幸せな日々はいつまでも続くとは限らない
中学3年生の頃。好きだった女の子に告白してOKを貰えた。小学6年生から好きだったから、当時の俺は舞い上がっていた。
向こうも俺の事が好きだったみたいで、それを知れた時はたまらず友人に自慢とかしてみたっけ。
中学生の頃はお互いに、周りから茶化されていたっけ。
ーーそして現在。
高校3年生を迎えた秋。
今も付き合いは続いていて、お互いに同じ高校に入り、運良く同じクラスになれていて幸せな時間を送っていた。
運動会に文化祭、部活に放課後デート。祝日には出かけたり、旅行なんかも行った。
初体験も済ませたし、このまま卒業して結婚するんだろうなって思っていた。ーー彼女のスマホを見るまでは。
その日は彼女が家に泊まりに来ていた。
俺の家は両親が共働きで、出張なども多く家に居ない期間が多かった。
彼女が1階で料理をしている頃、俺は2階の寝室でテレビを見ていた。
ピロンって音が鳴る。音の方を向くと、彼女のスマホに通知が届いていた。
近かったせいか、見る気はなかったがなんとなく目を向けると『ユカちゃんとのこの間の〜』と、ユウマくんと登録されているヤツからの通知だった。
ユウマくん?誰だ?同じクラスのやつじゃないし、俺が知ってるやつではなさそうだ。
それに、内容が少し気になる。
…ちょっとだけ。ほんの出来心だった。
俺は、彼女のスマホを手に取り中を開いてしまった。ーーー知らない方が良かったのかもしれない。
『ユカちゃんとこの間旅行した時の写真〜』
「えー!いつ撮ってたの〜?」
『ユカちゃんを起こした時かな?この時のユカちゃんエロくね?』
「も〜。ユウマくんのえっち」
『はは。』
『次いつ会えそう?っていうか彼氏は?』
「んーどうだろう。ヒロとは今も続いてるよー」
『彼氏居んのに俺と会ってんの?やばくねw』
「いいのいいのwヒロとのえっち全然気持ちよくないし、ユウマくんの方がいいー」
『wwwそれなら俺と付き合えばいいのに』
「んー。ユウマくんはセフレでヒロは旦那みたいな?w」
『旦那w彼氏かわいそーw』
『ま、また連絡するわ』
「はーい。あ、電話するときは私から掛けるから!」
『おけおけw』
…なんだこれ?これは現実なのか?
胸が熱くなる。現実だとは思えなくて、何度も頬を抓ったりするがただただ痛いだけの不愉快な感触。
それと同時に沸き上がる殺意に似た感覚。それと、裏切られていたという喪失感。…はは。
「ヒロ〜ご飯できたよ〜」
下から声がする。が、俺は無視していた。
すると、階段を駆け上がって来る音が聞こえる。
俺は彼女のスマホを手に持っていた。
ガチャ
「ご飯できたよ?…どうしたの?」
「…」
俺は無言で手に持っていた彼女のスマホを彼女に突き出す。すると、慌てた様子だった。
「中見たの!?」
「…」
やり取りを開いたままにしていたから、俺の無言は肯定と受け取ったらしい。
「勝手に見るなんてひどい!!」
「ひどいのはどっちだよ。隠れてこんなことしてたなんて知らなかったよ」
「…ヒロだって!!浮気してたじゃん!!私の知らない女の子がこの家に何度も出入りするの見たんだから!」
「それは従姉妹だよ。前にも言ったし、従姉妹は結婚してるし俺の事は弟みたいとしか思ってないよ」
「…うそよ」
「嘘じゃねぇよ。ま、いいや。別れよう」
「…なんで?だって!」
「は?」
「ごめんなさい…」
「いや無理。そんなやり取り見て、もうお前を彼女とは思えないし、思いたくない」
「…」
彼女を好きだった。好きだったからこそ、お互いの時間を共有するのが心地よかったし、最高に幸せだった。走馬灯の様に、過去に彼女との思い出が脳裏に走る。自然と流れて来る涙に気付けない程、俺は静かに身体を震わせていた。
「俺が安心させてやれなかったのがいけないんだよ。お前は悪くない。だから、お願いだから別れてくれ」
「いやだ。いやいやいや、絶対別れない!!!」
「ほんと、ごめんな」
ゴネる彼女を無視して、彼女のバッグとコートを手に持つ。そして、1階に降りて玄関に向かう。彼女もついてくる。
俺は、彼女の持ち物を玄関に投げた。
「いいから帰ってくれ」
「帰りたくない」
「知らんて。ユウマくんの所にいけよ」
「行かない」
「これ以上ここに居たらぶん殴りそうだから頼む」
「殴られても、蹴られても、ヒロとは絶対に別れない!!別れたくない!!ユウマくんとは縁を切るし、もう2度と裏切らないから!!…お願い」
消え入りそうな声。今にも泣きそうな彼女の言葉。
だけど、もう、俺の心には何も響かなかった。
自分でも驚くくらい冷静で、それでいて自分の声とは思えない程低い声で一言「帰れ」と言っていた。
諦めたのか、彼女は自分の荷物を持ち、逃げ帰る様に出て行った。
後ろ姿を見送って、俺は玄関に座り込む。そして、幼児の様に泣いた。喉が痛む程大きな声で。
ーもう、恋愛なんかしなくていい。
あれから、学校ですれ違っても話す事は無かった。
周りは察してくれたのか、俺たちの事について話すやつは誰1人として居なかった。
冬休みに入る前には、向こうは新しい彼氏が出来ているようだった。
俺は、不思議と何とも思わなくなっていた。多分、心底どうでもいいことなんだと思う。
ただ、願くば今後は俺と同じ様な結末にならない事を祈るばかりだ。
冬休みに入った。
周りはクリスマスや正月やらで騒いでいたが、俺は黙々と勉強一筋だった。
クリスマス当日。昼過ぎ。
友人のコウジから連絡があり、今から俺の家に来て遊ぼうというメッセージ。
無視していると電話があり、絶対来いとの事だったので仕方なく行く事に。
電話した時、後ろから声が聞こえてたから他にも誰か来てんのかもな。などと思いながらバスで揺られる事20分。
バス停から徒歩1分の所にある立派な二階建ての一軒家。車が停まってないので、親は居ないようだ。
インターホンを鳴らすと、コウジが「入ってこいよ」ということなので、玄関を開ける。
玄関をみると、靴が大量にあり、何人居るんだよと思いながらコウジの部屋に向かう。
ガチャ
「お、きたきた」
「お邪魔します。急に来いとか何の用だよ」
「クリスマスだぞ!高三のクリスマス!人生で一度きりなんだから騒がなきゃ損だろ!」
「相変わらずだな。勉強してたのに」
「勉強とかwいつから真面目くんになったんだよ」
「さぁ」
コウジと話していて、ふと周りを見渡す。クラスのヤツらが来ているようで、女の子も混ざっているようだ。ーそこに、ユカが居た。
「帰る」
ユカを見た瞬間、コウジとのやり取りで笑っていた表情が固まり、急にトーンダウンする。
部屋を勢い良く開いて閉めたせいか、バタンッ!と大きな音が鳴る。コウジが慌てた様子で部屋から出て来て、俺を呼び止めようとする。
「待てって!」
肩を掴まれる。俺は静かに「放せ。帰る」とだけ伝える。
「何でだよ!お前らが別れたのは何となく知ってたけど、お互い何にも言わないし…」
「俺らにも俺らなりの理由があるし、それを口外する事はお互いにとって避けるべきだ。…もういいだろ、帰りたいんだよ」
「だから待てって!!」
強めの口調。小学生からの付き合いの俺の1番の親友であるコウジ。その頃から、2人で色々バカやってきたっけ。
「…コウジにも言えない事はあるんだよ。今日の所は諦めてくれ」
「いいやダメだね。親友が落ち込んでんのに、ここで帰したらお前は更に落ち込んで、訳の分からない事に時間を使ってしまう。何年親友やってると思ってんだよ」
「…」
「まあ言いたくないならいいから。とりあえず、皆も居るし今日の所は楽しもうや。な?」
「…分かったよ」
コウジに説得され、俺は渋々部屋に戻る。
部屋に戻ると、気を遣わせてしまったのか先ほどの俺の様子には誰も突っ込んで来なかった。ほんと、いいヤツらだよ。とにかく、俺はユカの方だけは見ないでおこうと思った。
ーそれから、ゲームやらでワイワイした俺らは夕方になるまで騒いだ。
「それじゃそろそろ帰るよ」
俺はそう言って立ち上がる。周りは「泊まってけよー」って感じで盛り上がっていたが、家族でクリスマスを過ごすと嘘を吐いて部屋から出る。
コウジも流石に俺を止める事はなかった。
挨拶を交わし、コウジの家から出る。
すると、俺の他にも誰かが出てきた。ユカだった。
「待ってよヒロ」
「…どうした?」
目を見ずに俺は返事をする。泣きそうな声だ。
「どうしてこっちを見てくれないの?」
「…」
「私、あれから後悔しっぱなしだよ。ヒロは知らないだろうけど、私達が別れた理由は皆知ってるよ」
その言葉に、思わずユカの顔を見た。
何度も泣いたのか、目は腫れていたし、飯を食べてないのか痩せていた。
「どうしたんだよその顔…」
「皆から怒られたよ。全部私が悪いって。謝ったって、許して貰えないって。だからそっとしとけって。でも、私にはヒロしか居ないから…無理だって分かってても、それでもヒロが…」
「よしてくれ。それに、新しい彼氏出来たんだろ?」
「それは、嘘の彼氏。ヒロの気を引きたくて、私が皆に頼んで広めてもらったの」
「なんだよそれ、わけわかんねぇ」
「私も、自分が何をしていたのか分からないよ…ユウマくんとは縁を切ったし、今日だってコウジくんに無理を言ってヒロを呼んでもらったの。コウジくんもかなり怒っていて、ずっと反対されてたけど私がしつこく頼んだから…」
「…」
「もう一度付き合いたいとかそんなんじゃないの。ただ…友達でいいからそばにいたいの」
「…分かった。考えさせてくれ」
「…ありがとう」
俺は、そのまま家に帰る。チラッと後ろを見ると、ユカはこちらを見つめたままだった。
なんだよ。なんだよ。なんなんだよ。
家に帰ると、電話が来る。相手はコウジだ。
『家着いたか?』
『ああ。今着いたとこ』
『そっか。…ユカちゃんとは話せたか?』
『…ああ』
『今日はごめんな。お前の気持ちを考えたら俺も会わせるべきじゃないと思ったんだ。だけど…俺がユカちゃんの熱意に負けたんだ。許してくれ』
『気にすんな。俺こそ、嫌な気分にさせて悪かった。もっとはやく、お前には言うべきだった』
『やめろよ。お前から聞いてたらユカちゃんのこと屋上から突き落としてたぞ』
『怖い事言うなお前w』
『wwようやく、笑ったな』
『wお前は俺の彼氏か!』
『一周回って、それもアリかもなw』
『はぁ。久々笑った』
『だろうな。最近のお前、笑わなすぎて怖かったし、クラスのヤツらも酷いフラれ方されたんだとばかり思ってたはずだ』
『まさかユカが自分から言うとは思ってなかったけど』
『ユカちゃんは本気で反省してるよ。だからって訳じゃないけど、俺はヒロもユカちゃんも2人とも納得できる形で付き合いをしてくれたらいいと思ってる。ヨリを戻さなくていい。だけど、せめて友達ではいてやってほしい』
『ユカにも言ったけど、考えてみる。じゃ』
『おう、またな』
ーー。
正直、考えは纏まらない。
彼女だった女の子を、友達と思う事に。そして、時間が経ちすぎたせいか、ユカへの想いは冷めてしまってるし、本音を言えばこのまま他人のままでいたい。友達になって、付き合っていた頃の事を思い出したくないし。
他人だけど、好きだったのは事実だ。だから幸せになってほしいという気持ちはあるけど、それは俺の知らない所でだ。
…俺が気付いてないだけで、トラウマになってるのかな?女の子に対して、どこか自分でも感じてる。距離を感じるというか、ユカだけではなく、女の子に対して恐怖を感じるというか。
従姉妹にも、もう来ないでくれと言ったし。
…わっかんねー。自分の気持ちがわからない。
3…2…1…0
カウントダウン。年が明けた。
テレビから『ハッピーニューイヤー』と盛大に盛り上がっている超えるが聞こえる。
世間も盛り上がっている頃だろう。俺の心は盛り下がる一方だが。
あれから、俺はずっと考えていた。
勉強も手に付かないし、何をやるにも中途半端になる。飯も上手く喉を通らないし、心なしか痩せた気もする。それだけ、真剣に考えている。
だけど、答えは出てこない。俺自身がどうしたいのか、自分自身でさえ分からないのだ。
ネットで調べてみるけど、やっぱり答えが出ない。
正月も過ぎ、冬休みも残り1日となった。
課題は終わっていたが、ユカの件でずっと悩んでいたので正直、このまま学校で顔を合わせるのはバツが悪い。
どうしようもなくなったので、コウジに相談する事にした。
「お邪魔します」
「急にごめんな」
「いいよ。課題写させてもらうんだし」
「相変わらずちゃっかりしてんな」
「まぁな。あんま褒めんなよ」
「褒めてねぇよ!…で」
「皆まで言うな。考えたけど答えが出せないってんだろ?ヒロは顔に出やすいからすぐわかんよ」
「そんなに出やすいか?」
「いや、親友である俺の特殊能力な」
「なんだよそれwこわ」
「こわとはなんだ!そこは素敵の間違いだろ?」
「キモい」
「ひでー」
「…ま、答えが出ないなら他人のままでいいんじゃね?友達だと精神的負担になるだろうし、色々思い出してヒロも辛いだろうし」
「ユカちゃんは反省している。だけど、ヒロが乗り気じゃないなら俺はお前優先で考えるぞ」
「優しいなコウジ」
「ったりまえだろ?今頃気付いたのか?」
「いや、前から知ってたよ」
本当に、コウジには全てお見通しされてるって訳だ。ーよし、決めた。
「ユカとは他人のままで居る事にするよ。いくら考えても友達として過ごせるビジョンが見えないし」
「そうだな。それがいいと思う。時間が解決してくれるかもしれないし」
「…そうだな」
それから、コウジは俺の課題を写して帰っていった。その夜、俺はユカにLINEをする。やっぱり他人のままで居たいと。既読は付いたが、返事は無かった。
ー冬休み最終日。
この日は特に予定は無く、家でダラダラと過ごしていた。昼になり、ラーメンでも食べようかと思った時、スマホが鳴り出した。知らない番号からだ。
迷惑電話かと思って、放置していたがずっと鳴るので仕方なく出る事にした。
『もしもし』
『あ!やっと出てくれた!ユカの友達のアミだけど!』
『ああ、アミちゃんか。どうしたの?』
『急にごめん。コウジくんに番号教えてもらったの。ユカ、ヒロくんのところに居たりしないよね?』
『居ないよ』
『そっか…実は、今日遊ぶ約束してたんだけどユカと連絡取れなくて…』
『家には行ったのか?』
『ユカのママに聞いてみても、10時くらいには家を出たって』
『それで、ユカに連絡は?』
『電源が入ってないのか繋がらなくて…』
『…分かった。俺も心当たりを探してみる』
『色々あったのにごめんね。こっちも見つかったら連絡する』
どうやら、アミちゃんも俺とユカの件は知っているようだ。それにしても、ドタキャンとかしないユカが一体どうしたのか。まさか、交通事故とかトラブルとかに巻き込まれて…。
俺は慌てて身支度を終えて、お湯の入ったインスタントラーメンを放置して家を出た。
ユカが行きそうな場所…公園、海、神社、思いつく限りの場所を回ってみたが、どこにも姿はなかった。
そして、コウジにも連絡しようと思ってLINEを見ると、1通の通知が来ていた。
音楽をかけっぱなしだったから、気付いてなかった。
ユカから、朝の9時頃連絡が来ていた。
『分かった。無理言ってごめん。今までありがとう。さようなら』と。
目頭が熱くなる。俺たちの関係が本当に終わったんだと。終わらせたのは俺だ。今更何を言っても過去は変えられない。
喉が渇いたので、近くのコンビニに入る。駐車場の前にガラの悪そうな連中が居て、その横を通り過ぎると気になるワードが聞こえてきた。
「ユウマのやつ、マジでやりやがったよw」
「な。ユカちゃん?だっけ?あの女もバカだよなwノコノコ俺たちの家に来るとか」
「なwなんでも、浮気してた頃の動画を消してほしいとかなんとか」
「ウケるw消す訳ねぇーじゃんってw」
「まあ今日は楽しめそうだし、俺らもはやく行こうぜ…なんだ?テメェ」
「今の話、詳しく聞かせろ」
「はぁ?誰だよ…」
ユウマとユカというワードを聞いた俺は、3人のうちの1人の肩を掴んでいた。相手も俺に掴み掛かろうとするが、俺はその手を叩き落としてソイツの顔面にパンチを食らわす。
他の2人も、俺に飛びかかってきたが、ボクシングを習っていた俺には遅すぎるスピードだった。
30秒くらいで、俺は3人を沈黙させた。1人に問い詰める。ユカは何処だと。
あっさり居場所を吐いたので、嘘じゃないか確かめる為にソイツにその場所を案内させる。
喧嘩をした為に、コンビニの店員らしき大人から待ちなさいと言われたが、今はそれどころではなかった。
そして、住宅街の様な場所に案内され、『林』と書かれた家の前まてま来る。どうやら、ここにユカが居るようだ。
家の中まで案内しろと伝え、ソイツはオドオドしながらインターホンを鳴らす。すると、叫ぶ様な悲鳴が中から聞こえてきた。
その声は、間違いなくユカだった。
俺は案内したヤツを思いきり殴り、家の中に入る。
靴は乱れ、家の中に何人も居るようだ。
「ユカー!どこだ!!」
「ヒロ!?来ちゃダメ!」
「ここか。…よぉ、テメェら。覚悟は出来てんだろうな?」
私服は乱れ、下着姿のユカ。髪はぐちゃぐちゃで、パンツ姿の男達を見て、俺の理性は吹っ飛んだ。6人くらい居たのだろうか、よく覚えてない。
全員倒した後、ユカに駆け寄る。服を着せ、ここから出ようとする。
すると、金髪の男が俺に叫んでいた。
「お前ら別れたんだろ?だったらもう関係ねぇだろ!?」
「ああ。別れたよ。だけど、ユカには幸せになってもらいたいんだ。それをこんなクソ野郎共にユカの人生壊させるような真似、黙って見過ごせるわけねぇだろ。テメェがユウマか?あ?」
「そうだよw俺が浮気相手のユウマくんだよwあーユカちゃんとのセックス、最高だったなw」
その言葉を聞いて、俺の中の奥に眠っていた怒りがマグマの様に噴き出した。俺は、ソイツを何度も殴った。意識があるのか、周りの野郎共が「やめろよ!死んじまうぞ!」とか言っていたが、いくら殴っても怒りが収まらない。
「やめて!!ヒロ、これ以上は…」
「ユカ…」
ユカに右腕を抑えられ、ユカの泣き顔を見て我に帰る。そうだ、今はユカを安全な場所に行かせないと。
「テメェのスマホはこれか?違ってもいいや。テメェらのスマホ、全部出せ」
動画とか撮られているかもしれない。流出とかしたらこの先、ユカはこの街に居られなくなる。
俺はスマホを全部破壊して、中のカードの所に水を入れて再起不能にする。
「いいな。今後、ユカに近付いたら命無いと思えよ」
ーその後。近所から通報があったのか、俺たちが立ち去った後に警察が来たそうだ。後に聞いた話、何人もの女の子に卑猥な事をしていて、全員捕まったそうだ。
ーーー。
俺とユカは沈黙したまま歩いていた。
ユカを見つけたとアミちゃんに連絡を入れた。
詳しくは明日話す。今日はこのままユカを家に送ると告げた。
『ごめんね、アミ』
『ううん。大丈夫。ユカが無事で一安心だよ。また、明日ね』
『…うん』
通話が終わったのか、俺にスマホを返すユカ。その手は震えていた。
当然だろう。あんな怖い目に遭ったんだ。怖く無い訳がない。無事な訳がない。
ユカを家に送るつもりだったが、気付けば俺は自分の家に足を運んでいた。
「ヒロ?」
「今のユカを1人にできない。とりあえず中入れよ」
「…うん。ごめんね」
「…謝んなよ。いいから」
家の中に入る。ユカを見つけれて、ホッとする。
ココアを淹れる為にコップに注ごうとして、「あ」と声が出た。
「いっけね。インスタントラーメンにお湯入れたままだった。うげ、完全に伸び切ってる」
「ふふ」
「…」
久しぶりにユカの笑顔を見た。その笑顔は心の底から笑ってるような顔で、気付けば俺はユカを抱きしめていた。他人でいようとしたのに、これからは関わる事はないって思っていたのに。
「ヒロ…?」
「わりぃ。今は…少しだけ…」
「…うん」
ー小学生の頃を思い出していた。
当時、俺はいじめられっ子だった。オドオドしていたし、人付き合いが苦手な方だった。クラスではいつもボッチで、友達と呼べるのはコウジだけだった。コウジはクラスの人気者で、それで俺と仲良くしてくれてるんだとその頃は思っていた。
学生にはグループがあり、コウジはクラスの中で人気のグループに入っていた。その為、コウジと話す機会は少なかった。
小学6年生の頃。修学旅行の時。いつもの様に、俺は余った班に入れられ、周りからは避けられていた。コウジと同じ班になれずに、最悪な事に俺の事をずっといじめてきてたヤツらと同じグループになってしまった。
班行動で歴史的な建物を周るって時、俺は1人置いてけぼりにされた。知らない土地で、帰りのホテルも分からない。その時はスマホも持っていなかったので、どうしようもなく近くの椅子に座っていたら声をかけられた。
『もー。また1人にされてる!』
『…え?』
『私、橘ユカ!同じクラスだから分かるよね?』
『あ、橘さん…』
『向井君も、男の子なんだから立ち向かえばいいのに!』
『そんなこと言われても…』
『男の子がオドオドしない!シャキッとする!』
『はい…』
『しょうがないな〜ね、向井君も私達の班と同じでいいよね?』
『橘さん…』
優しくされたから。ピンチの時に助けてくれたから。理由は分からないけど、俺はその時からユカの事を目の端に入る度に、目で追う様になっていた。
そして、その頃から身体を鍛えて、自分に自信が持てる様にボクシングなどを始めた。そして、自分に自信が持てた中学3年生の頃。ユカに告白した。
そして、OKを貰えた時は本当に嬉しくて、真冬だったのにテンションが上がりすぎて川に飛び込んだ。当然、次の日風邪を引いた。
ー。
「…ヒロ、ごめんね。迷惑掛けて」
「…いいよ。本当に無事で良かった」
「助けてくれてありがとう。かっこよかったよ」
「…」
「小学生の頃は私がヒロの事助けてあげてたのに、いつの間にか、ヒロは男の子から男の人になっていて、私だけのヒロだったのに身体を鍛え出してモテ出すし…」
「はぁ?いやいや、それはこっちの台詞だから。ユカだって20人くらいには告白されてたろ?」
「ほら、私って愛嬌良いから皆勘違いしちゃったんだよ」
「うわー自分で言うか?それ」
「なによー。ヒロが周りからモテ出してたから、ヒロから告白される前、私から告白しようとしてたんだよ?」
「え?なにそれ、初耳なんだけど」
「ふふ。だって、今初めて言ったもん」
「…なぁ。ユカ」
言葉に詰まる。【やり直さないか?】と言おうとする。だけど、俺は決めたはずだ。ユカとは終わったんだと。
「…待ってるから」
「え?」
「私はずっと待ってる。この先、ヒロが誰を選んでも、私を選ばなくてもずっと待ってる」
「そんなに待たせねぇよ。もう決まった」
俺はユカの顔に手を置く。髪の撫で、頬にキスをした。
「…え?」
「これが、俺の答えだ。もう離してやんねーから」
「ヒロ!!」
…人生には色々ある。仲が良くても意見の食い違いで噛み合わなかったり、どんなに許せなくても、それが愛情に変わったり。愛情が憎しみに変わったり。それは、人それぞれの価値観で決まるから、他人にどうこう言われからではなく、自分の意思で物事を決めるのが大切なんだ。俺は、俺の意思でユカとこれからの日々を共に歩んで行く事を決めた。
長い長い人生をーーー。




