1.都会への憧れ
大人になったからこそ臆病になる。揺らぐ。そして迷う。
元カレの一馬・セフレの信吾・年下の加藤君選ぶべきは、一緒にいて楽な相手?それともドキドキする相手?30代大人女性の揺れ動く恋の結末は?
今年もクリスマスは一人で過ごすつもりだった。
しかし今、私は部屋で同い年の信吾と過ごしている。この部屋には私と信吾しかいない。床に敷いたラグに隣同士で座り、何気なくつけていたテレビを見ていた時に信吾の膝と私の腕が触れ合った。お互いの感触に気が付き触れた場所を眺めていたが、そのまま視線を上げて見つめ合った。私の前には手を伸ばせば触れられる距離に異性がいる。
今日はクリスマスイブ。恋人たちがプレゼントを贈りあい、そして愛を重ねる日。そんなシチュエーションが絡み合ったのか、どちらともなく手を伸ばし唇を重ねた。
やがてその手は、服の中にゆっくりと入り体温を感じる場所を求め探検を始める。部屋の中とはいえ指先は冷たい。その冷たさを温めるかのように服の中で相手の熱を感じながら暖を取る。お互いに自分以外の存在を確かめ合うように静かに手と指を伸ばしながら、さらに深い場所へと踏み入っていた。こうして恋人たちが盛り上がるクリスマスの夜、雰囲気と探求心に満ちた私たちは一つになった。
☆☆
「この街は私には狭すぎる。……私は、私らしくいれる場所に行く!!」
誰もが知るような有名人や世界で活躍するようなアスリートなど何者かになりたいわけではなかった。父と母には言わなかったが、この町にはもう戻らない、そう固い決意を胸に18の春、私は生まれ育った田舎から東京行の切符を握りしめ颯爽と電車に飛び乗った。
それから13年。私、稲本理沙はフリーランスのWebデザイナー兼ライターとして一人暮らしのマンションで気ままな生活を送っている。
18歳でデザインの専門学校に入学。地方の出版社や広告代理店では請負金額や規模も小さく求人自体がほとんどない。勉強したことを活かして仕事にしたいから都会に出たいと何度も両親を説得し上京。
卒業後、都内の広告代理店に勤務し、大手出版社の下請けで知名度は低かったが誰もが知る飲料水のパッケージやお菓子の広告の作成や地方の観光名所ガイドのHP作成など幅広く展開し完成に携わった。
自分がやりたかったデザイン関係の仕事に就けたのは良かったが就労時間などないようなもので深夜まで作業していることもザラにあり不規則な生活。幅広く展開という会社の方針も聞こえはいいかもしれないが悪く言えば広く浅くで専門性がない。そのため下請けが主で給料も低かった。
結婚の予定も願望もなかったが、このまま生活リズムが狂ったまま30代、40代を迎えることに不安を感じ26歳の時に独立をした。最初の2-3年は勤めていた広告代理店から仕事を貰って生計を立てていた。
生活リズムが不安と言いながらも、辞めたばかりの頃はそれ以上に働き顧客獲得に努め本来は休みの日もデザインの事ばかり考え仕事中心の生活をしていた。そのおかげか徐々に前職以外からの受注も獲得できるようになり、独立して5年が経ち今は女性の美容雑誌の広告や構成を担当している。やっと一人でも不自由のない安定した生活を手に入れたところだ。
午前10時、同世代の会社員はみな仕事をしているであろう時間に起き上がり大きく伸びをした。昨夜は、寝る前に急にひらめいて作業をし始めたら気が付いたころには陽が昇り朝になっていた。初夏で陽の入りが早くなったとはいえ、夜中から4時間半ぶっ通しで作業出来るのは前職と独立して間もない頃に身に付けた能力の1つだろう。
デロンギのコーヒーメーカーで淹れたエスプレッソを少しずつ飲みながらスマホでメッセージをチェックする。
『あ、信吾からだ』
信吾とは婚活疲れをして相談所を退会した後に友人を介して知り合った。
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