全廃‐職業貴賤
20××年、日本では「航空車」が一般的になりつつあった。万博で御目見えした「空飛ぶタクシー」は、多くの入場者にとってヘリコプターと寸分違わない印象に終わったが、その後ドローン型から昨今ではデロリアン型に進化し、地上走行可能なこれを公道で走らせようとする動きを、与党サナエ新党が活発化させていた。また一部投資家は発着駐車場ベンチャーでひと稼ぎしようと狭小物件確保に色めきたっていた。こうした産業構造の激変を前に、白タクを合法化させてライドシェア普及に実績のあったトト呂次郎(トは木ヘンに者)は(陸上車は地平面しか移動できないために)2次元タクシー団体が反対する2.5次元産業によって壊滅的打撃を受ける懸念から、デロリアン型タクシーの流入となる自由化(新規参入障壁の規制緩和からの悪影響で)失業者を出さないソフトランディングに向けた各団体の調整に駆け回っていたが、ただ議員として、それは八方丸く収める大岡裁きの最適解を得ようとする使命感からなのか、移行期のチャンスに少なからぬ産業改革利権を身内に確保しておこうと躍起になっているのかは周囲には分かろう筈も無かったのである。折りしも近隣の李朝国に続いて中共国が日本製食パンの添加物を論い、ザキヤマブレッドHD傘下食品会社の全製品に輸入制限を加え、臨戦挑発で干渉距離を一気につめてきたのである。一方、国内では反戦機運の過熱から平和団体票を集める左派有力議員の「そうはいっても防衛隊は訓練された殺人装置じゃないの?」発言が保守系SNS層からの炎上を招き、のみならず、当人の性スキャンダルが暴露された上、自死に至るという傷ましくも(悼)不審な最期を遂げた。この方面では後に「防衛隊を災害復旧動員に使う抱き合わせは防衛隊のイメージ戦略だ」とする論調が多少バズったものの、兵員を徐に南下させた李朝国や、台湾周りの中共国の動きを警戒し、艦船整備を危険視する連日の脅威論報道から参戦ムードに掻き消されていった。トト呂次郎は都知事と連動した環境配慮案件(ソーラー発電の普及ほか)が評価され、中共国大使館でのレセプションの主役として大阪に向かうのであった。
( ※ 修正的に1文字追加した心算です)