ライフ
私は四畳半のアパートで、ピンク色の透明な何かを食べていた。
行儀が悪いかと思ったが、ピンク色の透明な何かを食べながらユニットバスの中にある鏡をのぞくと私は白髪まじりの頭で、頬がこけていて、五十代ぐらいの貧相な男のような顔をしている。
「今回のライフはこれだけど、いいよね」と、巨大な目玉焼きのような帽子を頭に乗せた少女は私に告げる。
私がその目玉焼きに手を伸ばそうとすると、指先に電撃が走って絶対に触れないし、それを見ながら笑っている少女の顔が不快だ。
「前回のライフは、隣国からの爆撃が日常になった街で生きてる女の子が、飢えと恐怖の中で希望を見つけるライフだったわね。女の子のあなたが見つけた希望は、好きだった男の子がくれたチンケなフライドチキンのキャラクターのキーホルダー。男の子もあなたも爆撃で死んで、残ったのは瓦礫に埋もれたそのキーホルダーだけ。あなたはフライドチキンを一度も食べたことがなかったから、いつか少年と一緒に食べてみたかったのよね――――つまり、いかにもお涙ちょうだいの安っぽいライフだったわけで、がっかりしすぎたあたしは、大好物のコンビニの卵サンドウィッチと間違えて、うっかりフルーツサンドを買ってしまったほどよ!」
まあこんな糞みたいな感じで、少女の判断でライフが不合格になると次のライフが始まるのだが、四畳半でも五十男でも、ミサイルや銃弾が毎日飛んでこないだけでもこの人生には希望がある。
「私には記憶がありませんが、働かせて下さい」
「記憶がないってことは、誰だかわからないってことでしょ? そういう人はちょっと」
少女が突然あらわれて、採用担当の人の頭にビームを送る。
「まあいいでしょう。誰だかわからなくても仕事ができれば」
そんなわけで、私はスーパーマーケットの万引きGメンの職に採用された。
「母さんがもう一週間も帰ってこなくて、家にはお金も食べ物もないから……」
涙をながしながら話す万引き犯は、たぶん今の私と同じ五十代の憐れな男だ。
「幼い弟や妹たちがお腹をすかせて……」
私は深くため息をつきながら目を閉じたが、子どもの頃にテレビでみた世界名作劇場の場面が頭に浮かんだだけ。
結局私は、万引きした弁当と、自分の財布の中にあった五千円札を渡して五十男をそのまま帰した。
「ああ、今回のライフも不合格ね」
少女はそう言いながら、ピンク色の透明な何かをまた私の口の中へ押し込む。




