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第一変 『陽性変異 Vol.2 ・1』
脚がなかった。
よく見れば、今の私と同じくらいに肌は青白く、その身体は薄ぼんやりとしている。
腰から先が、なにやら煙のようにひょろひょろとしていた。それでいて皐月ときたら、律儀にも両手をくの字に折り曲げて、その額には丁寧に白い三角巾までつけているのだ。
脳裏に浮かぶイメージはただ一つ。
まさしくそれを目にして恐れおののく怪談の主人公にでもなったように、私は、彼女を見上げて、
「こ、これって……皐月、」
「うん。みよちん、私ね——」
二人、呆れた声が重なった。
——その数時間前。
フェンスが阻む空の上。
ひらひらと舞い落ちてくるそれを、私はぱっと手に取り、眺めた。
綿毛だった。
白い、綿毛だった。
「みよちーん、どこー?」
後ろから声がして、振り返るとペントハウスの中から皐月が出てくる。
「いた、みよちん」
まるで私がお母さんでもあるかのような安心した顔で皐月は言って、
「かえろ」
「うん」
私は機械のような愛想のなさで答えて、皐月の後から日陰に入る。
終業式、前日のことだった。
世間は今、春先から増え続ける超常現象のことで忙しいらしい。