3話
新しい階層につくが相変わらずの洞窟だった。
十八畳ぐらいのスペースのある部屋に出ると部屋の中央に見覚えのあるサッカーボール並みのシャボン玉が浮いていた。
「あれってまさか。」
嬉しいことにシャボン玉の中には、手記が入っていた。早速、手記を取り出し安全を確認してから読み始める。
『この手記を読む汝へ。これを読んでいるということは汝もあの強すぎるスライムから逃げ出してこの階層に来たんだな。あれは、強すぎる。アイツに勝てる奴がいるならそいつも化け物だな。』
何故だろう。胸がチックとしたのは、き、気のせいだな。
『汝も知っていると思うがあの魔王はドワーフの王にして鍛治王、ガジル様だ。天界でも名を馳せる人間だった。とある理由から女神に敵対し他の魔王達同様、魔王と女神から認定されてしまった。あのクソ女神は、なんも考えてなさすぎんだよ。ガジル様が居られたらもっとこの世界は技術が発展し豊かになってに違いない。』
あの変人。やっぱり凄い人だったのか。とある理由がとても気になる。
それ以降は女神に対する愚痴や上司の愚痴が書かれていた。
最後のページとなった。
『PS。私はこれから強欲の魔王、マモンゴブリンに挑戦する。また、生き残ってやる。』
そう力強く書いてあった。
「・・・あ、うん。これは攻略本じゃないとわかってはいるんだ。でもモンスターの情報だけでも詳しく書いといてよ。」
俺はそっと手記を制服の内ポケットにしまい部屋の外へと歩き出した。
迷わないように壁伝いに歩いていると遠くの方から足音が聞こえ息を殺してゆっくりと足音が聞こえた方へと進む。
人影が路地を曲がった。
壁からその路地を覗くとゴブリンらしきモンスターがいた。
緑色の肌に、額から少し大きめの石ころサイズの角が生え上半身は何も着ておらず下半身には、ボロボロの布を巻いていて、右手には棍棒を持っている。
ファンタジーゲームでよく登場するゴブリン、そのものだった。
「おー。リアルで見るとキモいな。」
ぽっこりお腹かつ口からヨダレが垂れていて焦点のあっていない瞳。一見、薬物でもやっているのではと疑いたくなる顔をしている。
マジマジと観察していたらゴブリンと目が合った。
「「・・・」」
ゴブリンは首を傾げ俺に近づいてくる。
あとずらりしようとした瞬間、後ろに気配を感じ振り返ると真ん前にゴブリンの顔が映り込んだ。
「ギヤー!」
思わず叫んでしまった。
その声に驚いたゴブリンも「ギャー!」と叫ぶ。
大量の足音が聞こえここに居てはまずいと思い俺は一目散に逃げ出した。
全く内容が聞こえないが会話をしているゴブリン達は、逃げる俺を指差し数体のゴブリンが追いかけてくる。
「多勢に無勢だ。」
全力で逃げるために身体能力強化を使って速度上げて振り切ることができた。
逃げることに必死になりすぎて道に迷ってしまった。
周りを警戒し慎重に進む。
「・・・頭の悪いトラップだ。」
土も被せず落ち葉で落とし穴を隠した落とし穴。その落とし穴が一本道にびっしりと設置している。そして、トラップの先には、ゴブリンたちが隠れて見ている。
「待ち伏せか。・・・バレバレで逆に罠の可能性が・・・」
俺が動かないことを不審に思ったゴブリン達は円陣を組んでギャア、ギャアと声に出して丸聞こえの会議を始めた。
何故か、なんとなく話している内容がわかる。
ゴブリン達の会議は、何故、俺は落とし穴に落ちないのかという議題だった。
結論。落とし穴に気づいたから落ちないに落ち着いた。
ゴブリン達は、トラップに引っかからないならこっちが攻め込んでやると意気込んで攻めてきたが自ら仕掛けたトラップに次々と落ちていく。
「・・・あ、こいつらバカだ。」
しばらく経ってもゴブリン達は落とし穴から這い上がってこない。
不思議に思い落とし穴の中を見てみると5メートルぐらい掘られていた。最悪なことにそこにはびっしりと竹槍が設置されていた。
その竹槍によって串刺しになったゴブリンを発見した。
直径1メートルぐらいの綺麗な円形に掘られた落とし穴。精巧に作られた竹槍は、武器としても遜色ないほどの出来栄えだった。ゴブリンが落としただろう棍棒は、ずっしりと重く使い手の事をよく考えて作られている。技術はかなり凄い。しかし、ゴブリン達は知能が低いのか。それとも単に自分たちが仕掛けた罠に気づかなかったのか。気になるところである。
「・・・まあ、バカだよな。」
仕掛けられた落とし穴は、全てゴブリン達によって作動し安全に通れる道が切り開けたのである。
ゴブリンには、感謝しなければならないが敵なんだよな。
無事にトラップエリアをクリアし振り返り黙祷して進んだ。
トラップエリア以降ゴブリンとは合わず広場に着いた。
広場には入らず覗き見る。
見る限り、その広場には、何もなく誰かいた口跡はなかった。とりあえず安全そうだ。
少し不安は、あるがその広場に踏み入れた瞬間。ゴブリン達が死角から飛び出してきた。
何故か。この危険な状況に安心を覚える。
「ですよね。・・・やりますか!」
見える範囲ではゴブリンは、10体の群れだ。
棍棒持ちのゴブリンが三体。竹槍持ちのゴブリンが二体。石ころを大量に抱えたゴブリンが一体。手ぶらのゴブリンが四体。
注意しなければ行けないのは、遠距離攻撃ができるであろう石ころを抱えたゴブリンと手ぶらのゴブリンたち。
ふぅーと息を吐き。ゴブリン達の行動に集中する。
真っ先に動いたのは棍棒を持ったゴブリン達。
ゴブリン達が棍棒を振り上げ脇腹がガラ空きになった所へ大剣で薙ぎ払う。
豆腐を切るように柔らかい感触で斬れた。これは、何かの間違えだと思いたい。
しかし、俺の目の前には、上半身が切り落とされたゴブリンの死体が三体。間違えなくこの大剣で切り落とした。
ゴブリンの死体は、光の微粒子となって天へと消えていった。
ガジルさん!。切れ味がチートです。骨を断ち切る感覚すらなかったです。この大剣。扱うの怖いです。
ゴブリン達は、一撃で三体を倒した俺に怯えその場に崩れ失禁する。
同情する。俺も同じ立場ならしていただろう。
しかしだ。こいつらは敵だ。ならば容赦はいらない。
俺は全力でゴブリン達を斬り倒すと意気込み一歩進んだ。するとゴブリン達は、我先に言わんばかりに全力で逃げ出した。
そのあとを追いかける。
身体強化を使い走る速度を上げ最後尾のゴブリンに追いつき、首を刎ねる。スゥーッと首は、斬れ、その場に血の噴水が出来上がる。
一体のゴブリンがつまずき、顔面から派手に転んだ。彼を心配して他のゴブリンたちは、一瞬足を止めたが血塗れになった俺を見てさらに怯えて転んだゴブリンを見捨て逃げ出す。
見捨てられたゴブリンは、絶望に染まり泣き出したが俺には、関係ない。
躊躇わずゴブリンの首を狙い突き刺し首が落ちた事を確認して大剣を抜くと大量に吹き出す血によって刎ねた首がさらに転がった。
ゴブリンの死体は、先ほど同様に消えた。
「そういやなんで消えるんだ?」
ゴブリン達が逃げ出した方へ目を向けると誰もこの広場には居なかった。
「さて追いかけますか」
血に染まった大剣を勢いよく振って血を振り払いゴブリン達を追いかける。
広場から出た瞬間。死角から棍棒が鼻の先端スレスレで振り下ろされ咄嗟に一歩下がる。
ギャアギャアと声を上げて勇敢に威嚇するゴブリンが一瞬、勇者に見えたように感じたがブサイクな顔で見間違いだと気付かされた。
「ゾレヲヨゴゼ」
威嚇してきたゴブリンは何かを指差してそう言った。
こいつ。普通に喋れるんだ。
「それを汚せ?」
「ヂガウ。ゾレヲヨゴゼ」
あ、それを寄越せと言っているのかなるほど。それって大剣のことかな。
俺はゴブリンに大剣を渡そうと近づく。
「いや、渡すわけないじゃん!」
ゴブリンは、俺が持つ大剣を欲しそうに真剣な眼差しで見ている。
そんな目をしたって渡さないんだから。・・・俺は何をしているんだ。
「ヤハリ。ガジル様ガヅグッダゲンダ。ナラ。オマエハ、ヅイデゴイ」
ゴブリンは、何処かへとゆっくりと歩き始めた。
えと。あとをついて行けばいいのか。
このゴブリンは、他のゴブリン達とは、かなり違う。なんというか。理性的で人間らしい印象を受ける。
俺はゴブリンの後を追いかける?
沈黙が続く。
痺れを切らしたゴブリンが口を開いた。
「お前さんは、オレたちを殺したつもりだろうがそれは違う。ここにいるのは、女神に闘い敗れた者たちが瘴気に魂を蝕まれ魔物と成り果てた。・・・お前は、瘴気から仲間たちの魂を救ってくれたんだ。」
急に流暢かつ力強く話すゴブリンの表情は、悔しそうだった。
黙り込む俺をチラッと見えたゴブリンは、話を続けた。
「だからそう落ち込むな。それにここにいる奴は、あっちで死んだ奴らなんだからよ。」
そう言われても人を殺したこともない俺にとって生き物をこの手で殺した事実は変わりない。手が汚れているように感じ罪悪感で心は潰れそうになる。
今の。いや、ガジルさんを殺めた時から俺の顔色は、悪いのだろう。
「ついたぜ。」
ゴブリンにそう言われ顔を上げる。
スカイブルーの湖に小さな島がポツンっと寂しく浮いている。
差し込む光がスポットライトのように浮島に置かれた扉に照らす。湖と相まって息を忘れる程の絶景だ。
「おい。お前さん!待って!」
ゴブリンに何か言われたように気がしたが今はどうでもいい早くそこに行かないと。無我夢中で浮島へとやって来て気づく。
「・・・なんでここにあるんだよ。」
その扉は、俺の自室の扉だった。
ゴブリンも慌てた様子で俺の側へと走ってくる。
肩で息をするゴブリンは、何かを言いたそうにしていた。
「ゴブリンさん。どうしました。」
「お前さん。少しは待てよ。まだ説明してないんだって」
ゴブリンは、扉を指差し真剣な表情をする。
「この先にこの世界の真実がある。」
「真実?」
「あー。恐らくお前さんにはここに何かが見えているはずだ。」
ゴブリンには扉は見えていないのか。
「とある方からこの世界を救える者がいずれやってくるからその者をここへ連れてくるようにと言われお前さんを連れて来たってわけだ。」
「とある方?」
「それもこの先でわかるはずだ。」
ゴブリンは、口角を上げて笑顔を俺に見せて安心させようとしている。
「お前さんに一つ頼みがある。・・・俺を倒してくれ」
尋常じゃない程の汗をかいているゴブリンの真剣な眼差しでようやく気づいた。
瘴気に魂を蝕まれながらも瘴気に足掻き使命を果たすために俺をここに連れてくるために相当無茶をしていたんだ。
あの時、勇者に見えたのは間違えではなかった。
彼は、勇者だ。
楽にさせたい。でもこの人を殺めるのは。震える手で力強く大剣を握る。
「お前さんどうした?」
「いいのかよ。」
「あ。いいぜ。俺を人のまま、天に還してくれよ」
ゴブリンの安らかな笑顔を見て俺は、決心して首を狙い大剣を振るう。
ゴブリンは、星屑となって天へと還って行く。
「ありがとうな。」
星屑は、集まり青年の姿へ変わり満面の笑みを浮かべたと思ったら霧散した。
ほんと短い間の関係だったけど自然と涙が頬を伝う。
悲しみに浸ってるわけには行かない。その先に行かないと。
涙を拭い。扉を開く。
続く




