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パニック作品

階級社会

掲載日:2026/10/21


俺は駅から繁華街に向かう道をパトロール中の警察官補助アンドロイドの前で、終電に乗り遅れ最終バスにも置いてけぼりになったらしい、バス停のベンチに座っていた70前後の爺に声をかける。


「アッパー系もダウナー系もあるよ、買わないかい?」


爺はチラっとこちらを見てから返事を返して来た。


「要らん、まにあってる」


俺は爺に向けて小さく頭を下げ肩を竦める。


平和な国日本、裕福な国日本、なんて言われ世界の貧困国の貧民の憧れだった日本は、否、同じように平和で裕福な先進諸国を含めてあと2年で22世紀になる今は存在しない。


地球温暖化の海面上昇で土地が減り続けた結果なんだけどな。


日本は他の先進諸国と同じように階級社会になった。


普通の日本人たちに上級市民って言われてた奴らが1級市民で、言ってた奴らが2級市民、階級制になる前に合法で入国し日本の国籍を得た奴らが3級市民、同じように階級制になる前に入国していた不法移民たち俺もそうなんだけど、が4級市民、階級制になってから入国した奴らが5級市民って感じで、日本に住む人間は全員階級分けされてるんだ。


って言っても4級5級の殆どは日本の国籍を持ってない、ただそんな俺たちからも税金を搾り取るための市民権。


選挙権があるのは1から3まで、1と2には国から生活費が支給され最低限ではあるけど働かなくても生活できる。


だからアンドロイドに任せると高く付く肉体労働は、俺たち4級5級の仕事って訳だ。


あと俺が日本に来た頃、21世紀半ば頃から大きく変わったのは全ての麻薬が合法化したってところだな。


因みに日本だけじゃ無く殆どの国がだぜ。


その所為で麻薬の密売で稼いでいた非合法組織の殆どは大打撃を受けて、勢力が縮小したり解散に追い込まれたりした。


麻薬が合法化されるまで取り締まりを行っていた警察や厚生省が今行っているのは、混ぜものをしたり一回に摂取する量を誤魔化したりする奴らに目を光らせてる。


その麻薬にも階級制度が絡んでいるってのは皮肉だよな。


HやCなどの天然物は高すぎて1級市民か2級3級の中の金持ちしか手がでない、普通の2級や3級市民にそれ以下の市民が摂取するのは化学合成で作られた安物だけ。


そういう訳で俺が扱ってるのも、主にアッパー系のSやダウナー系のF。


まぁ肉体労働に従事してる4級5級の奴らは大抵アッパー系のSを使用してるんだけどな。


肉体労働の辛さや重労働に従事してるのにマトモな食事にありつく事ができないんで、それを誤魔化す為にSを摂取するって訳さ。


働かなくてもギリギリではあるけどマトモな生活ができる2級市民は、暇を持て余してアッパー系のSとダウナー系のFを交互に摂取してたりする。


階級制度は非民主主義だって異議を唱えデモなんてやったら、全財産を没収されて2級市民は4級市民に3級市民は5級市民に格下げされる。


こういう格下げになったのが混ざっているから、4級5級でも国籍を持ってる奴がいるんだよ。


でも市民権があろうとなかろうと4級や5級でデモに参加したり異議を唱えたりしたら、日本から放逐される。


こうなると悲惨だぜ、元2級市民だった奴はそいつだけだけど元3級市民だった奴は、その家族も含めて領海外の海に放り出される。


国籍を持ってない奴らとその家族は元々の国に追放されるんだが、元々の国自体が海に沈んでいたらあった辺りの海へ放り出され、大陸の内陸部出身なら国は残ってはいるけど政府なんて存在せず、多数の武装勢力が群雄割拠しているだけで無く、マトモな食料生産もできないから仲間以外の奴は食い物だとカニバリズムが横行してる状態、そんなところに返されたら食われるだけだからな。


東の空が薄っすらと明るくなって来た、そろそろ夜が明けるな。


仕事を始める前にSを摂取してるから全然眠くないけど、2級3級の繁華街に向かう金持ちや夜勤や早朝勤務に向かう4級5級の奴らにそれなりに売れたから、売上を駅前の薬屋に届け俺も引き上げるか。


繁華街から駅前に向けて歩いていたら、バス停のベンチの背もたれに首を預けて座る爺がいた。


あ、顔や唇が紫色に染まっている。


俺は爺の首筋に指を当て脈を探す……無い。


道の反対側の歩道を歩く警察官補助アンドロイドに向けて手を振りながら、爺を指さす。


Fのオーバードーズだな、それも……態と多く飲んだんだと思う。


昔、20世紀に生きてた日本人は畳の上で死ぬのが理想だったらしいけど、今の孤独な老人たちは畳の上で孤独死すると見つけてもらえるまで数カ月から数年かかることもあり、空の下で死ぬのが理想になっているんだ。


空の下、近所の人がよく利用する公園や此処のように繁華街に近い場所で死ねば、直ぐに見つけてもらえるからな。


俺は朝日を浴びて赤く染まる爺の遺体を見ながら、祈りの言葉を小さく呟いていた。









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