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ブラック・ウィドウ  作者: 橋高 幸克
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第七章

農場と牧場を兼ねた広い、広大な土地。

 そこは一人の女を主人とし、その弟、そして彼女達の親戚達と使用人で運用されている。

 実の所を言うと、彼女達は生活をする為ならば農場や牧場を経営する必要はない。何故ならば、過去に行った所業で一生遊んで暮らせる、とまでは言わないが極々普通の生活を送る程の金銭を得ているからだ。その所業とは、盗賊。彼女達は元盗賊だった。

 しかし、それは単なる盗賊ではない。彼女達の獲物は市井の一般市民ではない。彼女達に狩られた哀れな食餌は、同じ盗賊。“盗賊狩りの黒後家蜘蛛”、『ブラック・ウィドウ』とは彼女達の事だった。

 市民は彼女達の行為に密かな喝采をあげ、盗賊達は蛇蠍の如く嫌いながら恐れ、警察と“協会”はその存在をあえて無視した。そして彼女達は少々の犠牲と共に盗賊等の悪党のみに狙いを付け、狩り、金を奪っていった。

 しかしそんな『ブラック・ウィドウ』は突然、活動をピタリと止めた。その事に気付くのに世間は少し時間がかかったが、それが判明した時、市民は落胆し、盗賊達は安堵し、警察と“協会”はやはり無視をした。

 そして、その中に何故『ブラック・ウィドウ』がその活動を止めたかの真の理由を知る者はいない。

 彼女達が、と言うよりリーダーである女がその盗賊狩りの活動を止める事を決めたのは、三人の孤児を拾ったからだ。別段、この時代に孤児の存在は不思議ではない。何故その時、その三人を拾い、育てようと思ったかも今では定かではない。弟は「姉さんはいつも気まぐれだったじゃないか」などと言うが、それもあながち間違いではない、と思う。何となく思ったのだ。この子達を育てるのもやぶさかではない、と。もしかしたら血の泥寧の中で生活するのに疲れていたのかもしれない。だが、それは多分言い訳だろう。

 とにかく、三人の孤児を拾い、盗賊家業から足を洗った時、次に何をするかはもう既に決まっていた。なにしろ、彼女の生まれは農場だったのだから。結婚する前は農家の娘としてその仕事を手伝っていたのだから、何も問題はなかった。

 土地は死んだ父が残してくれていた物の所有権がまだ弟に残っていた。父が死んでから誰も整備をしていなかったからそれを元に戻すのに少々時間は掛かったが(慣れない子供の世話もあったので予想よりは少しずれたが)、それでも麦や馬鈴薯を育てるには十分の畑を形成する事が出来た。牧場も従弟達に任せたがすぐに乳牛を放牧させられるようにもなった。

 後の問題は子供達の世話だった。三人同時に拾った時はてっきり血が繋がっている三人姉妹だと思っていたが、実の所、三人とも別の家族の育ち、道端で寄り添って生きていただけだった。そう考えると一番上の子供が五歳だった事を考慮してみるだけで、よく生き延びたものだがそれも何かの天運だったんだろう。

 一番上の子はおっとりしていたが芯の強い子供だった。真ん中の子は子供にしてはしっかりしていて尚且つどこかに烈しい心を持っている子供だった。一番下の子は無邪気でやんちゃだったが、なんやかんや言って最後にはこちらの言うことを必ず守る子供だった。

 だが、今では三人とも、もうここにはいない。一番上の娘はその器量が認められ、こことは比べものにならない程の広大な土地と財産を持つ家の養子へと迎えられた。しかし、結末として最悪になってしまった。あの娘を養子にやった事は後悔していない。考えるのは自分達の所業があの娘に返ってしまったのでは、という事だがそれに関しても後悔はしない。そんな事は今考えても詮無い事だ。もしそうならばあの娘には悪い事をしてしまったのかもしれない。しかし、あのままだったら野垂れ死んでいただろうから、差し引きゼロにでもしておいてもらおう。

 そして二番目と三番目の子供は、先程この家から旅立っていった。姉の所在を探す為、一縷の望み、それも可能性が限り無く低く、また非常に効率の悪い探し方をする為、旅立った。自分だったら止める事は出来た。しかし止めなかった。何故ならば最初に決めていたのだ。この子達が将来どのような生き方をしようと止めない、と。それは孤児として拾った時から決めていた事だ。こちらの気持ちで拾って育てたのだから、その後の生き方を決めるのは彼女達の勝手だ。あの二人はこれから自分達がやってきたと同じく、血の泥に浸かった、屍の山に立つ人生を送る。普通の親なら止めるのだろう。だが、自分は普通の親ではない。義理の、血が繋がっていないという意味ではない。盗賊狩りとして人を殺し続けた自分だからこそ、止めなかった。いや、止められなかったのかもしれない。あの二人はすぐに死ぬかも知れない。だが、それでも止められなかったのだ。これも因業という奴だろうか。しかしこの事に関しても後悔はない。ナタリア・ヴァンクリフは、自分の夫が盗賊に殺され、少佐と呼ばれる男から一年修業を受け、この世に存在するありとありゆる盗賊を殺し続ける黒後家蜘蛛になると決めたその日から、後悔というものをしないと決めているのだ。

 そうしてナタリアは葉巻の端を切るとマッチで火を付けると煙を口の中で燻らせた。後悔はしていないが、葉巻を吸う本数がいつもより多いのは自覚していた。


「うーす、誰かいるかあ?」 

 そんな掛け声と共に、食堂のドアがノックもされずに押し開けられる。入ってきたのは褐色の肌を持ち、髪を短く刈り上げた長身の男だ。

「…アレンかい、どうしんだい一体」

 ナタリアは気怠そうに口から煙を吐いてから答える。

「せめてノックぐらいしないかい。あんたは相変わらずガサツだね」

「他の連中は?」

 しかしアレンと呼ばれた男、本名アレン・アーヴァインはナタリアの些細な批判を普通に受け流し、食堂に一人しかいない事への疑問をぶつけてくる。

「さあね。自分の部屋に篭ってるか、畑の様子でも見に行ったか、牧場にでも行ったんじゃないかい? まあこういう時は一人になりたいもんさ。全員が全員、かわいい娘みたいなもんを修羅羅刹の道へと送ちっまったんだから」

「姐さんはどうなんだよ?」

「どうって事もない、って訳じゃないが今さら気にしたってどうしようもないね。マキの方は私が人の殺し方を教えた訳だし」

 そう言うとナタリアは葉巻を口にする、前にアレンに問いをぶつける。

「JJの方の首尾はどうなんだい? あんたが言うように才能があるのは分かってるけどさ」

 アレンは食堂の上座に座っているナタリアの近くの席に座りつつ、

「まあ、上々だな。人に剣術教えるのは初めてだったが、弟子が優秀だからな」

と言う。続けて、

「今じゃJJは立派な殺戮機械だよ。いや、ここで言うべきは殺戮蜘蛛、か?」

と嘯いた。

「殺戮蜘蛛、ねえ……? まあ私の娘としては相応しい通り名か」

 ナタリアはそう言って葉巻に口を付け、煙を口に含む。そしてゆっくりとその香りを堪能してから口から吐き出す。

「で、あんたお得意の『脳味噌弄り』はJJにやったのかい?」

 アレンはナタリアの問いに肩をすくめる。

「やらねえと思ったか?」

「いや、思わないね。あんたが剣士としてあの時から今まで生きていられるのは剣術の力だけじゃない。あんたの頭の中が尋常じゃないくらい人殺しに特化してるからだって事ぐらい、付き合いが浅い訳じゃないからね」

 アレンはもう一度肩をすくめる。

「じゃあ聞かなきゃいいじゃねえか、なんて事は言わねえけどよ。まあ姐さんの可愛い末娘の頭の中を弄り回したのは事実だからな。人殺しても罪悪感を感じないスイッチとか、敵を目の前にして最適の人の殺し方とか、銃を目の前にした場合にどうしたら体をどう動かすとか、まあ他にも色々座学と称して色々やらせてもらったよ」

 ナタリアはそれを聞くとこう言った。

「そうかい、それを聞いて安心したよ」

「安心?」

「あの子は変に優しい所があるからね。そういうのが命取りになる場合があるって事ぐらい、分かるだろ?」

 アレンは少しだけ呆れた顔をする。

「姐さんは変わってねえな。農場やり出してから少しは落ち着いたと思ったら、自分の娘が殺人鬼に改造されて安心なんて言葉使うとは、やっぱりいまだに『黒後家蜘蛛』の女首領のままだよ」

「引退したさ」

「引退したって根っこは変わってねえよ。悪党は死んで当然だと思ってんだろ」

 アレンのその問いにナタリアは葉巻を咥える事で答える。そんな質問には一々答える必要はない、と言わんばかりに。

 少しの静寂。

「まあどちらにしろ、ここも寂しくなっちまうな」

 その静寂を破ったのはアレンだった。アレンはただ何となげに、呟いた。

「また養子でも貰ってくるかねえ…。無駄に家は大きいから、空き部屋も多いし。何だったらここを小さい孤児院にしたって構わないしさ」

「また姐さんらしくもない弱気な発言だな。そんなに今回の件が効いてるのか?」

「さあねえ…。自分でもそんなのは分からんね。分かるのは自分が自分の血の繋がらない娘達を自分と同じ道に送り出したって事だけさ。私はあの子達を拾って育てたのは贖罪のつもりなんかじゃなかった。ただの気まぐれだった。だけど何がどうなってこうなっちっまった。世の中ってのは複雑怪奇だねえ」

 アレンは首を傾げる。

「それと新しい養子を取る、ってのが繋がってないぜ、姐さん」

 それに対してナタリアは葉巻を口に取ってから、

「だからさっきも言ったろ? 自分で何がしたいか、今は分からないのさ。適当な愚痴ぐらい聞き流しな」

 と言い返し、どこか遠くを見るような目で、煙を吹かした。

 それを同時に食堂には完全に沈黙が現れたのだった。


***


「一回だけしか確認しねえ。嬢ちゃん達、冗談言ってるんじゃねえよな? 相手はこのマクガルドで一番の犯罪組織だぞ? そこの首領を、ピンポイントで狙うって言うんだな?」

 ロボスは先程まで吸っていた煙草を灰皿に捻り消しながら、目の前の二人、賞金稼ぎ『ブラック・ウィドウ』に問うた。

「冗談でこんな事言う教育は受けてないですよ?」

 金髪を煌めかせながら、マキ・ミリアム・ヴァンクリフはそう答えて葉巻を口にする。その声色はあくまで涼やかだ。

「そういう事。賞金額もこの街で一番高いし、賞金稼ぎが狙いを付けたって何も不思議な事はないと思うけどなあ?」

 天真爛漫と言わんばかりの顔で、ジャニィ・ジャニス・ヴァンクリフは言う。

「た、確かにそれはそうですが……しかし、それにしても、“スパレティ一家”の首領を狙うというのは……」

 スイフトは驚愕の台詞を吐きながら、それでも顔から微笑を消しはしない。無理矢理にでも張り付けているのは明白だが、それがこの男の矜持なのかもしれない。

「分かった分かった。あんた達が本気ってのはよーく分かった。だが警察はその件とは無関係だ。だいたい今は今回の組織のボス捕縛と麻薬押収でてんやわんやだしな。俺だって本来ならそっちの仕事やらなきゃならないのを、一旦抜け出してここにいる。そういう状況ってのをまず理解してくれや。それと、これは根本的な問題だが、あんた達がどんな懸賞首を狙おうと警察は介入出来ん。まあつまりだ」

 そこでロボスは煙草に火を付け、一気に吸い込むと紫煙を一気に吐き出し、

「勝手にやってくれって事だ」

 そしてもう一度煙草を口に加えながら、

「そっちは、“協会”としてはどうするつもりなんだ、スイフトさんよ」

 と言った。

「ええ、もちろんこちら側としてはハンターがどのような対象を狙おうと止める術はありません。我々はあくまで仲介者でしかありませんから」

 微笑は止めない。しかし動揺は止まらない。ジャニィ・ジャニスの目には今まで常に冷静だった男のそんな姿が、少し滑稽だった。

「しかしですね、今まで“スパレティ一家”の現在の首領、アレクシス・スパレティが一度も、ただ一度も賞金稼ぎに狙われず、警察の手からも逃れてきたのは理由があるのはもちろんご存知ですよね?」

「警察の事情は存じません」

 マキはあえてロボスには視線を向けずに答えた。協力が得られない人間を相手にする必要はない、と言わんばかりの態度だ。

「ただ、賞金稼ぎ、特にフランチャイズが狙わなかったのはよく分かります。一つの理由はあまりにも組織が強大な事。“スパレティ一家”は現在麻薬販売以外の犯罪という犯罪に手を染めています。賭博、売春、臓器密売、恐喝、武器密輸、その他諸々。それだけに資金も豊富、組織も強大。今では裏側だけでなく表の世界にも姿を現してきているという噂すら流れています。そして自分達の支配下に置かれた土地を十に分け、そこを大幹部と呼ばれる首領直下の人間達が管理する。敵に回すにはあまりにも強大です」

 マキはそこで一度区切って、葉巻を吸う。時間をかけて煙を燻らせ、言葉を続ける。

「そしてもう一つの理由。別段自慢出来る情報でもないですが、アレクシス・スパレティはこれだけ強大な組織の首領でありながら、いえ、だからこそかもしれませんが常に同じ所に留まる事をしません。ある時は幾つかある別宅の一つに、ある時は自分の息のかかったホテルのスイートルームに。本邸はあるにはあるがそこで寝泊まりするのは月に一度か二度。そしてどこに宿泊するかはその時のアレクシスの気持ち一つで変わると聞いています。どんなに準備をしたって、対象が定まらなければ狙いようがありませんから」

「あーあー、手伝わねえけど口挟ませてもらっていいか?」

 ロボスが手を上げ、意見を言う。

「言うまでもないが、警察だってそれぐらいの情報掴んでるからな?」

「勿論ですよ、ロボスさん。私達が掴んだ情報を警察が持ってない訳ないですから」

 マキはまるで天使のような笑顔でロボスに返答する。ジャニィ・ジャニスには分かっている。マキは、自分の義理の姉はこの状況を心の底から楽しんでいる。今まで主導権を握られていた前の二人に対し、現在はこちらがペースを握っているのだから。

「今まで警察が“スパレティ一家”を野放しにしていたのは二つの理由からですよね。一つは賄賂を受け取る汚職警官が多数いる事。奴らがそういった面で非常にマメな事も伝わっています。警察が何か動こうとしても、獅子身中の虫から情報が漏れてしまう。それで警察が“スパレティ一家”に何かしようとしても相手にはバレている。それでは動きようがないですから。そしてもう一つ。蛇の頭を潰しても、またすぐに蛇の頭が生えてしまう。実際、アレクシスの長兄のジャンピエロがすでに大幹部として組織内で働いていて、実績を挙げている。おそらくアレクシスを殺すか捕まえるかしたら彼が跡目を継ぐんでしょうね」

「ただ、奴は粗暴で思慮が足らんと有名だがな。だから一部の幹部の間では温和で頭もそこそこいい次男のジュゼッペに継がせたいと考えてるらしい。三男もいるが、まだ学生だから今の所は頭には入ってないな」

 ロボスは自ら手伝わないと宣言しておきながら、フォローを入れてくる。彼なりのエールだろうか、それともただ黙っていれない質なだけだろうか。

「それで、何故“スパレティ一家”を、アレクシス・スパレティを対象にしようと?」

 スイフトも口を挟む。だがこれは正当な疑問だ。今まで誰も狙わなかった大物賞金首を、目の前の二人組の女賞金稼ぎが何故狙う必要があるのか? “協会”のエージェントであるスイフトがそのような疑問を持つ事は、全く以ておかしくない。

「一つは、先程も言いましたが西側の中心だった犯罪組織に打撃を与えながら、東側に何もしない事に疑問を持った事。これはもしかしたらですが、これで“スパレティ一家”が西側への進行を進めて、マクガルド全てを自分達の支配下に置く事も考えられる。私達は自分達が関わった作戦が要因でそのような事象が起きるのは本意ではありません。これが一つ。もう一つは、単なる賞金の高さからです」

 一つは半分本当で、もう一つは方便だ。先のはそのアイデアを出した本人がジャニィ・ジャニスだからよく分かる。ただ疑問に思った事を形にしただけ。だけど本当は犯罪組織がどうなろうと、どう動こうとあまり興味はない。後付けの理由だ。二番目の理由は完全に方便。自分達に取っては賞金首の高さはそれ程比重は大きくない。今回の獲物のポイントは『マクガルド一の犯罪組織の首領』という所にある。どちらにしろ、自分達の名前を、悪名を上げるためにはそういった大物が必要なのだ。

「しかしですね、先程話が出たようにアレクシス・スパレティは所在を常に変えているんですよ? どうやって捕まえるというのです?」

 スイフトはどうしたいのか。止めたいのか。なにかまずい事があるのか。それともただ目の前の二人をみすみす死なせたくないだけなのか。その真相はジャニィ・ジャニスにはもちろん分からない。

「各月の二十日の夜」

 マキは少し溜めを作って口を開く。

「兎のごとく用心深いアレクシス・スパレティが唯一、絶対に同じ場所で寝泊りをする場所がある。何故ならその次の日はスパレティ家一同が集まる決まりがあるから。悪逆非道な組織の首領も孫は可愛いんでしょうね。……もう会う事は叶わないかもしれませんが」

 そこでマキは周りをぞわりとさせる殺気をわざわざ出す。無駄な殺気だなあ、とジャニィ・ジャニスは思わないでもないが、その真意はマキにしか分からない。ただおそらく、この殺気はロボスに対してではなく、無論ジャニィ・ジャニスにでもなく、この中で唯一実戦経験がないであろう男へのアピールである。その男に対してどれだけ効果があるのかは分からないが。

「また口挟むぞ。警察の名誉の為に言っとくが、その情報だって警察が掴んでないって訳じゃないからな」

 ロボスはもう煙草を吸っていない。ただ静かにマキの話を聞き、警察の名が汚れないよう、フォローを入れてくる。

「分かってます、ロボスさん。これはさっきの汚職警官の話と絡む訳ですよね? 逮捕しようと襲撃をかけようとしても、警察に入り込んだ鼠が兎に情報を流してしまう」

「そういう事だ。いくら慎重に準備しても、誰が鼠か分からない状況じゃ罠の張りようもない。そして上の方もそれを取り締まるつもりがない、と言うかおそらく上の方にも奴らは金を渡してる。俺がさっき手伝わねえ、って言ったのはそういう意味もあったんだ。こと“スパレティ一家”に関しては警察は期待してもらっちゃ困るのさ。何も出来ない所かそっちの情報ですら流れちまう可能性があるからな。まあ、俺は残念ながら勤勉で金なんざ渡す価値もない刑事と思われてるからな。この事も、この会議室で話されている事も誰にも話しやしねえ。それが俺の刑事としてのクソッタレなプライドだ」

 ロボスはそこでその存在を忘れていたかのように慌てて煙草を口に加え、植物油ライターで火を付ける。

「で、俺が、と言うより俺と二人の嬢ちゃんが聞きたいのは“協会”はどうするのかって事だ。どうせ止めれねえんだろう? じゃあ全面協力するしかねえんじゃねえか? それとも協会にも賄賂を貰っている奴がいるとか言うんじゃないだろうな?」

 スイフトはここまで言われても顔から微笑を消しはしない。

「いないと思いますよ。渡しても対費用効果的に割は合いませんし、何よりこうやってエージェントとハンターと、ついでに言えば警察が顔を合わせて作戦会議のようなものを行う事自体が珍しいですから」

「そんなもんか?」

「“協会”は自由主義なんですよ。賞金首を設定しました、だから賞金稼ぎの皆さんはどうぞ頑張って下さい、生死問わずでしたら殺してきても構いませんよ、と言う感じですから」

 スイフトはロボスの問いに答えると、正面の二人に視線を移す。

「最初話を聞いた時は正直動揺しましたが、いいでしょう、私は何も言いません。むしろあなた方は私に何かをさせようとしていますね? そうでなければ今この場でアレクシス・スパレティを標的にする、と言う発言の意味がない」

 そこまで言ってスイフトが眼鏡の弦を直す。 

「さあ、お二方。私に何をして欲しいんですか?」

 スイフトはどうやら先程のマキの殺気に当てられたらしい。彼がマキの放ったものが殺気であったのかどうか、気付いているかは別だが。

 そんなスイフトに対し、マキは笑顔で答える。まるで『やっと分かってくれたんですね!』と言わんばかりだ。そして、

「JJ、出してくれる?」

と言った。ジャニィ・ジャニスはそういえば自分がこの場でほとんど喋ってないなあ、と思いつつ、

「はーい」

と言って用意しておいた小降りの鞄を机の上に置き、ジッパーを開けて目的の物を出した。それは、札束だ。しかもかなりの金額の。

「ここに三百万を用意しました。これを六つに分け、六人の腕の立つハンターを用意立ててください。前金二十五万、成功報酬二十五万で。腕さえ確かならフランチャイズだろうとジャーニーだろうと品行方正だろうと素行不良だろうと何でも構いません。もちろん、今回の作戦に参加していただいたハンターの方達にはこのお金だけでなく、アレクシス・スパレティに掛けられた賞金も我々と等分で分け合います。決して悪い条件ではないと思いますが?」

 マキはスイフトに問いかける。

「それではあなた方の取り分が少なくなりますが?」

「あの賞金額なら十分お釣りが来ます。それに私達はまず悪党を、世に蔓延る悪党を狩りたい」

 最後の一言にマキは『ブラック・ウィドウ』の本音を混ぜる。『ブラック・ウィドウ』の目的は二つ。一つは悪党を狩りつくす事。もう一つは名を上げてエリザ姉さんを探し出す事だ。自分達の、『ブラック・ウィドウ』と言う名前が世で有名になればエリザ姉さんは必ず反応する筈。そう信じて二人は賞金稼ぎになった。最悪な事態など、二人は考えない。

 スイフトはゆっくりと息を吐く。

「……分かりました。このジミー・スイフト、全力を持って六人のハンターを集めましょう。今日が五日ですから、そうですね、十日間頂きましょう。アレクシス・スパレティの名に怯えない、命知らずで獰猛なハンターをご用意しますよ」

 よく見ればスイフトの顔から笑顔が消えている。流石に覚悟が決まったのだろうか、それとも自分の矜持を一瞬でも忘れたのか。

「五日間あれば作戦も色々と練れますね。こちらで色々と決めていましたが、実際にお会いして作戦を決めた方が効率もいいでしょうし」

「では」

 スイフトはそう言うと席を立つ。

「時は金なり、と言いますので早速私は動きましょう。お金は私がお預かりして宜しいですか?」

「ええ、JJ、鞄にお金を入れてスイフトさんにお渡しして」

「了解ー」

 ジャニィ・ジャニスは一度出した三百万の札束をきっちりと鞄に入れ、机を回りこんでスイフトに渡す。

「これでお願いしますね。腕が立って、ついでに私達を小娘だとタカをくくってすぐに死んじゃうような間抜けじゃないハンターを」

 スイフトは一度外した微笑の仮面をそこでまた顔にはめた。

「かしこまりました」

 鞄を受け取ったスイフトはそのまま部屋のドアに歩を進める。そして、

「では、十日後に」

 とだけ言うと部屋を出て行った。

「もう無関係な人間だが、一つ聞いていいか?」

 ロボスが二人に問いかける。

「まあこう言っちゃあなんだが、俺はジミー・スイフトって人間の事は信用している。何度もこうやって仕事をした仲だしな。だからあの男が一度言った事を反故にするとはこれっぽっちも思ってねえ。だがな、賞金稼ぎとなりゃ話は別だ。五十万、いや前金で二十五万払った後でそいつが逃げ出すか“スパレティ一家”にタレ込むって可能性は考えてねえのか? もしくは誰かから背後に銃弾を撃たれるってのは? 何も考えてませんでしたって事は無いだろうな?」

「これぐらいの小金で裏切るようならそこまでの人間。そんな事は気にしてられませんよ。もし撃たれそうになるなら、撃ち返すだけですし」

 マキはロボスの懸念に対し、こう答える。そして、こう続けた。

「ついでに、おそらくですけど“スパレティ一家”とは連絡を付ける事は難しいと思いますよ、私の考えでは」

「どういう事だ?」

 そこで今まで返答担当だったマキではなく、ジャニィ・ジャニスが口を挟んだ。

「かーんたんだよ、刑事さん。今回の依頼を受けたハンターの人達には、この間の私達と同じ目に遭ってもらうの!」

「はぁ?」

 マキがフォローを入れる。

「今回の依頼を受けたハンターには、先日の私達と同じく、この国際自警団協会マクガルド支部で生活を送ってもらいます。作戦の精度を高める為にもその方が都合がいいかと思いまして。もちろん自分達もまたここで生活するつもりです」

 ロボスは一瞬呆れた顔をすると、今日何本目か分からない煙草に火を付ける。

「全く末恐ろしい嬢ちゃん達だ。俺はあんたらと協力体制を取れる側にいて本当に良かったと思うよ。ただ……」

「ただ?」

「さっきのハンターを協会に留める件、まだスイフトさんに言ってねえだろ?」

 そう言われて、マキが急いで席を立つ。

「JJ、私はスイフトさんを探してくるわ。後はお願いね」

 そうしてマキはすぐさまに会議室から姿を消した。

「全く、忙しねえなあ」

 少しだけ顔に笑みを浮かべ、ロボスは煙草を吸う。

「ジャニィ・ジャニスの嬢ちゃん」

「? なんですか?」

 ジャニィ・ジャニスは会議室に残された二人の内の一人から呼び掛けを受け、反応した。

「もうここに二人しかいねえし、もう一人の嬢ちゃんにはこんな事言うと色々勘ぐられるかもしれねえから、あんたにしか言わないが」

 ロボスはそこで煙草を一気に吸い込み、こう言った。

「もう俺はあんた達の仕事に関われねえ。だから言っとく。俺はあんた達と仕事を出来て良かったよ。だから今回の件も成功する事を祈ってる。これが成功したらこの街はまたてんやわんやになるだろうが、それはこっちに任せとけ。こっちの事は気にすんな。あんた達の好きにやんな」

 ジャニィ・ジャニスは少し面を喰らった。まさかこの男から、こんな激励を受けるとは思っていなかったから。実の所、この話をした時から面倒を持ち込やがって、と煙たがられても仕方ないと思っていた。だからジャニィ・ジャニスは横にあったマキの吸いかけの葉巻を口にし、煙を口に思い切り燻らせてから、それを盛大に吐き出して、

「任せてください、少なくともこの街から悪党を一人消しますよ、この煙みたいに」

と答えた。


***


 スイフトは依頼を受けた仕事をしっかりとこなしてみせた。

 ジャニィ・ジャニスとマキの目の前には屈強な男が六人。“協会”の『第三特別会議室』に思い思いの格好で座っていた。

 しかしまあ、何とも言えぬご歴々である。禿頭で頬に大きい傷を付けた口髭の男はいるわ、短く刈り込んだ頭の下にはどうやって鍛えたかも想像出来ない筋肉を付けた男もいる。その他には顔が傷だらけでいかにもな男と坊主頭で痩身な男もいる。その一方で髪を長く伸ばし静かに佇んでいる、およそ賞金稼ぎとは思えない優男。その右横に座っているのが髭もじゃで髪もボサボサなのでその風体は際立って見える。だが、様相はこれからの仕事に一切関係ない。なによりこの場で一番場違いなのは誰あろうおおよその実年齢よりも童顔と言われる自分なのだから、とジャニィ・ジャニスは思う。

「さて」

 マキはそう言うと優雅に立ち上がる。それを見てジャニィ・ジャニスも慌てて続く。

「皆さんにはこちらの無理な願いを聞いていただき、大変有り難く思っております。ここでまずその感謝を」

 マキはそのままお辞儀をする。ジャニィ・ジャニスもそれに続く。

「仕事だ」

 顔が傷だらけの男が静かに口を開く。

「仕事として受けるべくかそうで無いかを考えた上でここにいる。別段感謝される謂れはない」

「条件としては悪く無いですしね。ただ相手が大物だということ以外」

 長髪の男が続く。

「まあどちらにしろ“協会”のエージェントから条件は色々聞いている。仕事として絶対に無理という訳じゃない。むしろ考えとしては悪くない。ただ今まで誰もやろうとしなかっただけだ」

 禿頭の男が低い声で言う。

「ありがとうございます、そう言って頂けると嬉しいです」

 そのままマキはジャニィ・ジャニスを即して椅子へと腰掛ける。

「では失礼して葉巻を。皆さんも遠慮はなさらずに」

 マキはいつものように葉巻の端を切るとマッチで火を付け、口に咥える。そのまま煙を一息。

「じゃあまず皆さんのお名前を、と言いたい所ですが正直うちの妹は頭がよろしくないので皆さんにはコードネームをつけたいかと思います」

「ひどい!」

「まあ、それは冗談として。何か最悪な状況になった場合を考えて、お互いの名前は教え合わないようにいたしましょう。皆さんは我々の名前はご存知かもしれませんが」

 マキは事も無げに鈴が鳴るような声で六人のハンター相手を軽やかに相手取る。

「失礼ですがコードネームで呼び合う事をこちらで決めさせていただきました」

 マキは左手を手の平を上にし、向かって左側から

「A、B、C、D、E、Fと。それで私の事はMでこの横の娘の事はJ、と読んでいただければ」

「クライアントの命には従おう。他のメンバーは知らんが」

 髭面の、コードネームはFに決まった男がボソリと呟く。

 静寂。

「これ以上の意見が出ないということは皆さんこれでご了承いただけたと判断してよろしいですね?」

「ああ」

 禿頭の男、Aが答える。

「不満はない。ただ」

 そこで一旦言葉を切る。

「どうやって“スパレティ一家”の親玉をやるんだ? 俺はその方法を、作戦を早く聞きたい。なんといっても五日間ここに軟禁されることを了承した上での参加だからな」

「すごく簡単ですよ。アレクシス・スパレティの邸宅に襲撃を掛け、吶喊する。以上です」

「ちょっと待ってくれ、そんな単純なのか? それであのマフィア共に喧嘩を売るのか?」

 坊主頭、Dが口を挟む。

「怖いですか?」

「そうは言ってねえ。ただそれだけなら誰だって出来るだろう。俺はこのメンバーの中に見知った顔もいるし、こんな条件を受けた時点で腕は信用してるが、それでも腑には落ちないぞ。勝てない勝負は挑んだってしょうがない。いくら前金積まれても、膨大な賞金が均等に分けられると言っても死んじゃおしまいだぜ?」

 マキはそれを聞いて葉巻をゆっくりを吸う。まるでそんな質問は想定内だと言わんばかりに。

「もちろんきっちりとした作戦は考えてありますよ? J、用意して」

 ジャニィ・ジャニスはJが一つ足りないだけでなんとなく違和感を感じるものだなあ、と思いつつ、目の前に机の上に畳んで置いておいた二つの紙片を広げて机の上に置く。

「まだ皆さんにはご説明していませんでしたが、アレクシス・スパレティは必ず二十日の夜、同じ邸宅に宿泊します。常日頃は定宿を決めない男にも拘らず。その紙の一つはその邸宅の見取り図です。と言っても残念ながら現在のではなく十五年程前のものですが、大掛かりな工事が行われたという情報は入っておりませんので、中はそれ程変わっていないと考えています」

 マキはそこで一度会話を区切る。

「もう一つはその邸宅の周辺の地図をなります。こちらはごく最近のものですのでご安心を。こちらで襲撃前の配置を決め、作戦を進めたいと」

「流石にあちらが何人護衛がいるかとかは分かってないですよね?」

 長髪の男、Eが聞く。

「そうですね、それが分かれば簡単なんですが…。まあしかし決して小さくはない家ですが、尋常でないほどの豪邸でもないのでそれ程の人数は配置出来ないかと。あと作戦は簡単ですし」

「簡単、とは?」

 Eが聞く。

「この邸宅の見取り図、一階の大広間から左の階段を上がり客間を通ると寝室部屋になります。その奥へと進むと一際大きい寝室があるのがお分かりになると思います。簡単にいえば、と言うか単純に考えればアレクシス・スパレティはここで休んでいる可能性が高い。それで、ここに一人吶喊要員を行かせます。それを行うのは隣りのJです」

「冗談か?」

 筋肉お化け、Bが短く聞く。

「本気ですよ? ここが冗談を言う場とでも?」

 そう言って葉巻を口にするマキ。

「マルコ・コステロ捕縛の件」

 そこで口に溜めた煙を吐く。

「その場にいたほとんどの人間を惨殺したのは彼女ですよ」

 いやいや、あの時は半数の人間をマキお姉ちゃんも銃で撃ち殺したじゃないですか。止めてくださいよそういう風に人の悪名拡散させるの。まあそれが目的で旅に出ているのだけど、自分一人で被るのはどうにも気持ちがぞわぞわとする。

「まあ、いいだろう」

 Aが言う。

「クライアントの言う事には口は挟まないのが俺の主義だ。依頼主がそういう作戦を出したって事はそれがこの二人、MとJが成功すると信じているならこっちはそれに最大限で協力するだけだ。成功すれば莫大な懸賞金も手に入る。それでいいんじゃねえのか、皆の衆?」

 顔が傷だらけの男、Cが口を開く。

「同意だな。簡単に言えば我々はそのJのフォローに回ればいいのだろう? 逆に言えば最前線に出なくてもいいと言う訳だ。邸内での配置にもよるが、安全な場所で獲物を狩る。相手があの“スパレティ一家”でも怖れる事はない」

「言い忘れてましたけど、皆さんには目出し帽を用意してますから。顔が割れる事もないですよ?」

 マキは涼やかに言う。

 そこでEが口を挟む。

「しかし本当にそれで成功するとでも?」

「しますよ」

 今までほとんど口を開かなかったジャニィ・ジャニスはゆっくり立ち上がりながら、その問いに答える。

「今からあたしが言う事に説得力があるかどうかなんかは分かりません。ただ一つ言える事は」

 そこで一旦ジャニィ・ジャニスは言葉を切る。

「悪党共の、魂の篭っていない、悪意と殺意しか篭ってない銃弾はあたしには当たらない。だからあたしが吶喊すればそれでこの仕事は終わる。皆さんはそのあたしの吶喊のフォローをして下さればそれで結構です」

「言うなあ、お嬢ちゃん」

 Dが言う。

「何かまじないにでも掛かってるってのか? 銃はそんなに甘くねえだろ?」

「分かってますよ。だからあたしはその銃に対抗する為に修行した。第一、銃が怖くて刃物を得物とする賞金稼ぎなんてやれると、やろうと思ったとでも?」

 ジャニィ・ジャニスが口を開く度に会議室の空気の温度が段々と下がっていく、そんな印象さえ見せるジャニィ・ジャニスの表情と口調。喋り方は別段おかしい所はない。ただ言霊に乗った彼女の漲る何かが、前の六人の強者に謂れもないプレッシャーを与えていく。

「J、そこまでよ」

 マキが止めに入る。

「申し訳ありません、もうこの娘ったら剣術だけは自信があるものだから……」

「いや、構わん」

 Aが喋る。

「今のでこちとらなんというか色々と覚悟が完全に決まったよ。アレクシス・スパレティはこのお嬢さんに任す。あとはこっちに任せとけ。他のメンバーももういいだろ? ここまで来たらやるしかない。命が惜しかったら向こうに情報をタレ込むぐらいだが、もう軟禁状態だ。それに向こうがこっちの命を保証するなんて甘い事も考えつかないしな。ここは乗っておくしかないだろう」

 沈黙が会議室を覆う。

「じゃあ、決まりだな。その二枚とにらめっこして作戦と配置を決めよう。時間はあるようでないからな」

「待ってくれ。いや、作戦を決行する事には疑問はない。ただ二人に聞きたい事がある」

 Fが口を開く。

「さっきMは『俺達には目出し帽は用意してある』と言った。つまりあんた達はそういう被り物はしないってことか?」

「黒いバンダナはしますけど、顔は隠さないですね」

「ついでに言えば今回の報酬は完全に八等分って事だがあんた達は俺達への報酬を出している。つまりその分俺達より貰いが少なくなるって事だ……はっきり聞こう、何か企んでるのか?」

 マキはその質問をぶつけられ、人差し指を顎に当て、少しだけ考える。

「まあ、いいでしょう、隠し事は良くないですしね。目出し帽をしない事も、報酬が少ない事も根っこは一緒です。聞かれなければ答えるつもりも無かったんですが。簡単に答えを言えば、皆さんには私達『ブラック・ウィドウ』の名前を世に広める為に協力してもらいます。顔を隠さないのは隠したら偽物が出るかもしれないから。そして皆さんに顔を隠してもらうのは自分達が目立つ為。その分、報酬は皆さんにお渡しする分を差し引いて私達が一番少なくなる。その分が『ブラック・ウィドウ』の売名分と思ってもらえれば」

 前の六人は押し黙った。いや、絶句したのかもしれない。この二人は、この女二人の賞金稼ぎはどこかが狂っていると、今気付いたのかもしれない。

 静寂を破ったのは、おそらくこの話に一番建設的なAだ。

「……あんたらがそれならそれでいい。だが、下手すると“スパレティ一家”の奴らから命狙われるぞ?」

「そこは安心してください。私達、この仕事が終わったらすぐにこの街から離れますから」

 そしてニコリとマキは笑顔を見せる。たおやかな、美しい笑顔。だけどジャニィ・ジャニスは知っている。この笑顔には、黒後家蜘蛛の毒が含まれている。そしてそれと同じ毒を、自分も持っているのだ。

「まあこの話はこれぐらいで。これからは、この街に蔓延るダニの親玉退治の話を進めましょう」

 マキはそう言うとまたニコリと、見た目には分からない残酷な笑みを浮かべた。



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