第二章
アレン・アーヴァインは目的地に到着すると愛馬の首元をポンポンと叩き労いの意を表する。今回は事が事だけにかなりの速度で走らせてしまった。アレンの愛馬はその労いに対し、ヒヒンと少し鳴く。おそらくだが『気にするな、相棒』と言っているに違いない。アレンはそう自分の都合のいいように解釈をする。そのまま勝手知ったる他人の家、と言わんばかりに厩舎へと向かい、愛馬を休ませる。近くにあった桶に巻藁を入れ、食べさせる。とりあえず今日は栄養を取ってゆっくり休め、相棒。
褐色の肌で髪を最大限までに刈り込んだアレンの様相は、一言で言えば『只者ではない』だろうか。黒く薄汚い、使いこなされたコート。腰には長い剣が二本、左右一対で差し込まれている。両脇にはガンメタル色した凶悪な様相のリボルバーピストル。どこをどう見ても市井の人間とは思われないだろう。
「さて、と」
あの話を聞いて飛ばしてここまで来たが、人がいるとしたらやっぱりいつもなら家族団欒するあの食堂か。まあ今の状態で家族団欒なんか起きている訳ないだろうが。
食堂へと足を向けると外にアレンよりも肌の色が黒く細身の、だが身長は高い男が空を見つめていた。
「よう、ジェンバ」
「……アレンかい。久し振りだね」
「今回の件は……まあ、なんつーか……」
「僕にはいいよ。それを言うのはナタリアさんとあの二人に言ってあげてくれ」
少しの沈黙。
「で、ここで何してたんだよ、ジェンバ?」
「星を見てた。食堂では喧々諤々の話し合いが起きててね」
「お前も参加すればいいじゃねえか」
「何も言うことはないからね。僕はナタリアさんの決定事項に逆らうつもりはないよ」
「お前らしいよ、全く。まあでもそれがお前のいい所なんだろうけどな」
そう言うとアレンは食堂へと歩を進める。喧々諤々ねえ。いきなりブラック・ウィドウ復活とか言って暴れる気じゃねえだろうな、ナタリアの姐さん。そんなの誰にも止められねえぞ。
食堂前に着くと、軽くノックをする。最初はノックをせずに入ろうかとも思ったが今回起こった事の重要性とジェンバの言葉を鑑みて空気を読んでみた。
「どうぞ」
いつものように気怠い声がする。ああ、姐さんは結構冷静なんだな。まあ逆に静かに怒りを溜めている、って言う可能性も否定できないが。
「お邪魔しますよっと」
いつもなら家族団欒で楽しい雰囲気が満ちている食堂は、目に見えて空気が淀んでいた。こりゃジェンバが抜け出す訳だ。
食堂にはテーブルが存在し、上座の正面に赤毛を三つ編みに束ねた中年の女性が葉巻を片手に鎮座している。その左横の辺に金髪の少女と栗色の髪をした少女が並んで座っている。その後ろには上の髪の毛はチリチリの髪を短くしながら、襟足のみを伸ばし編みこんだ男が壁を背もたれにして立っていて、その逆側の席には禿頭の大男と襟足まで髪を伸ばした男が座っている。
「姐さん、皆、今回のエリザの件、残念に思う。もう少し、いや事件が起きてすぐにこの話を聞いたら俺も動けたかもしれなかったんだがな」
正面に座る赤毛の女は葉巻を吸って煙を吐くと、
「まあしょうがないさ。エリザは養子に行ってうちの家族扱いじゃなくなってんだから。まあ連絡が拐われてから三ヶ月以上かかった、ってのはあんまり気分のいいもんじゃないけどね。まあヴァンガンディの家に養子に行くって決めたのはあの子さ。あの子以外のヴァンガンディの家の人間と使用人が全員殺されて、あの子の死体だけ見つからないってだけでも僥倖と思わなきゃいけないかもしれないね。まだ生きてるのかもしれないんだから」
「だからナタリア義母さん、私がエリザ姉さんを捜しに行くって言ってるじゃない」
「……あたしも行く」
「それに関してはさっきから何度も言ってるでしょう、JJ。私は保安官目指してクリスティアン叔父さんに銃の扱いを今まで習ってきた、でもあなたは護身程度にしか習ってないでしょう? だから無理なの!」
「あたしだって戦えるもん! あたしだってエリザお姉ちゃんの事心配だし探したいもん!」
こりゃ珍しい。あのジャニィ・ジャニスがマキに反論している。まあ今回は事が事だ。マキの言う事すら聞けないって事か。まあジャニィ・ジャニスがやる気ってのは不謹慎だがこっちには好都合だ。
「まあこういう状態がさっきからずっと続いているって訳だよ、アレン」
左の襟足を編みこんだ男が喋りかけてくる。
「つまり話は平行線って訳か、ロビー」
ロビーと呼ばれた男は頷きで答えを返す。
「ナタリアの姐さんはどう思ってんだ? まさかまたライフル持って大暴れするって気じゃないよな?」
「許されるならそうしたいけどここの農場の事もあるしねえ。まあこの二人には好きにさせたい、と言うかどんな選択をしようと反対する気はないけどね。したい事をさせる、それが三人を養子にした時、決めた事だからね」
「クリスティアンとフランチェスコはどうなのよ?」
禿頭の男はゆっくりと答える。
「俺にこんな問題の正解なんか分からねえよ。だから賛成も反対もない」
「俺も似たようなもんかなあ。ただひとつ言えるのは……」
そう言って栗色の髪の少女、ジャニィ・ジャニスを見やる。
「今のJJがそのまま行くのは反対かな。死にに行くようなもんだ。まあ俺達にみたいに一年人殺しのやり方を習うならまだしも、な」
「ほら、フランチェスコ叔父さんだってこう言ってるじゃない」
「……だったら一年修行する。修行してからマキお姉ちゃんに追いつく」
金髪の少女、マキはそれに対し反論しようとするが、嘆息で諦めを表する。おそらくこんな話し合いが先程からずっと続いているのだろう。
そしてそんな中、上座でまったりと葉巻を吸うナタリア。流石動じてない。『盗賊狩りの黒後家蜘蛛』と呼ばれ、自分とその身内を中心にした盗賊を率いて世の悪党を凍りつかせ、それでいて三人の幼子を拾ったらそれをすっぱりと止めてしまい、尚且つ自分の好きなように子供を育てた女傑だけはある。なのに誰も何も言わないのはそのカリスマ性の賜物としか言いようがない。まあ、そういう事にしておこう。
さて、そろそろ自分の出番だろう。と言うより今日の自分は自分の考えを提案しに来たようなものだ。
「じゃあ俺も意見を言っていいか? ナタリアの姐さん」
ナタリアは言葉を吐くのも面倒くさいと言わんばかりに左手でそれを即す。どんだけだよ。まあそれは気にせずアレンはジャニィ・ジャニスの後ろまで歩を進める。
「本人もこう言ってる事だし、JJを俺に半年預けさせてくれ」
「あんたにかい? あんたがそういうって事は……」
「ああ、JJには戦いを生業とする人間の、ついでに言えば刃物使いの才能がある。俺の処で修行すれば黒後家蜘蛛の娘を名乗るのに相応しい立派な蜘蛛に仕立て上げてみせるぜ」
どうやら誰もこの展開は誰も予想して無かったらしい。まあそりゃそうか。
「……その根拠を教えてくれるかい、アレン」
ナタリアは葉巻をひと吸してからアレンに質問を浴びせる。ああ見えてやっぱり義理の娘の事が心配らしい。
「じゃあ質問に質問で答えるが、JJの運動神経に関してどう思う、姐さん?」
「運動神経かい? まあ正直言えばかなりいいだろうねえ。農作業とかの手際を見てれば分かるさ」
「ああ、それはちょっと俺の見解をは違うんだ、姐さん」
ここでアレンは一息入れる。
「Jjは『尋常じゃない』運動神経を持っている。神様が冗談で作り上げたみたいに。そればかりじゃない、おそらく空間把握能力とまるで一瞬先の未来が分かっているような相手の動きを先読みする能力もある。どれぐらいのレベルかって言うと」
そこで息継ぎを一つ入れる。
「俺が嫉妬するぐらいのな」
「どういう事だい、もっとわかりやすく言っておくれ」
アレンはわざとらしく咳を一回する。
「姐さん、JJが転んだ所を見た事があるか? 物を落とした所は? 何かにぶつかった所は? 運動神経ってのはそのままの意味だ。ただここにいる人間が思っているより遥かにいい。だがそれだけじゃさっきの事は説明は出来ない。そこで出てくるのが空間把握能力だ。空間把握能力っては簡単に言うと目に映った物をその頭ン中ですぐに映像化出来ちまうって奴だ。一度映像化出来ちまえば視認しなくても『それがそこにある』って事が理解出来る。頭の中で『見え』てるんだからな。で、最後の先読みって奴なんだが……。JJ、立ってみろ」
ジャニィ・ジャニスは顔に疑問符を貼りつけつつ、言われた通り立ち上がる。
「こっちを向いて立ってろ。いいか、今からお前を殴る。それを避けてみろ。大丈夫、痛くはしないから。ただどこからどういう風にやるかは教えないからな。それじゃ証明にならん」
と、言うやいなやアレンは右手の張り手を下段からJJの顔に繰り出す。が、ジャニィ・ジャニスはそれを寸前で上半身を軽く捻って躱す。それは決して無理な動作ではなく必死さは一つの欠片も見受けられなかった。
その場にいる全員が息を飲む。アレンが繰り出した一撃は痛くしないと言いながら迅速なものだったし、なによりそれをさも当然のように避けたジャニィ・ジャニスにも。
「アレン叔父さん、ひどい! 今の当たったら絶対痛かった!」
「いいんだよ、俺はお前がこんな攻撃食らうなんて少しも思ってなかったんだから。実際お前避けて当たってないだろ。それにここで本気出さなきゃここにいるメンバーを納得させる事なんか出来ねえじゃねえか。……で、だ、見てもらえば分かってくれたと思うが俺から言わせればこれは天賦の才能だ。何かからの贈り物としか言いようがねえ。正直俺のような刃物使いにとっちゃあ嫉妬したくなるのも分かるだろ? まあ惜しむらくは体格面だが体まででかかったら俺は今日で廃業レベルだったな」
そこでアレンは一旦言葉を区切り、ジャニィ・ジャニスの後ろに立つ男に喋りかける。
「で、お前は実はこれに気付いてただろう、ロビー」
「まあJJの世話係は自分だったからね。なにかおかしいとは思ってたよ。エリザやマキは転ぶのにJJは一度も転ばないし、何かにぶつかった事もない。僕はてっきり子供はそういう生き物でエリザやマキがおかしいと誤解する所だったよ。まあ勿論そんな事はないって分かってたけどね。その後農作業を手伝ってくれるようになってからも力はそれなりにあるし物を落とした事もないってレベル、ぐらいには気付いてたよ。でも今までだったら一々大騒ぎする事じゃないだろう?」
ロベルト、通称ロビーは悪びれずに答えた。
「つまりはこういう事だ。確かにロビーはJJの才能に気付いてた。他の人間も気付いてかもしれねえ。だが、最初にこの場でそれを明示したのは俺だ。別に権利云々をどうこう言うつもりはないが、俺としてはこうなったからにはJJを自らの手で鍛えたい。もちろん俺が鍛えるんでこっちの方面主体になるけどな」
アレンはそう言って左腰に差してある刀をチラリと見せる。
「まあ、もしかしたらロビーやクリスティアンやフランチェスコやジェンバや、もっと他の人間がやるって言うなら話し合いになるかもしれないけどな」
「例えば、だよ」
ナタリアが紫煙を吐き出しながらアレンに聞く。
「あんたにJJを預けるとしてどれぐらいで悪党を躊躇わなく殺せるようになって、且つ一人前になれると踏んでるんだい?」
「時間はいくらあってもいいぐらいだが、最低でもさっき言った通り半年貰えれば充分かな」
「半年? 私等だって一年修行させられたんだけど、それだけでいいのかい?」
「こいつのレベルなら時間を掛けりゃいいってもんじゃねえしな」
「なるほどねえ……?」
そういうとナタリアは沈黙し机をトントンと人差し指で叩き出した。この癖が出たということは彼女が考え事をしていることを示している。そして他の食卓にいるメンバーはナタリアの決定を全員が待つ事になる。この家では、いやこの家のメンバーとその仲間達が『ブラック・ウィドウ』と名乗り盗賊狩り専門の盗賊をやっていた頃からの習慣だ。最終決定はリーダーのナタリアが持つ。それは絶対だ。
「JJ」
ナタリアはゆっくりと口を開く。
「今から部屋に行って荷物を纏めな。あんたは明日からアレンの所で半年間みっちりと修行してくるんだよ。自分でやるって言ったんだ、やれないなんて言わないだろうね?」
「う、うん」
ジャニィ・ジャニスは勢い良く席を立つと急いで食堂を出る。その際アレンにウィンクをするのを忘れない。
「ナタリア義母さん」
逆にマキは少し非難じみた口調でナタリアへと喋りかけようとする。
「マキ」
が、ナタリアはそんな呼びかけはまるで聞こえなかったのようにマキへと言葉を浴びせる。
「あんたは明日から私と修行だ。あんたも黒後家蜘蛛の娘、いやもう面倒だから『二代目ブラック・ウィドウ』でも名乗ればいい、そのリーダーとして相応しい存在になるよう地獄の特訓をするよ。悪いけどJJよりあんたの方がリーダーに相応しいからそれはここで決定だ。大丈夫さ、ここにいる全員少佐からの修行で死んでないし、そのおかげでまだ生きてんだから。あんたさっき言っただろ、クリスティアンと修行してるからとか何とか。安心しな、そんなもん修行の内に入らないって事をあんたの体に教えてあげるよ」
そう言い切るとナタリアは葉巻を咥える。言われたマキは呆然としている。まあ流石にこの義理の母親が自ら修行の相手になるなんて想像して無かったんだろう。
「さ、これで結論は出たね。今日は解散だよ」
ナタリアはこの会談の終了を宣言する。
「ところでアレン、あんた今日は泊まってくんだろう?」
「あんたさっきJJに『明日から俺んとこで修行しろ』って言ったじゃねえか! ここまで来て俺に帰れって言うのかよ! それとも野宿しろってか! さすがに今日はそんな準備してねえぞ!」
「ああ、そういえばそうだったね。まあ好きな空き部屋使って適当に寝な」
どこまでマイペースなんだ、この人。
アレンが風呂を借り自分に宛てがわれた部屋へと向かう途中、一人彼を待つ人間がいた。金髪を腰まで伸ばした少女。マキだ。
「アレン叔父さん、少しお話していいですか?」
少し思いつめた顔。それが何を意味するのか、アレンには分からない。ある程度は分かるが、真相は分からない。
「断る理由がないな。俺の部屋で話そう」
簡素なベッドに椅子、他には机しか置いてない部屋に入るとアレンは机の上の蒸気ランプのスイッチを入れベッドに腰掛け、マキには椅子を勧める。
「で、話っては何だ?」
「JJの事なんですけど……」
なるほど。明日から自分に厳しい修行が待っているっていうのにここまで来て心配するのは愛する義理の妹の事か。旅に出る事に反対しておいて決定したらしたでそれでも心配か。全く愛情表現が下手な事この上ない。それはそれで可愛いといえば可愛いが。
「本当にあの子、強くなれるんですか? アレン叔父さんみたいに」
「なるよ。あいつは強くなる。と言うより黒後家蜘蛛の名に相応しいよう俺が育て上げる。それは俺が証明してやる。これは冗談抜きに言うが俺と同じレベルに到達する可能性はあるな」
何気に自分の自慢を入れておく。
「そうですか……」
軽く躱される。
「自分の相棒になる存在が強くなるのは嫌か?」
アレンの問いにマキは少し俯く。それは自分の言葉で自分の気持をしっかりと喋ろう、と思案しているように見えた。
「私、まだあの子に旅に出てほしくないんです。もっと言えばここで、この農場で幸せに生きて欲しいと思ってるんです。嫌な事は全部自分が被ったっていいんです。私もそうやってエリザ姉さんにしてもらってきましたから。でもこれって私の我侭でしょうか?」
なるほど。この娘はジャニィ・ジャニスを愛している。当然だ、拾われてから何年も一緒に暮らしてきたんだ。そんな気持ちを持つのは当然だろう。それでいて厳しい現実は自分が引き受けるからジャニィ・ジャニスにはこの楽園で幸せに生きて欲しい、そう願ってるのだ。そしてその愛情はエリザにも。
「マキ」
だからこそ、ここで厳しい事を言わなければならない。そうでなければこの娘はいつか自分の心に潰される。それは彼女が決めた生き方にとって致命傷になりかねない。
「JJの人生はJJの物だ、お前の物じゃない。そしてJJは俺の所へ来て修行する事を決めた。それが答えだ」
「そう、ですか」
「そうだ、だからもう誰も止める事は出来ないんだよ、マキ。俺もお前の気持ちはなんとなく分かる。誰だって人を殺して気持ちがいい奴なんざいやしない。俺だってそうだ。俺は死んだら地獄に堕ちるんだろうなあ、といつも思いながら戦ってる。俺はもうそこら辺の気持ちはコントロール出来るが、JJがどこまで折合いを付ける事が出来るかは正直まだ不明だ。あいつは刃物使いの才能はあってもそこら辺はな。一応座学で教えるつもりだが、それでもどうなるかは分からない。そういう時、誰があいつの傍にいてやればいい?」
マキは俯いていた顔を上げ、アレンの瞳を見つめる。
「そうだ、お前だ。そしてその逆も然りだ。お前らがチームを組むなら、お前がJJを助け、JJがお前を助ける。そうしたら地獄に堕ちてもお前らは一緒にいられるさ」
少しばかりの静寂。聡明なマキの事だ、うまく自分の言った事を咀嚼しているのだろう。
マキは静かに立ち上がると、
「ありがとうございます、アレン叔父さん」
と頭を下げた。
「私、吹っ切れました。私も蜘蛛になります。ナタリア義母さんに負けないような蜘蛛に。そして必ずエリザ姉さんを見つけてみせます」
「ああ、頑張れ。明日っから多分本気でつらいから今日はもう寝な」
自分からしたらナタリアの姐さんと半年修行するなんて明日から食事は一日一回です、しかも小さなパン一切れです、ああ、水は一杯だけですけどいいですね? と言われた方が十倍ましだ。
「はい、おやすみなさい」
そう言ってマキはアレンの部屋から出て行った。
「美しき哉、姉妹愛ってところか」
アレンはそう言って背伸びをした。ああ言ったからにはJJにはきっちりと教えないとな。『脳味噌弄り』もやるしかない。さっきはマキにああ言ったが、ジャニィ・ジャニスは殺人鬼になる事は決定だ。そしてマキもそうなるだろう。二人がそう決めた。だからこっちもそうする。
次の日の早朝、アレン・アーヴァインと荷物をまとめたジャニィ・ジャニス・ヴァンクリフはアレンの愛馬に相乗りし、ジャニィ・ジャニスの故郷とも言える農場からアレンの住まいへと移動を開始した。馬はいつもより重い事に対し不満そうに嘶いたが、アレンが優しくなだめて言うことを聞いてもらった。
そこでアレンは一人の男の視線に気付く。ジェンバだ。ジェンバは澄んだ眸で何もこちらを見ている。目だけで全てを物語るように。アレンはそれに対し同じく視線で返す。言葉なんかいらないだろう。ここで何か言ったとしても何か嘘っぽくなってしまう。
こうして、二代目『ブラック・ウィドウ』は動きだした。世の中の悪人には不幸だったが、その事に気付いている悪人は、当然まだいなかった。