ。マキはそんな事は言ってなかった。この中でマキの行為に何の疑問も抱いていないのは義理の妹であるジャニィ・ジャニスだけである。

「じゃあ、行きますか」

 マキは涼やかな声で邸宅への突入を即す。

 他のメンバーは驚愕からすぐに平常心を取り戻したかのように、全員頷く。

 さあ、これからが本当の本番だ。もしかしたら入った瞬間に銃弾の雨が降るかもしれない。だが、それは自分には当たらない。一度中に入り、銃線さえ確かめれば、ジャニィ・ジャニスという黒後家蜘蛛の出番だ。それはこの邸宅の中にいる人間にとって、地獄絵図になる。ジャニィ・ジャニスは、そう確信していた。


***


 アレクシス・スパレティの邸宅の一つ。

 その屋敷の寝室部屋の一番奥。そこがこの家の主人であり、マクガルドで一番大きな犯罪組織、“スパレティ一家”の首領、アレクシスのこの家での寝室兼談話室である。あまり豪奢な作りを好かないアレクシスであるが、それでも平凡な家とは雲泥の差があった。

 そんな部屋の前に男が一人立つとそのままドアをノックをする。

「首領」

「入れ」

 部屋の、自分の主人からの許諾を得、男はドアを開けて部屋の中に入る。

 中には、三人。

 一人は白髪の混じった髪をオールバックにし、口ひげを生やしている。今着ている服はバスローブで、ソファーの背もたれに体を委ね、かなりリラックスした体制を崩さない。その片手には琥珀色の液体が入ったグラスを持ち、ゆらりとそれを口にする。よくよく見れば、テーブルには高級酒の瓶が置いてあるのが分かる。

 一人は女性で短く切られたショートカットを赤く染めている事が目に付く。いや、髪だけではない。羽織っているジャケットも赤、中のシャツも色合いは違えど赤、レザー製と思われるズボンも赤。だからこそ焦げ茶色をした、ブーツがより目に付く。彼女はソファーには座らず、窓辺に腰掛けている。

 最後の一人は別段何か際立った所はないように見える。適度に伸ばされた髪、特徴のない顔、着ている服も長袖のシャツにデニムのズボンを着ているだけだ。しかし、男の体には一つだけ異様な部分があった。左腕。長袖が捲られた、男の左手の肘から先は義手となっていた。黒光りする腕。それはどこか銃を思わせる。事実、外側には拳銃のように何かを排出するかのような窪みが見えるし、手首にはあからさまに繋ぎ目がみえる。

「首領」

「なんだ」

 オールバックの男が静かに答える。この男がアレクシス・スパレティである。

「賊が屋敷に侵入しようとしております」

「ほう」

 アレクシスは持っていたグラスをテーブルへと置く。

「それで、どうするんだ? 俺にどうして欲しいんだ?」

「裏口からお逃げください」

 アレクシスは鼻白む。

「……お前らは、何の為に存在する?」

「はい、首領の身辺をお守りする為です」

「分かってるじゃないか。で、お前らは俺にどこの誰とも分からない賊の為に尻尾を巻いて逃げろと?」

 アレクシスの声に若干だが力が篭もり、男の額に汗が浮かぶ。

「早くその虫共を片付けてこい。それがお前らの役目だ。俺は何の為にお前らを雇ってるんだ? 俺に無様な悪名を世に広げさせる為か? 違うだろ?」

「は、はい」

「違うと言ってみろ」

「ち、違います!」

 アレクシスはソファーの背もたれに力を込めて背骨を伸ばす。

「じゃあ早く行け。次は賊が全滅した事を報告しに来い、以上だ」

「り、了解しました」

 男は慌てて、それでも一礼を忘れずに部屋を出て行った。

「いいんですかい、首領」

 義手の男が首領に語りかける。先程の男と違い、緊張感はさほど言葉に込めていない。

「なんだ、まさかお前まで俺に逃げろとか言うのか、ラジー?」

「いやいやいや、俺が首領に意見するなんてとてもとても。ただね、さっきの奴、首領にビビらされて多分まともには働けねえっすよ」

 ラジーと呼ばれた男はあくまでも軽い口調でアレクシスと接する。そして先程凍えるほどの気を出していたアレクシスもそれを許し、口調も若干砕ける。

「そんな奴なら別に俺の護衛にはいらん。と言うか別段俺の組織にも必要がないな」

「かっかっかっ。相変わらず手厳しいなあ、俺達の首領は」

 そう言うとラジーは席を立つ。

「マギー」

「なんだい?」

 赤い髪の女は気怠そうに答える。

「俺は今から蟻ん子を潰しにいくが、お前はどうするよ?」

「是非もない事を」

 マギーはそう言って窓辺から降り立つ。足が地面についた瞬間、ゴトリと重い音がする。

「私はね」

 そう言うと短い髪を撫で付ける。

「もしかしたら首領が逃げる、という選択肢をした場合に護衛をやろうと思ってたんだ」

 そう言ってアレクシスに視線を送る。

「何事も色々な可能性を頭に入れておくものだ。特に気まぐれな首領様の下で色々と仕事をやってるとね」

「お前も遠慮がないな、マギー。まあ、そういう所が気に入って色々やらせてるし、ここでの歓談も許してるんだがな」

「じゃあ、行きますか」

 ラジーは扉へと歩を進める。

「たまには左手使わないと、調子が悪くていけねえ」

 マギーもそれに続く。歩を進めるごとに重い足音が部屋に響く。

「あんたのそれは、威力がありすぎるんだよ。使う度に人の体に穴空けてちゃ、こっちの拷問の仕事にも呼べやしない」

「まあそういうなって。こういう時の為のこの腕だ」

「そういう事にしておいてあげるよ。じゃあ首領、また後で報告に」

「ああ」

 そう言うと二人は扉を開き、部屋から出る。

 訪れる静寂。

「さて、どうなるか」

 独りごちると、アレクシスはテーブルからグラスを取り、酒を一口つけた。


***


 ジャニィ・ジャニスは、先頭を切って邸宅へ突入した。すると同時に降り注ぐ銃弾。しかしジャニィ・ジャニスはそれを前持って分かっていたかのように、左足に力を込め右前方へと跳躍する。ほぼ全力を込めて跳んだので勢いを殺さないよう前転をしつつ、障害物になりそうな物に身を隠す。それと同時に自身の感覚を最大限に発揮する。うん、少なくとも一階はマキお姉ちゃんが手に入れた見取り図をそれ程変わらない。ただ調達品が予想よりも多いということか。しかしそれは少なくともジャニィ・ジャニスにとっては不利ではない。むしろ有利な条件だ。

 相手側からの銃弾。それを引き付ける役はまず出来た。そして今までしていた逆の方向からの銃声。味方の配置も終わったようだ。見取り図が以前と変わらなかった以上、配置も変わらない筈。あとは自分がどうやって左側の階段を駆け上り、アレクシス・スパレティの寝室まで辿り着くか、だ。

 今、自分が位置しているのは一階の大広間。何かよく分からない彫像物に身を潜めている。マフィア共はその超造物を狙って銃弾を浴びせるが、完全に身を隠しているジャニィ・ジャニスにはかすりもしない。

 銃撃戦の中を糸を縫うように進まねばなるまい。しかし、相手の銃弾の音を聞いて、彫像物に狙いを定められる弾の方向を悟り、自分の動き方を決める。といってもいつもとやる事は変わらない。ただ、相手の人数がいつもより多いだけだ。だけど、自分が今から蜘蛛になれば、相手はそこに集中する。そうすれば、姉を中心としたメンバーが相手を撃つ。自分は目の前に立つ獲物を狩る。単純な事だ。

「じゃあ、そろそろ行きますか」

 ジャニィ・ジャニスはまるで何もないかのように、だが尋常ではない速度で彫像物の左側から抜け出て、そのまま左側の階段を目指して駆ける。

 銃線が幾つも重なる。このままでは蜂の巣なので相手の弾鉄が弾かれる前に進む方向を右斜めへと変える。先程まで目指していた場所に銃弾が降り注ぐ。しかしそれには気を置かない。

 その間に後ろから銃声が聞こえる。連射の音が幾つかと、甲高いライフル音。ライフルを撃っているのは間違い無くマキだろう。そのライフルから発射された銃弾が誰かに当たったのか、銃声の間から誰かが倒れる音がする。

 ジャニィ・ジャニスは自分の動きが味方へのフォローになる事にも確信をし、歩を進めていた勢いを活かしつつ、ぐるりと反転し、そのまま先程向かった場所へ向かう。またも襲う銃弾。しかしすでにジャニィ・ジャニスは部屋の見取りだけでなく、相手の銃線もほぼ把握した。あとは階段を駆け上がる。

「ほっ、と」

 足に力を込めると、そのまま浮き上がりジャニィ・ジャニスは手摺に足を乗せる。そして乗せた瞬間に左側へと跳ぶ。そこには一人の男が立っている。残念ながらその男はジャニィ・ジャニスの曲芸じみた動きに付いてこれず、銃の構えが完全にジャニィ・ジャニスから外れている。

「はい、さようなら」

 ジャニィ・ジャニスは無慈悲にその男の頸動脈を斜め上から大型ナイフで切り裂く。哀れな男は、首から噴水のように血を吹き出し倒れる。空中でその動作を行ったジャニィ・ジャニスは着地した瞬間、右斜め上へと階段を駆け上がる。そこにはもう一人哀れな男が立っている。慌ててジャニィ・ジャニスに銃口を向けるが、そこにはもう既にその場所にジャニィ・ジャニスはいない。右側へと体を移動させたジャニィ・ジャニスはその男の喉を横一線に切り裂く。階段にまた血の花が咲く。しかしジャニィ・ジャニスはそれに目を向けず、階段の頂点を見る。

 相手側といえば、一人の突入者と五人の銃撃者に混乱しているようだ。特に一人の突入者、気でも狂っているかのように邸内を駆け巡る一人の黒いコートを纏った少女の存在は予想外だったようだ。複数員で突入を掛けてくるのならまだしも、たった一人。しかもその動きはあまりにも不規則でまるで銃弾を避けているかのようにも思っているのだろう。だが、それが作戦だ。全くの無謀と思えるだろうが、これがジャニィ・ジャニスという稀有な、人智を超えているといってもいい、特別な存在がいるからこそ出来る作戦。そしてそのジャニィ・ジャニスを狙おうとすると後方から支援の銃弾が撃ち込まれる。相手は、蜘蛛の罠に嵌った。種としての黒後家蜘蛛は土蜘蛛で、実際には罠とか巣は張らないのだけど。

 ジャニィ・ジャニスは階段の上を見つつ、相手の銃線を外しながら素早い動きで階段を駆け上がる。上がる階段を一段にしたり、いきなり四段にしたり。手摺をまるで細道のように使って駆け上がったり。相手が慌ててそこに銃弾を浴びせても、既にそこにはジャニィ・ジャニスはいない。その動きは相手の殺気と銃線に合わせて動いている為、相手にはでたらめに見えるのかもしれない。実際、ジャニィ・ジャニスも規則的に動いているつもりは一切無い。ただ階段の上を目指しているだけだ。

 あと少しで階段を上がりきるという所で左右から男が二人現れる。二人がかりで小娘一人。うん、いいでしょう。すぐさまジャニィ・ジャニスは右へと素早く足を運ぶ。後ろからの銃弾を気にしつつ、右の男に斬りかかる……と見せかけ、態勢を低くし右足の親指の付け根に力を込め一足飛びで左の男の懐へと飛び込む。頭上スレスレに銃弾が飛んでいくが、そんな事は気にしない。何も怖くはない。ジャニィ・ジャニスはその銃弾が自分に当たらない事を直感で理解していた。そうして左の男の腹を左の大型ナイフで一直線に捌き、その上でナイフの軌道を変え、頸動脈も裂いておく。次は、右か。と振り向いた瞬間、男の顔が爆ぜた。マキのライフルだ。マキの狙撃が、無慈悲に相手の頭をまるで何か固い果物を地面に落としたかのように、砕けた。

 これでどちらにしろ、二階へと上がりきった。次の目的地は、客間だ。そのまま客間前に立って銃をこちらに向けて撃っている男をジグザグに動いて翻弄し、喉を一突きする。そこで一旦息を整えると、一気に扉に体ごとぶつかり室内への侵入する。そのまま部屋を一瞥し、中の構成を師匠の言う『空間把握能力』で頭の中に叩き込む。豪奢なソファー。ソファーの高さに合わせたガラス製のテーブル。かなりの大きさの柱時計。どちらにしろ、自分の人生では一生お世話になれそうもない豪華な一品ばかりだ。そんな客間の中には奥に男が二人。当然のようにジャニィ・ジャニスに銃弾を浴びせてくるが、その時にはすでにジャニィ・ジャニスはソファーの陰に身を潜めた後だ。

(少しだけ面倒かな)

 こちらがソファーに身を隠したように、相手二人も調達品に身を潜め、時折銃を撃ってくる。銃弾が飛んで来る事自体は別段大した事はない。ただ、こちらの主武器がナイフである以上、少し距離があるのは面倒だ。しかも、それなりに障害物も多い。距離がある場合はこちらの動きを妨げる要因にもなる。先日のマルコ・コステロのオフィスへ襲撃した時も同じ様な状況だったが、あの時はアマチュアが相手。今回は曲がりなりにも犯罪組織の一員だ。実際狙いは確実にこちらへと狙いを付けてきている。

(こういう時はやっぱりこれかな)

 ジャニィ・ジャニスは右手に持つ大型ナイフを左の鞘に仕舞うと右の懐のホルスターから拳銃を取り出す。結局はマルコ・コステロ襲撃の時と同じような事になったが、今回は狙いが違う。前回はただ牽制の為だけに狙いを付けず乱射をしただけだったが、今回は同じ牽制でも相手に狙いを付け、こちらも飛び道具を持っている事をアピールしなければならない。あくまで自分の主武器は大型ナイフで、敵を狩るのもそれが一番得意だが、銃弾を避けながら必殺の間合いに入るには、今の状況を考えれば拳銃は必須だ。何より、近接武器しかこちらが持たず回り込まれると、この障害物が多い場所では少し厄介な事になるかもしれない。障害物が多い事はこちらにも有利になる要素は高いのだが。

「さて、と」

 ジャニィ・ジャニスはソファーとソファーの隙間から顔を出して二人の相手に銃弾を発射する。牽制ではなく、あくまで当てる気で銃を撃つが相手も勝手知ったるもの、障害物に身を隠しそれを防ぐ。そして逆にそこから腕だけ出してジャニィ・ジャニスの隠れるソファーへと確実に着弾させる。まあこのまま行けば自分は数的に不利だ。だが、ジャニィ・ジャニスという刃物使いは単なるハンターとは違う。相手二人がソファーに着弾させる銃弾を見つつ、銃線を把握する。あとは近づいて喉でもどこでも掻っ捌くだけである。そのままジャニィ・ジャニスは銃を撃ちながらジワリジワリと相手の居場所へと近づいていく。相手も自分が段々と距離を詰めていくのは気付いている。着弾点にブレはない。おそらくだが、相手はこちらがそのままじりじりと近づいていくと判断しているのだろう。銃線の位置が、それを物語っている。

 しかし、ジャニィ・ジャニスに定石は当てはまらない。もし当てはめようとしたのならば、それはそう判断した相手がこの世から消え去る時である。そして、その時はもう近づいてきている。

 ジャニィ・ジャニスは片膝立ちの状態から少しソファーから距離を、相手に気付かれないように取る。そして両足に力を込めると、ソファーを背もたれごとジャンプをして一気に飛び越える。銃弾もジャニィ・ジャニスの下を哀れに通過するのみだ。そのままガラスのテーブルに着地をすると、バランスを崩さずに右へと歩を一気に進める。銃弾がそれを追いかけるが、ジャニィ・ジャニスの体にそれが当たる前にガラスのテーブルに着弾し、それを破壊するのみ。銃を放たれた本人は柱時計の陰に隠れて銃を放っていた男の目の前に、姿勢を低くした彼女が現れ、股間を下から引き裂く。

 男の声ならぬ声が部屋へ響く。しかしジャニィ・ジャニスはそれを全く意に介さず、素早く左へと体を動かす。当然のようにそこに着弾があるが、それも気にはしない。そのまま後ろを振り返ると、丁度先程までジャニィ・ジャニスが身を潜めていた場所と対角線上のソファーに身を隠していた男がいた。それを見てジャニィ・ジャニスは次はジグザグを描くよう、左斜め上へと跳躍。そこに着地をした瞬間、次は右斜め上。そうして、銃弾を避けながら、いや動いた後に銃弾を降らせながら敵の懐に入る。

「辞世の句は?」

 ジャニィ・ジャニスは問う。しかしそれを聞く前に左手の大型ナイフが男の頸動脈を切った。聞いてみたのは、まあ単なるジョークだ。男の首から鮮血が飛び散るが、ジャニィ・ジャニスはそれを何でもないかのように確認なぞせず、先程自分が股間を斬りつけた男へと近づく。着地した瞬間の態勢が低すぎた為、そこを斬るしかなかったが、上辺だけ、骨を刃が当たらないように斬りつけた為、致命傷にはなっていない筈だ。今この男が倒れ込んでいるのは激痛の為。それを理解しているジャニィ・ジャニスはその場まで歩を進める。そして、至近距離から拳銃から三発、後頭部と心臓と肺を狙って銃弾を放った。それを浴びた男は、それまで呻き声を止める。違う、止まった。命の鼓動共に。

「そういや、初めて銃で人殺したなあ」

 そう独り言を呟くジャニィ・ジャニス。だが、別段何の意味もない。感傷もない。何があろうと自分は人殺しだ。今回はアレクシス・スパレティ捕獲もしくは殺害の為、正当防衛を盾に人を殺しているに過ぎない。そう考えてジャニィ・ジャニスは胸のホルスターに拳銃をしまう。やっぱり自分にはナイフが、刃物が一番手が合う。まあ一年のほとんどをその修業に費やしてきたのだから当然といえば当然なのだけれど。

 そして、ジャニィ・ジャニスは客間の出口、寝室部屋に通る扉の前へと歩く。

(雑な殺気だなあ……)

 扉の前のその一歩手前で止まり、ジャニィ・ジャニスは思案する。間違い無く、この扉の向こうには誰かがいる。おそらくこちらが扉を開けた瞬間に銃か何かで襲ってくるんだろう。しかし、その人を殺そうとする、殺気がこちらに駄々漏れである。まるで動かない、何もしなくてもありつける餌の生肉を前にした飼われた獣のよう。全く持って無駄な殺意だ。人を殺す覚悟は色々ある。殺気にも色々ある。だが、今扉の向こうから流れ出てくる殺気ははっきり言えば下の下だ。まず獲物にしたいであろうこちら側に気付かれている。そして気持ちが高揚しているのが手に取るように分かる。これでは獲物は狩れない。じゃあ、こちらがあちらを獲物にするだけの話だ。

 とは言えどうしたものか。扉の蝶番を見ると内開き、つまりこちら側に扉が開くようになっている。もし逆だったら、外開きだったら勢いをつけて扉を開けて、そのままアドバンテージを奪うのだけれど。

(まあ、考えても仕方が無いか)

 どちらにしろ、ここを通らなければアレクシス・スパレティの寝室には辿り着けない。あと、こんな大雑把な殺気を放つ人間に殺されるのは我慢ならない。いや、死ぬのはどんな状況だって勘弁して欲しいのだけれど。

 ジャニィ・ジャニスは姿勢を低くし、両開きの扉のドアノブに手を掛ける。そのままゆっくりと扉を開けた。するとバシュンという発射音がし、扉の一部と部屋の中の調達品に銃痕を残す。

(散弾銃か)

 ジャニィ・ジャニスはすぐさま相手の武器を判別すると、素早く扉から部屋を出る。それは相手が散弾銃の弾を装填する為、ポンプ・アクションをスライドするのとほぼ同時だった。そのまま相手は銃口をジャニィ・ジャニスに向けようとする。が、ジャニィ・ジャニスは低い体勢から勢い良く膝で散弾銃のポンプ部分を蹴り上げる。

 パシュン。

 先程と同じく散弾銃から散弾が発射された音がする。だがそれは狙いを付けようとした場所には、ジャニィ・ジャニスがいた場所には発射されなかった。パラパラと天井から破片と埃が落ちてくる。ジャニィ・ジャニスの膝蹴りによって銃口は天井に向けられ、そこに散弾は発射された。そしてそれと同時に、男が散弾銃の弾鉄を引くと同時に右手のナイフが男の喉をバッサリと切り裂いていた。そのまま血を噴出しつつ、ドサリと倒れた。

「ふう」

 ジャニィ・ジャニスは一息つく。が、すぐさまその童顔を険しくし、大型ナイフを鞘に仕舞うと倒れている男が先程まで撃っていたショットガンを手にする。そして構えると虚空の寝室部屋の廊下へと散弾を三発発射する。

 ガシャ、バシュン。

 ガシャ、バシュン。

 ガシャ、バシュン。

 まあ、効果は期待していない。流石に敵が廊下に棒立ちしているとは考えがたい。こんな怜悧な殺気を発する相手が。先程までそこで死んでいる男が出していた雑な殺気とは比べものにならない。こちらを殺害しようとする、その意志は変わらない。だが、今殺気を出している相手は自分の腕に自信を持ち、相手を殺す事を何も躊躇しない。そう、これは野生の、野獣の殺気だ。これ程の腕前なら殺気を消す事も可能だろう。これは「よくここまで辿り着いた」という意味か? それとも「よくぞここまで辿り着いてくれたな」という意味だろうか。まあどちらにしろジャニィ・ジャニスにとってはここで屠るしかない。中途半端ではこちらが喰われる。

 さて、どうするか。普通ならば慎重に歩を進めるのが常道である。が、相手はその常道を狙っている気がしないでもない。ならば、その道を外せばいい。

 ふ、っとジャニィ・ジャニスは息を吸い込むと廊下をまるで薫風のように駆ける。相手がどう動くかは分からないが、アレクシス・スパレティの寝室に向かうのを防ぐのならば自分の走りを止めねばなるまい。つまり、すぐに動いてくる。そうジャニィ・ジャニスは読んだ。

「きえああああああ!」

 するとジャニィ・ジャニスが走っている前のドアが開き、赤い髪をした長身の女が、飛び上がりながらほぼ垂直に右足を振り下ろしてきた。ジャニィ・ジャニスはスピードの勢いをすぐさま落とし、と言うかその場で止まりそれを僅かな後退で避ける。大斧のように振り下ろされた女の右足は風を切る音共に空振る。

 「!?」

 そこでジャニィ・ジャニスの直感が働く。これは、罠だ。ジャニィ・ジャニスは後ろから這いよるもうひとつの気配を感じる。殺気は一つ。だがこの場にいたのは二人。女が殺気を放っていたのも、あえて奇声を上げ派手な飛び蹴りを見せたのも、これが狙い。自分に狙いを定めた狩人は気配を消し、殺気を消していたのだ。このままでは殺られる。しかしジャニィ・ジャニスは自分の狙われている箇所が頭であると直感し、態勢を低くしながら後転をする。

 後転して何とか相手の攻撃を避けたジャニィ・ジャニスの、避ける前の頭のあたりに黒い塊が突き出される。それは拳の形をしているが肘から先が黒く鈍い色をしており、ただの腕では、拳ではない事を表わしていた。その拳らしきものは空振りをしてもその一撃を止めることが出来ず、壁へと直撃する。すると爆音が起きると同時に煤に塗れた煙が排出される。そして、それは、壁に穴を開けた。

 それを見て、相手の武器が壁に刺さったのを見てジャニィ・ジャニスはナイフの柄に手を掛ける。ピンチの後にチャンスあり、か。しかしその見込はすぐに消え去る。

「ラジー、動くな」

 赤い髪の、と言うかよく見るとほぼ全身が赤い女がラジーと呼んだ男の肩に手を置くと曲芸師のようにそこを支点に飛び越えながら体を横回転させ、横後ろ回し蹴りを放ってくる。先程の上からの飛び蹴りとは違い、膝を伸ばし半径を最大に広げた、完全に『当てる』つもりの蹴りだ。

 ジャニィ・ジャニスはまた後退を余儀なくされる。カウンターを狙えるかもしれないが、後ろの男の存在がまだ不気味だ。ここはあえて後退し、態勢と自分の心を整える。ジャニィ・ジャニスはそう選択した。

 女は伸ばされた足を風車のように廻す。足裏がジャニィ・ジャニスの眼前を風切り音と共に通りすぎる。女は蹴りが空振りしても全くバランスを崩さず、ガチャリと音を立てて着地をしそれと同時に腕を目線まで上げ、構えを取る。そこには隙はない。

「おい、マギー、やべえぞ、壁に穴開けちまった」

 男は思ったより胡乱な声で女に喋りかける。壁に刺さった腕―それはやはり義手だった―を引き抜き、女の右横に歩きながら立つ。目立つのはやはり義手だ。それは手首から先、拳が四本の棒状の物で突き出ている。おそらくだが蒸気機関の力を用いて、拳に強い衝撃を与えると噴出するように出来ているのだろう。つまり、パンチを相手に当てると蒸気の暴力が相手を襲う、という事だ。男はその突き出た拳を右手で押し込み、ガチャリと腕に填め込む。

「後で謝っておけばいいさ」

「そうかな、大丈夫かなあ、首領、怒ると怖いからなあ」

 二人で軽口を叩き合うが、隙は見付からない。これはまた厄介な相手が、しかも二人。

「で、まさか首領を狙う蟻ん子がこーんなちびっ子だとはなあ、びっくりじゃねえか、マギー」

「どんな相手だろうと、どんな見た目でも油断なんかするんじゃないよ、ラジー。実際こいつは私達の奇襲を捌ききった。普通の相手ならとっくの前に昇天してるはずさ」

 ラジーと呼ばれた男は顔からは薄ら笑いを外さず、それでいて隙を見せずに答える。

「んなこたぁ分かってるっての。まあとっとと片付けて、他の虫を潰しに行かなきゃいけねえからな」

 二人の会話を聞きつつ、ジャニィ・ジャニスは頭の中で自分の戦略を、目の前の二人をどう殺すかを考えていた。前の二人が自分を殺す事をさも当然の様に話しているように、ジャニィ・ジャニスは頭の中で殺し方を計算している。そういう意味ではどっちもどっちだ。と言っても結局相手がどう動くかだが、男の義手と女のブーツの秘密を知った自分は人数的には不利だが情報的には有利だ。

「お姉さんのブーツってさあ」

 ジャニィ・ジャニスは二人の会話に割って入る。二人は少し険しい顔をするが、構わず口を開く。

「鉄か何か入ってるでしょ? さっき着地する時に重そうな音がしたもんね。それで蹴られたら、確かに普通じゃいられないよねえー」

「……それが、どうかしたのかい?」

「いや、ただ思った事を口にしただけですよ?」

 ジャニィ・ジャニスとしては普段通りの口調で接しただけだったが、マギーという女には挑発と受け取られたらしい。まあそれはそれとして、別段悪い状況ではない。

「ラジー」

「あいよ」

「私が前線に立つ。あんたはこの小娘が隙を見せたら自慢の左手を見舞ってやりな」

 ラジーは少し鼻白む。

「何だよ、お前おいしいとこ取りかよ」

「違う。私とあんたはいつもコンビを組んでる訳じゃない。ここで二人同時に襲いかかっても、下手に乱れてこっちが隙を見せたら殺られる。だったら、私がこいつの動きを乱すなり蹴りを当てるなりして、最後にあんたが止めを刺した方がいい」

「あー分かった分かった、それでいいわ。おいお嬢ちゃん」

 ラジーはヘラヘラと笑いながらジャニィ・ジャニスに喋りかける。

「つー訳で、下手かましたらお前の頭が吹っ飛ぶか、土手っ腹に穴が空くからな。覚悟決めとけよ」

 ジャニィ・ジャニスはそれを軽く無視し、

「終わった? じゃあ行くよ」

と言って右手にいつもの大型ナイフを持つ。そしてフレアスカートを捲り上げるとサバイバルナイフを左手に構えた。

「……それでいいのかい?」

 マギーが言う。顔には少しだけ怒りの表情が見られる。

「両手とも、その長い奴じゃなくて? それとも何かい、私相手にはサバイバルナイフで十分って訳?」

「無駄口叩かずに、早くかかってきなよ」

 その一言が戦いの火蓋を切った。マギーの左中段蹴りが半円を描いてジャニィ・ジャニスを襲う。よく見ればこの二人、かなりの身長差がある為、中段蹴りで十分ジャニィ・ジャニスの頭に到達する。それを意識してかせずか、ジャニィ・ジャニスはサバイバルナイフの刃の平を使ってマギーの蹴りを上へと流す。蹴りを避けられたマギーはそれを気にせず、体をぐるりと一回転させ、正面を向く。

 それを確認したジャニィ・ジャニスは右手の大型ナイフで右斜めに突きを出す。ラジーの影が見えたからだ。ラジーは少し動きを見せたものの、その突きを見てまた後ろへと下がる。

 その突きが戻るか否かの瞬間、マギーは次に右の下段蹴りを出す。下段の蹴りならばサバイバルナイフで捌こうとするなら態勢を低くせざる負えず、また通常の格闘術のように足を上げて防御をしようとすれば、鉄板入りブーツで脛の骨を砕く事が出来る。どちらにしろ、悪い方向には行かない。そう考えたのだろう。が、ジャニィ・ジャニスにはその考えは、その攻撃は折り込み済みだ。そうしてジャニィ・ジャニスはまるで大型ナイフの突きの戻りの反動を利用したかのように、軽く後方へとジャンプして避ける。ここで蹴りを躱されたマギーは背を見せる。ただ、そこで相手の回し蹴りを躱したとしても、自身のスピードを利用してすぐに飛び込み斬りかかるような真似はジャニィ・ジャニスはしない。相手には一番最初に見た後ろ回し蹴りもある。あれをカウンターで、鉄入りの靴で食らうのはいただけない。それにあの手。最初は気付かなかったが、マギーという女は立ち技を使う人間としては珍しく拳を握らずに構えている。だが、その理由はすぐに分かった。爪が尖っている。おそらく付け爪であろうが、それで蹴りを躱し懐に入った相手を突きで迎撃するのだろう。あれならば動脈がある部分なら掠るだけで致命傷になりかねないし、他の部分でも体の中心部を突かれてもただでは済むまい。

 下段の蹴りも避けられたマギーは再びぐるりと回る。そして動きをすぐに止めるとそれでは、と言わんばかりに爪先を使った前蹴りを放つ。間合いをそろそろ掴みかけているジャニィ・ジャニスは相手の足裏での押し上げも意識しつつ再び後退しつつ、マギーの後ろに控えているラジーにも気を回す。

 ここで一旦両者、ラジーを入れれば三人の動きが止まる。ジャニィ・ジャニスは当然、そしておそらく相手もお互いがただでは済まない相手である事を理解する。

(強い、というか厄介なんだよなあ)

 ジャニィ・ジャニスは思う。一対一ならもう少しやりようがある気がする。ただ、どうしても後ろの義手を持った男の存在がジャニィ・ジャニスの動きを制限する。一手間違えば、命がない。それは銃弾の雨の中をまるで何事もないように走り抜け、人を殺すジャニィ・ジャニスらしからぬ考えかもしれない。命の危険ならば銃弾でも同じなのだから。しかし、ジャニィ・ジャニスはこのような状況で戦うのは初めてだし、師匠にも教わってない。何より師匠のように相手が剣士なら腕試しと言わんばかりに勝負を挑むような、そんな精神は持ち合わせていないのだ。だがこのままでは埒が明かない。どうせなら二人同時に掛かってきてもらった方が泥仕合に持ち込め、勝ちの割合が上がるような気もするが、そんな弱気はすぐに捨てる。しょうがない。罠に嵌めよう。なるべくならばリスクの少ない方法で。ジャニィ・ジャニスは脳をフル回転させ、一瞬で自分の取る行動を構築する。

 若干離れた間合い。両者の攻撃は当たらない間合い。そこでジャニィ・ジャニスは構えを解き、両手の武器をだらりと下げる。そのままの態勢で歩を進める。

「くっ!」

 マギーはその柳眉を歪め、足を一歩進め軸足を変えると右足で中段の回し蹴りをジャニィ・ジャニスの頭に狙いを定め放ってくる。

 読み通り。構えを下げればその場所に蹴りを打ち込んでくると、ジャニィ・ジャニスは思っていた。先からの相対で相手の性格はなんとなく掴めている。こんな小娘に挑発された事が許せないのだろう。腕に自信があればこその、嵌ってしまう罠。

 ジャニィ・ジャニスの体は自然と動く。左手のサバイバルナイフを迅雷の速度で上方へとあげる。そのまま先程とは違い刃の部分でマギーのブーツを垂直にぶつける。刃の部分が欠けるが、気にはしない。そのまま勢い良くマギーの足を跳ね上げ、股の下をくぐりつつ右の大型ナイフでマギーの太股の付け根を深く、しかし骨には当たらないように斬る。

「ぐぎゃあああああああ」

 マギーの悲鳴が上がる。が、ジャニィ・ジャニスはそちらを一瞥もしない。何故ならば、その眼の前にはもう一人の敵がいるのだから。

「テメエっ!」

 初めてそのにやけた表情の仮面を外し、ラジーは一気にジャニィ・ジャニスへの間合いを詰める。そのまま黒い左手を一直線に放ってくる。が、それもすでにジャニィ・ジャニスは理解している、というよりこの男にはそれしか無い。ジャニィ・ジャニスは向かってくるラジーへと近づく。そして放たれた、いや放たれようとしたラジーの拳を腕が伸びきる前にサバイバルナイフの切先で突き、その瞬間に柄から手を離す。爆音と煤けた煙。衝撃を受け、それをまともに浴びたサバイバルナイフがすごい速度で後方へと跳ねる。そしてジャニィ・ジャニスは本来狙った相手とは違う物に打ち出された拳を確認し、拳と手首と間にある棒状の物を左手で掴む。

「つーかまーえた」

 ジャニィ・ジャニスはそのまま相手に抵抗の隙を与えず、右手の大型ナイフで頸動脈を一直線に斬る。そして左足で横蹴りを入れて少しでも動脈から噴出する血を浴びない努力をした。それでも少し浴びてしまったけれど。

「さてと」

 そのままくるりとジャニィ・ジャニスはクルリと回る。視線の先には髪を赤く染め、体を真っ赤な衣装に包んだ女、マギー。その女は右太腿を裂かれ、そこから滝のように血を流しながらそれでも立っていた。両手の爪を壁に突き刺し、それを支えに憤怒の表情でジャニィ・ジャニスを睨みつける。

「殺す」

 マギーは叫ぶ。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す! お前だけは、必ず、殺す!」

 まるでその言葉は彼女が纏っている服の色のように、憤怒の赤い炎のようだ。

「そんな体で?」

 しかしそんな呪詛を込められたかのような叫びを聞きながら、ジャニィ・ジャニスは涼しい顔で答える。

「この体がどうなろうとも! もしこの場で死ぬとしても! お前は、殺す!」

 マギーがそう言い終わった後、彼女の後頭部が爆ぜた。反動でガクリと首が項垂れた格好になる。そこに体目がけて三発の銃弾が打ち込まれる。ジャニィ・ジャニスに太腿を斬られても、その執念で地に倒れる事をよしとせず、ジャニィ・ジャニスを殺すと叫んでいた女は、事切れた。体から力が抜け、壁に爪を突き刺したままズルズルと倒れる。

 銃弾を放ったのはマキだった。ライフルを背負った姿で現れた彼女はそのまますたすたと歩き、自分が撃った女の姿を確認する。そして自分の銃の残弾を確認すると残り全ての弾を彼女の死体に浴びせた。そして予備の弾倉を銃に装填する。

「マキお姉ちゃん、弾もったいなーい。タダじゃないのにー」

 ジャニィ・ジャニスはマキの行為に抗議する。

「残弾が中途半端だったのよ。それより相手に止めを刺さずにいるあなたを私は抗議したいわね」

 マキもジャニィ・ジャニスを批判する。 

「止めを誘うと思ったらマキお姉ちゃんの気配を感じたの。そこで近づいたら流れ弾に当たるかもしれないじゃん。むしろあたしの判断を褒めてほしい所だよ。ところで一階はどうなったの?」

「ほぼ制圧したわ。じゃなきゃ私がここまで上がってこれないでしょうし。それにしても……」

「にしても?」

「スイフトさんって、凄腕だったのねえ……。十日間であれだけ腕を立つハンターを集めるなんて。というか世界は広いわ。私もまだまだ、旅をしながら鍛錬しないと」

 ジャニィ・ジャニスは素直に感心する。

「ヘー、そんなにすごい人達だったんだ」

「正直、あんな人達相手にリーダー面していた自分が恥ずかしいわ……」

「じゃ、早く行かないと」

 ジャニィ・ジャニスはそう言うと目的地であるアレクシスの寝室へと歩いていく。

「どうしたの? JJ」

「だってそんなすごい人達だったら、美味しい所取られるかもしれないじゃん。一応あたし達がクライアントだし。最後は自分達で決めないと」

 マキはそれに付いて行きながら言葉をジャニィ・ジャニスにかける。

「一応、そこら辺は言っておいたけど」

「まあまあ。もう人の気配も殺気もしないし、とっとと終わらせようよ」

 そのままスイスイとジャニィ・ジャニスは歩く。それにマキは付いていく。廊下を道なりに進み、その通達点の角を左に曲がる。そこの左側に、扉がある。

「マキお姉ちゃん、どうする?」

 ジャニィ・ジャニスは一応小声でマキに問い掛ける。

「どうする、って別にいつも通り、あなたの好きなやり方でいいわよ」

 マキもそれと同じく小声で答える。

「じゃ、リクエスト通りいつもの方法で」

 そう言うとジャニィ・ジャニスはあらためて両手に大型ナイフを構えるとそのまま扉の前へ進み、蹴りで扉を開けると間髪入れず部屋の中へと突入する。扉には鍵が掛けられてなかったので、勢い良く部屋へ侵入しながら部屋を見渡す。いるのは男一人。白髪の混じった髪をオールバックにしバスローブを身に纏いソファーで寛いでいた。それを見やりジャニィ・ジャニスは豪奢な調達品を迂回しながら相手に全く反応させずに喉に刃を向けた。

 いや、違うな。ジャニィ・ジャニスには分かった。この男は反応出来なかったのではない。反応をしなかったのだ。それが何を意図するか、現段階のジャニィ・ジャニスには判断出来ない。

「アレクシス・スパレティ?」

「ああ」

 オールバックの男は低音の声で何の事もなげに答える。喉元に刃を突き付けられている状況ですら、何も無いかのように。

「生きたい? 死にたい?」

 ジャニィ・ジャニスは直球で問い掛ける。しかしそんな質問をまるで無視するかのように、マキの姿も確認したらしいアレクシスはこう口を開く。

「俺の家に侵入したの賊は君達か?」

「賊って言われるのは心外だなー。あたし達、賞金稼ぎですから」

 そこでアレクシスは少し笑う。

「なるほど、それはすまんね。まあ聞くまでもないかもしれんが、ラジーとマギー、左手が義手の男と髪が赤い女、その二人はどうした?」

「殺したよ」

「そうか。まあじゃあとりあえず先程の質問に質問で聞くが、何故一気に俺を殺さない? 一応俺は『生死問わず』じゃないのか?」

 アレクシスはこのような状況でも周りに与える余裕さを失わない。まるで全てを達観しているかのようだ。

「殺すと死体運ぶの面倒だもん。でも抵抗したら容赦なく殺すけど」

 そんなアレクシスに対して、ジャニィ・ジャニスも普段のペースを全く乱さない。今のような有利な状況であろうと不利な状況だろうと、心を乱すようには頭が出来ていない。

「面白いな。まあ答えておくと自分の希望云々を省いておいて、俺が死ぬと色々問題が発生するんでな。答えは『殺さないでくれ』だ。だからすまんがこの喉に突き付けられているものを下げてくれんかね?」

「なんで?」

「これじゃあ酒が飲めん」

「JJ! そんな事聞く必要ないわよ!」

 後方からマキの声が飛ぶ。今アレクシスから目を離す訳に行かないが、おそらく後ろで銃を構えているのであろう。

「まあそういうな、後ろのお嬢さん。今の俺の格好を見ろ。バスローブだ。銃か何か武器を隠せるような格好に見えるか? まあ実際この部屋には銃はある。ただしそれは後ろにある、ここから取るにはどう考えても時間がかかる机の引き出しの中だ。そして最後に。俺はここ二十年ほど自分で銃を撃っていない。そんな事しなくていい立場に、むしろ誰かに撃てと命令する立場になったからな。何人も何十人も殺せと命じた事はあるが、自分の手は汚してない。な、分かったろ。俺には抵抗の意思はない。ラジーとマギーですら殺られている。だからこの刃物をちょっとだけ下げてくれ」

「マキお姉ちゃん」

「……好きにしていいわよ。ただしアレクシス・スパレティ、下手な動きしたら私が撃つわよ?」

 そうしてジャニィ・ジャニスは喉元から大型ナイフを下げた。と言っても、決して刃の死線を相手から逸らす事はない。何かあったら首を斬りつけられる、そんな構えを取った。

「悪いな。どうにもストレスが溜まる仕事やってると、酒が手放せなくていかん」

 アレクシス・スパレティはそう言うとテーブルに置いてあるグラスを手にし、琥珀色の酒を一口飲む。

「小さいお嬢さんはまだ酒を飲む歳じゃなさそうだな。なるほど、天下の“スパレティ一家”の首領が年端もいかぬ娘達に捕まるか。悪くない冗談だ。これなら忠告通り逃げるべきだったかな?」

 そこまで言うとアレクシスは静かに笑った。

 どこまでも他人を食った男だ。ジャニィ・ジャニスはアレクシスに対してそんな印象を持つ。これが、こうでなくては犯罪組織のボスは務まらないのだろうか。まあいいか。自分は自分の疑問をぶつけてみよう。

「どうしておじさんが死ぬと色々困るの?」

 ジャニィ・ジャニスは聞く。命乞いではない、組織の為に死ねないというアレクシス・スパレティに対して。

「それ程大したことじゃないがな。まあ俺はここで君達に捕まって“協会”を経由して警察に身柄を拘束される。まあ色々と難癖を付けられて刑罰を食らって刑務所に入る。ここまではいいな? で、君達はこう思う。『これで安心だ』ってな」

 そこでアレクシスはまた一口酒を飲む。

「だがそうはいかない。生きてる限りこの組織の首領はまだ俺だ。そして悪いが俺ぐらいならムショの中でも色々と指示を出す事が出来る。あれをやれ、これをやれってな。逆に俺がここで死んじまうと新しい首領を決めなくちゃいけない。まあ普通に考えれば一番上の息子のジャンピエロが筆頭候補だが、あいつに反感を持っている大幹部がいるってにも俺には分かってる。下手すりゃ次男のジュゼッペを持ち上げる奴らも出るかもしれん。そんなふうに組織が割れるのは俺の本意じゃない。だから俺はムショで臭い飯を食う事になっても全く構わん。ここで死ぬよりはマシだ」

「そりゃ死ぬよりは生きてる方がマシに決まってるでしょ」

 マキが銃口をアレクシスから外さずに言う。

「死にたくない言い訳じゃなくて?」

「どう取ろうとも構わんよ。ただ俺に生き死にの選択肢を与えたのはそっちだ」

 ジャニィ・ジャニスが口を開く。

「どうする? 殺さないと状況変わらないなら、殺しとく?」

 マキは盛大に息を吐く。

「正直、もうどっちでもいいわ。私達は自分達の仕事をしたまで。この街の犯罪がどうなろうと構わない。私は撃たない。弾がもったいないわ」

 先程死体に銃弾を浴びせた事は忘れたかのようにマキは呟く。

「じゃ、あたしも殺さない。死体運び面倒だし」

 ジャニィ・ジャニスはマキに返答すると次はアレクシスに命令する。

「じゃあ、立って。今から連行するから。ああ、お酒はもう一口だけ飲んでもいいよ。あたし優しいから」

「かかか、本当に優しいなあ、お嬢さん。だが酒はもういい。それより着替えさせてくれ。俺にもそれなりのプライドがある。この格好で捕まるのは堪らんからな」

 そう言われてジャニィ・ジャニスは問う。

「着替え中に変な事しない?」

「したら君達は俺を容赦なく殺すだろう? まあ今からちょっと裸になるが、それで君達が目を離しても何もせんさ。無駄な事はしない主義でね」

 そう言ってアレクシスは悠々と立ち上がりクロークの前に立ち、バスローブを脱ぐ。下着一枚の所に白いシャツを一枚着、黒いズボンを履く。

「待たせたな」

「スーツとか着るんじゃないんだ」

 ジャニィ・ジャニスは素朴な疑問を言う。

「どうせ捕まりに行くんだ、そこまで着飾る必要はないと思ってね。“協会”や警察の奴らに俺の自慢のスーツを見せてやる必要はない」

「そんなもんなの?」

「そんなもんだ。じゃあ、行くか」

 アレクシスは銃口をいまだに自分に向けるマキの横を通って扉を開けようとする。

「付いてこないのか?」

「大丈夫だよー」

 ジャニィ・ジャニスが言いながら、扉を開けて先に部屋を出る。

「あたしがエスコートしてあげる。おじさんは自分の部下の死体を見ながら、自分の失態を、自分の所業を噛み締めながら、付いてこればいいよ」

 こうしてマクガルド最大の犯罪組織の長は『ブラック・ウィドウ』に捕縛された。


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