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陽性変異 Vol.2  作者: 白雛
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第一変『陽性変異 Vol.2 ・4』





 高学年から中学の間にそうして人並み(クラスLINEなんてバカみたいな重し(・・)が配られて、その脅迫がどうやら世間の普通であることに、私はゾッとしたけれど)のコミュニケーションを諦めるようになると、付き合う人が変わった。

 後ろ指差すものも当然いたけれど、もはや耳に入れるのもダルいし、付き合うということが相手の土俵に降りるということで、そういった連中と付き合わないということが、私のずるい誇りでもあった。

 皐月は、中学一年のとき、別の区域の小学校からやってきた。皐月からすれば私がそうだ。最初は単にアホだなと思っていたのが、ふわふわふわふわ楽そうに生きてんなコイツ……生きているというより漂っているに相応しいんじゃないか? と次第に一目置くようになって、気がつけば一緒にいるようになった。

 私が周囲に塩対応を始めてからも変わりなく接してくれる唯一の友人だった。

 何よりも楽だったし、裏を返せば羨ましかったのだと思う。

 天然記念物級の皐月の身軽さは、一緒にいると私の肩の荷まで下ろしてくれるようで、救われもした。

 だから、今は尊敬もしている。

 賢くなんかなれなくていい。人から好かれなくて構わない。私はもう先立ってその競争は降りた。

 代わりに今は皐月のようになりたい。

 なれたら、すこしは、生きることに前向きになれるんじゃないか。

 わからない。

 それでも、先のことはわからないから。

 だから、今もまだ時々ふと過ぎりもするのだ。

 皐月となら。

 皐月ならその気軽さで——飛ぶのにも付き合ってくれるんじゃないかって。

「ねぇ。皐月」

「うん」

「…………」

 こういうことは、いつ、と決めてかかるより、思い立ったその瞬間に多少強引にでも前へ進めてしまうのがいい。

 バンジーと同じで。

 でなければ一生、飛べない。

 帰り道。

 私は、口を開いて数秒、ちょっと間を空けて言った。

「今日、帰り、どこか、寄ってく?」

 とっさに用意していなかった言葉を出したので、外人のカタコトのようになった。

「…………」

 ここまで出かかって、なお言えなかった。それは皐月が乗るにせよ、反るにせよ、彼女を頼りきれなかったという私と皐月の仲に対する侮辱ですらあると思い、私は、自分の不甲斐なさに少し、ネガティヴになる。

 皐月は、小学生が体操着袋を蹴り上げるように俯きながら、私の少し前を歩いた。

「みよちん、私ね、本買いたい。あと駅前をぐるっと回りたい」

「……なんで?」

「あんまし、ないじゃん」

 振り向きながら続ける。

「午前中から歩き回れるのって」

「……確かに」

「本当はー、普段の日にやるのが一番楽しい。朝とか、知らない街みたいで見てるだけで面白いよ。近所でもさ、見たことないところ多いし。冒険になる。でもお店は閉まってるから、その辺は調節してね?」

「皐月、ときどき風邪で休んでるのって……てか、大丈夫? それ。補導とかされない?」

「おまわりさんってねー、なんか面倒見のいいお兄ちゃんみたいで話してみると面白いよね。交番にいるのはジュンサって言って下っ端なんだって。警察も大変なんだって」

「……皐月って」

 思ったより不良だ。面白いと聞けば例え違法だとしてもやってるんじゃないか? 末恐ろしいし、それにこの国の警察ときたら。

「私はまだされたことないなー。仲良くなれば話もちゃんと聞いてくれるし……反発するからいけないんだよ。なんかさ、みんな、下手だと思う。一億総コミュ障時代! せっかくの人間なのに」

「……確かに。でも、ほら、わかんないってこともない? 信用ができないっていうか……そういうの、ない?」

「わからんなー。私バカだからなー。その場が楽しければ何でもいいって思っちゃうから」

「あぶないよ、それは」

 どの口で言ってるんだ。自分でそう思った。

 けれどそんな私の自虐を被うように、すぐに皐月は言った。

「危ないことも楽しい。じゃーあ、先に本屋行って、ぐるっと回って……」

 皐月はときどき末恐ろしい。

「それから、みよちんの行きたいところ行こっか」

 言えなかった私の言葉を聴いていたかのように、皐月はそう言うのだった。







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