エピローグ
“大陸横断鉄道公社”マクガルド中央駅。そこに二人の女が立っていた。一人は黒いロングコートに深紅の、だがどちらかというと黒に近いネルシャツに黒いフレアスカートを着た、栗色のセミショートヘアの背の低い少女。もう一人は同じ様に黒いロングコートを羽織り、膝丈で切られたブラック・リトル・ドレスを身に付けた金色の髪を肩甲骨あたりまで伸ばした少女。
おそらく言われなければ、この二人がここ最近のマクガルドを揺るがした『麻薬王マルコ・コステロ捕獲事件』、『四大組織倉庫街捕獲事件』、そして『スパレティ一家首領捕獲事件』の三つに全て関わったハンターだとは誰も思わないだろう。そしてその事に気付いている人間は、この場にはいない。いたとしてもどうにもならないが。
実際この三つの事件はマクガルドという街を揺るがした。新聞は当分ネタに困らないと言わんばかりに連日これら関連の記事を載せ続けている。
その三つの事件、少なくともその内の二つの事件の中心人物である二人は自分の荷物を乗せたカートを横に自分達が乗る汽車の到着を待っていた。
「エリザお姉ちゃん、見つからなかったねえ」
栗色の髪の少女、ジャニィ・ジャニス・ヴァンクリフは呟く。
「まあ世の中そんなに上手くは行かないわよ。まだこの仕事始めたばかりなんだし」
金髪の少女、マキ・ミリアム・ヴァンクリフはそれに答える。
「まあこういう場合は『ブラック・ウィドウ』の名を派手に売った、と思えばいいのよ。実際この街に来た時、そういう方針だって言ったでしょう?」
マキは諭すように言う。
「まあそれはそうだけど。もしかしたらもしかするかもなあ、とか思ったりもしたんだよ」
ジャニィ・ジャニスは返答する。
「世の中それだけ甘ければ、私達もこんな旅になんか出なくでも済んだかもしれないわね。でも甘くないのよね、世間は」
「世知辛いねえ」
「世知辛いわね」
ジャニィ・ジャニスは思う。今回で自分達の、『ブラック・ウィドウ』の名前はかなり売った。実際新聞や雑誌社のいくつかからも取材の協力を申し出られ、面倒だとは思いつつこれも仕事の内、というより目的の一環だと思って受けた。真面目に記事を書いた所もあれば、面白おかしく書いた所もあった。しかし別段記事の内容は気にしないようにした。あくまでこれは売名行為だ。どこにいるか分からないエリザお姉ちゃんに『ブラック・ウィドウ』の、あたし達の名前がどこかで伝わるようにした行いだ。
どこかの盗賊に拐われたのかもしれないエリザお姉ちゃん。正直、今どこにいるか、生きているのかも分からない。だがジャニィ・ジャニスは、ジャニィ・ジャニスとマキは探さずにはいられない。僅かな可能性を信じて、それをやらざるにはいられない。もし、もし最悪な事態が自分達に分かったその時は、エリザお姉ちゃんを探す黒後家蜘蛛が悪党を殺し続ける黒後家蜘蛛になればいい。ジャニィ・ジャニスはそう思っている。マキお姉ちゃんがどう考えているかは知らないけれど。
そんな事を考えていると、ゆっくりと汽車がホームへと到着する。
「さ、乗るわよ、JJ。荷物の入れ替えがあるから時間はあるけど、ここで突っ立てるよりマシでしょ」
そう言うとマキは先に汽車へと乗り込む。
ジャニィ・ジャニスは思う。おそらくしばらくはこうやって汽車に乗り続けて、旅を続けるんだろう。当てはあるが、無い様な旅を。屍山血河の呪われた旅を。だがそれでも構わない。何故なら、それでいいと、自分で決めたのだから。
そうしてジャニィ・ジャニスは汽車に乗り込んだ。エリザの無事を祈りながら。