11.嫉妬は熱々コーヒーと共に
「来週水曜日の打ち合わせ後にご飯行きませんか?あとコーヒー店も付き合ってもらえると嬉しいです。」
加藤君からメールが届いた。年明けにプライベートの連絡先を交換してからたまに連絡が来るようになった。
「素敵なコーヒーメーカーですね。コーヒーお好きなんですか?」
前回の打ち合わせ時に、そう言ってデロンギのコーヒーメーカーを褒めてくれた。
私が毎朝ブラックコーヒーを飲んでいることや、ドリッパーやコーヒーメーカーがインスタントよりも香りが高くて好きと話すと手動のミルとドリッパーを買ったそうだ。今では加藤君も毎朝、豆を挽きドリッパーで淹れるコーヒー生活を楽しんでいるらしい。
コーヒーを好きになったのは、前職で徹夜で作業することが多いのがきっかけだった。
夜中に眠気覚ましのためにインスタントではなくドリップコーヒーの香りに癒された。それから色んなメーカーのドリップを試し、豆の挽き方や煎り具合で味の違いを知ると専門店で買うようになった。ミルとドリッパーを買おうと思っていたところ、独立のお祝いに職場の仲間がお金を出し合いデロンギのコーヒーメーカーをくれたのだった。
高価なコーヒーメーカーは元同僚たちの声援を感じられて今でも自慢の物だ。そのコーヒーメーカーに目を付けて興味を持ってくれたことが嬉しかった。
「いいよ、行こうか。どこがいいかな?」
「コーヒー店が榊町にあるのでその周辺でお店探しておきます。何かリクエストあったら教えてください(にこにこ)」
にっこりと笑った顔文字が可愛らしい。普段、友人たちと会う時は幹事をすることが多かったので店を探してくれるのも新鮮で甘えることにした。
普段、用事がないと連絡せずメールのやり取りは煩わしいと思う私だったが加藤君からの連絡は嬉しかった。『もしかしたら好意があるのかもしれない』という状態から『好意を持ってくれている』と確信に近い物になってきたのも理由の一つになっている。加藤君から向けられる純粋な好意が嬉しかった。
水曜日、打ち合わせが終わりコーヒー店へと足を運んだ。
エチオピアやブラジルなど様々な国の生豆が麻袋に入って売られている。豆を選んだら、好みの焙煎具合と挽き方を選ぶとその場で機械で仕上げてくれるそうだ。
加藤君はミルで挽くために豆のまま少し深めのハイで、私はエスプレッソにも使いたかったので中挽きで深入りのフレンチにしてもらった。出来上がった品はまだ温かく封をしてあるのに針穴サイズの小さな空気抜き用のシールから香りが漂ってくる。食事をするにはまだ早いので店でコーヒーを注文してソファ席で談笑していた。
「稲本さんはどんな男性がタイプなんですか?」
「え……?」
「いや、どんな人と今まで付き合ってきたのかなって。ちょっと気になって。」
私が2週間前に信吾に聞いたことと同じ質問を加藤君が聞いてくる。
婚活でもよく聞かれた質問だったが、あの時は聞かれるたびに面接されている気分で正解の回答を探していた。退会して1年、今になってこの手の質問は相手を知るためのきっかけの一つだったのだと気付かされる。
「今まで、か。大学時代に付き合った人がいたけど彼が地元で就職が決まってその時に別れちゃったんだ。いつも一緒にいて優しくて真面目な人だったな」
先日、一馬のことを思い出したばかりなのですぐに顔や声が浮かんでくる。
「稲本さん、まだその彼のこと好きなんですか?なんかいつもと表情が違いますよ。」
「え、そう?そういうわけじゃないよ。最近、ちょっと思い出すことがあって、元気にしているかなと思っただけ。」
「そっか……。はあ、良かった。ちょっとドキドキして嫉妬しちゃいました。」
(え……!???嫉妬した?)
加藤君の言葉にどぎまぎしていると、私の動揺と自分の口にした言葉に照れて、加藤君は慌ててコーヒーを口にした。
「あちっっ」
まだ熱いコーヒーを勢いよく飲もうとして火傷をしたようだ。
「え、加藤君、大丈夫?」
ハンカチを差し出すと手で制してきた。
「大丈夫です。ありがとうございます。……それにしても何やってるんだろ、俺。かっこ悪すぎて恥ずかしい」
少し顔を赤らめながら凹む加藤君を見て、「キュン」という久々の感情が湧き上がってきた。
(へ?キュン?私、今加藤君にときめいた???)
真っ直ぐで、でもたまに空回りをしてしまう年下の男の子の加藤君。このキュンは年下の男の子を可愛いと思うお姉さん心なのか、それとも異性としてのキュンなのか。この時は、正体が分からなかったが私は確実に加藤君にときめいていた。
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