15.初恋相手との再会
ある日、デスクの上にあるスマートフォンが電話の着信を教えるために振動していた。画面に目を向けると、表示されている名前はあまりにも懐かしいものだった。
「一馬」
まさか、と思った。信じられなくて思わず画面を二度見、いや、三度見したかもしれない。
(……本当に?一馬からなの?)
相手の名前が表示されているということはいたずらや間違いではないのだろう。もし、顔見知り程度の相手からの連絡であれば、きっとそのままスルーしていただろう。
でも、相手は一馬だった。大学時代、私が初めて本気で好きになった人。いつも一緒にいて将来を約束した初恋の相手。10年前、品川駅の改札前で私たちは抱き合い、感謝を口にしながら別れを告げた。その日以来、一度も会ってもいなければ連絡もしていない。
予想外の相手に、思わず画面を二度見してそれでも信じられずにじっと見ていたら電話は切れてしまった。
心臓がドキドキと音を立て始めた。どうしよう。どうしたらいい?様々な感情が押し寄せてきて頭の中がぐちゃぐちゃになる。喜び、戸惑い、そしてほんの少しの期待。
深呼吸を何度か繰り返し気持ちを落ち着かせてから、震える指で通話ボタンをタップした。プルルル、という機械音がやけに大きく聞こえる。受話器の向こうで聞き慣れない電子音が数回鳴った後、静寂が訪れた。
「……もし、もし?」
自分の声がいつもよりずっと小さく頼りなく聞こえた。緊張のせいだろうか、喉がカラカラに乾いている。
「もしもし、理沙?」
少し低くなったような、でも間違いなく一馬の声が耳に飛び込んできた。
長い年月を経て変わった声色の中に、確かにあの頃の面影が残っている。その声を聞いた瞬間、懐かしさが押し寄せてきた。
「……一馬?どうしたの?久しぶりだね、ビックリした。元気にしてた?」
気がつけば早口でまくしたてていた。何を話していいのか分からず、ただ言葉が溢れ出てくる。久しぶりの一馬の声に、頭の中は混乱していたけれど、それでも彼と話をしていることが不思議だけれど嬉しかった。
「……ああ、久しぶり。元気だよ。理沙は?」
ぎこちないながらも言葉を交わす。お互いの声を探り合うように慎重に言葉を選ぶ。言葉を発するたび出来る、会話の間は10年という歳月を物語っているように感じさせられた。
沈黙が少し長く続いた後、一馬が意を決したように言った。
「あのさ、来週、東京に行くことになったんだけれど、良かったら会えないかなと思って。どうかな?」
「……来週なら大丈夫。」
「……良かった。それなら来週の水曜日に。時間やお店はまた連絡するよ」
「分かった。」
短いやり取りで電話は終わった。通話が終わった後もまだ現実のことだとは思えず夢を見ているかのようだ。
もう二度と一馬と連絡を取ることはないだろうと思っていた。
あの別れは、私たちにとっての終止符でそれぞれの新しい人生の始まりだと。お互い違う人を好きになって、お互い違う道を歩んでいく……そう思っていた。一馬もきっとそう思っていたはずだ。だからこそ、お互いに、この10年間一度も連絡を取らなかったのだと思う。
予定を聞かれた時に少し間が空いたのも、私の返事に対して一馬も一瞬沈黙したのも同じように時間の流れを感じさせた。
(10年ぶりの一馬からの連絡。そして、再会……。一馬はどんな気持ちで連絡してきたのだろう。そして会ったらどんな雰囲気になるのだろう……。)
約束の日が近づくにつれて、期待と不安はますます大きくなっていった。再会したら、私はどんな顔で一馬に会えばいいのだろうか。何を話せばいいのだろうか。楽しみな気持ちと、それと同じくらいの不安が胸の中で渦巻いていた。
胸の高鳴りを抑えながら、私は約束の場所へと向かった。
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