3.クリスマスイブ
「24日空いてる?一緒にチキンでも食べて過ごさない?」
イブの一週間前、信吾から連絡が来た。お互い相手がいないことは知っている。知っているから休日も映画を見たりゲームをして遊んでいた。
(女として見られていないことは分かっていたけど、イブの日まで誘えるほど異性として意識していないの?でもチキンと言っているということはクリスマスを意識している……?)
信吾の意図が分からないままだが、特に過ごす相手もいないので了承した。
当日、スーパーの総菜コーナーで買ったであろうチキンとワインを持って信吾がやってきた。特に気合を入れているわけでもない、いつも通りの服装や髪型、プレゼントを用意した雰囲気も厚みもないリュック。
あまりにも普段と変わらない様子の信吾を見て『恋人に進展するために意を決して誘ったわけではなく、ただ一人で過ごすのもつまらないので予定が空いていそうな私を誘ったんだ』と解釈した。
私がデパ地下で買ってきたクリスマスパーティー用のオードブルと信吾が買ってきたチキンを温めなおしスパークリングワインで乾杯する。
「ん、このキッシュ上手い」
「あ、本当だ。ベーコンとほうれん草ってやっぱ合うよね」
そんなことを言いながら頬張ってペロリと平らげた。チキンとワインと彩り豊かなオードブル……食卓はクリスマスらしく華やかになったが、生まれてくる会話はいつもと変わらない。
(クリスマスの夜に部屋でチキン食べてもムードが変わらないってよっぽどだよな。)
食器を洗うため廊下にあるキッチンで洗い物をしている時に、少しばかり残念がっている自分がいることに気がついた。服の首回りを少し前に出し胸元を覗く。万が一に備えてこの日のために新調した黒の総レースの下着が痛々しい。
(何を期待しているんだろ……。さっさと忘れよう。)
そう言い聞かせてリビングに戻った。信吾は床に敷いたラグにあぐらをかいて座りTVを見ている。その隣に私は体育座りをして並んだ。CMになり番組を変えるがゴールデンタイムはどのテレビ局もクリスマスの話題ばかりだった。
「さすがクリスマス。チャンネル変えてもどこの似たような内容だな」
「ん、そうだね。」
(この男、クリスマスってことは分かっているのか!!!)
私が体育座りから膝を伸ばそうと体制を変えようとした時、信吾の膝と私の腕が触れ合った。
ゲーム機を交換する時、食器を手渡す時、今までも少し手と手が触れることは何度かあった。でもお互い20代後半になりそれくらいでは動揺も緊張もしない。何事もなかったかのように淡々と過ごしていた。
しかし、今日は違った。
時が止まったかのように、お互いに触れ合った場所を見つめている。そしてスローモーションで視線をゆっくりと上にすると、同じタイミングで信吾も顔を上げている。バチリと目に焼き付くくらい印象的に相手の顔が目の前にある。
知り合って半年以上経つが、こんなに近くで信吾の顔を見たのは初めてかもしれない。」くっきりと深い二重と目のくぼみで際立つ高い鼻、そして厚みのある唇。信吾に見つめられたら視線を逸らせなくなりそのまま凝視していた。信吾も目を逸らすことなく私を見ている。
お互いを見つめたまま、でもどちらともなく少しずつ距離を縮めていった。息を吐けば相手の唇にあたりそうな程にまで近づいて私たちはそのままキスをした。
やがてその手は、服の中にゆっくりと入り体温を感じる場所を求め探検を始める。部屋の中とはいえ指先は冷たい。その冷たさを温めるかのように服の中で相手の熱を感じながら暖を取る。お互いに自分以外の存在を確かめ合うように静かに手と指を伸ばしながら、相手の身体を撫で合っている。
「はあっ……ん……」
部屋の中だというのに吐息が零れる。指はさらに深い場所へと踏み入っていく。こうして恋人たちが盛り上がるクリスマスの夜、雰囲気と探求心に満ちた私たちは一つになった。
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