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ヲ嬢様と完璧従者の華麗なる日常 〜金と気品とボケと胃痛と〜  作者: 清士朗
第一章 新年度にはチーター討伐を

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5 いざ初陣。さて、本格的に始めましょうか

 先ほどの評価を踏まえて、次の練習試合に移る前に陽毬がもう少し具体的に各々へ指示を出す。


「私の考えですが……まず、文香先輩はそのまま“攻撃担当”です。

 とにかく敵をキルする。それによって敵の進行そのものを食い止めて、ゾーンをキャプチャーさせないようにする。それを綾先輩が後方から援護してください」


「まさかゲームの中でもお嬢様のお守りをすることになるとは……」


 遠い目をする綾に、文香が満面の笑みで手を振る。


「よろしくねぇ、綾」


「……ため息が出ます」


 そんなやりとりを横目に、陽毬は次の指示を出す。


「要先輩は、全体を見ながらキャプチャーに集中してください。

 ときどき単独で会敵するかもしれませんけど、敵を倒すより、その敵に倒されないことを最優先でお願いします」


「かしこまりました。陽毬の指示通りに」


 要の穏やかな声に、陽毬は小さく頷く。

 そして最後に、陽毬はレシュリアへと視線を向けた。


「それで……レシュリア先輩は……」


「……この戦場に咲く可憐な華の私は?」


 レシュリアが両手を胸の前で組み、キラキラした瞳で尋ねる。


「勝手に徘徊せず、とにかく私と行動してください」


「……えっ」


 わずかな沈黙。

 そして——堪えきれずに文香がぷるぷると肩を震わせた。


「くっ……“勝手に徘徊しないで”って……レシュリアぁ、あなた、もう完全に徘徊老人ポジションじゃない」


「だ、誰が老人ですのっ!?」


「迷子になるまえに私がGPSつけてあげるわぁ」


「余計なお世話ですわーっ!!」


 キーっと小型犬の威嚇するレシュリア。その空気に陽毬も思わず頬を緩めた。



 ***



「では、改めて練習試合を始めましょう」


 陽毬の号令で、五人はそれぞれのゲームにログインした。

 ヘッドセット越しに、各々の呼吸音が微かに重なる。


 マップは《砂塵の港湾》。中央の大通りには遮蔽物が多く、時折、砂塵が舞うイベントも起こる——ゲーム内屈指の見通しの悪いステージだ。


「皆さん落ち着いて。私たちなら勝てます」


 陽毬の声が通信に響く。ゲームが始まった。


「お嬢様。その通路の先、敵プレイヤーが頭出しをしています。おそらく単独かと」


 綾の報告に文香が素早く反応する。


「了解よぉ。じゃあその敵を倒すわぁ」


「……援護します」


 飛び出した文香。相手も反応するが、綾の牽制射撃に乱されて、ワンテンポ遅れる。


《フーミー が 敵プレイヤー1 をキルした》


 その隙を見逃さず文香が仕留める。画面に流れるキルログ——

 そのキルログに感化されたのはレシュリアだった。


「レシュリア先輩!! 早まらないで!! 戻ってくださいレシュリアせんぱああああい!!」


 陽毬の叫びが届く前に、画面には既にレシュリアのキャラクターが駆け出していた。

 力強いレシュリアの瞳。そして数秒後、盛大な爆発。


《可憐なお嬢 が 可憐なお嬢 をキルした(自爆)》


「……テロリストの自爆のログが出ておりますが」


 要の淡々としたツッコミが響く。


「これはわざとですわっ! 敵を誘い出すための非常に高度な戦術ですの!!」


「敵……いませんでしたけど……」


 陽毬の突っ込みにレシュリアはうなる。



 ***



「文香様、この先の中腹拠点に敵。正面からでは突破が難しいと思われます。

 綾、建物右側からスナイピングを。私が裏へ回りますので、タイミングを合わせてください」


「まさに愛の共同作業!! 任せてくださあぁい要様ぁ!!」


「……了解です」


《フーミー が 敵プレイヤー4・5をキルした》

《AYA が 敵プレイヤー1 をキルした》


 要の指示に文香と綾の声が重なる。同じように重なるキルログ。ゲーム内で敵が一斉に倒れていく。

 文香の連射。綾の精密射撃。要の裏取り。

 三人の連携は見事に噛み合っていた。


 ——だが、その隙を突くように敵の増援が後方に現れ、陽毬とレシュリアが守る拠点を急襲する。


「レシュリア先輩、後方に二人! 一度撤退を!」


「いいえ! ここはお任せをっ! この華麗なる爆破で——」


 再び轟音。


《可憐なお嬢 が 敵プレイヤー2・3 をキルした(自爆)》


「ま、また自爆してるっ!?」


「爆破こそ、まさに芸術ですわっ!!」


 約一名の完全にイッてる思考に陽毬は思わず頭を抱えたが、ゲームの戦況は意外にも悪くなかった。


 レシュリアの“奇行”によって敵の進行が大幅に乱れ、そのすきに要たちが再び前線を押し上げる。


「陽毬、ゾーン確保しました。キャプチャー開始します」


「了解です! 全員、要先輩のカバーお願いします!」


 残り時間はあとわずか。そして戦況は五分と五分。

 緊張感の中、陽毬の指示が小気味よく飛ぶ。


「綾先輩、右側の建物屋上に敵スナイパー! 文香先輩、前衛を牽制してください!」


「了解よぉ!」


 文香の弾幕が敵を牽制し、その隙に綾の一撃が敵の頭部を貫いた。


《AYA が 敵プレイヤー3 をキルした》


「綾先輩ナイスショットです!」


「……ふふ、当然です」


 陽毬の顔が思わずほころぶ。

 そして——


「レシュリア先輩! お願いします! もうスポーン地点で待機していてください!」


「なんでですのおおおおお!?」


 ——もう少しだ、勝つために余計なお荷物はステイさせ。


「要先輩! いけます。このままゾーンを……!」


「承知いたしました」


 要の操作するキャラクターが敵陣の中心を制圧し、旗がゆっくりと味方色に染まっていく。


 最後に表示された文字は——


 《VICTORY》


 勝利。


 部室にどよめきが起き、全員が一斉に立ち上がった。


「や、やりましたね……!」


「ふふん! 当然の結果ですわ!」


「テロリストの自爆がまさかここまで使えるなんてねぇ」


「ふん! 勝てば官軍ですの!」


 文香とレシュリアの口論に、綾がやれやれと肩をすくめる。

 そんな中、要は静かに陽毬へと視線を向けた。


「陽毬。——素晴らしい采配でした」


「え、あ、あの……そんな、大したことじゃ……」


「いえ。皆を活かすいい指揮でした。おかげで私たちは、見事に連携を取れたかと」


 その言葉に、陽毬は胸の奥が熱くなるのを感じた。


 この学園に来てからずっと感じていた“居場所のなさ”が、

 いま、この瞬間だけは嘘のように消えていた。


「……ありがとうございます、要先輩」


 静かな笑顔。

 それを見ていたレシュリアと文香が同時にビクッとした。


「な、なんか、今日はやけに要の“微笑み”が……甘いですわっ!?」


「くっ……陽毬さんばっかり。もおおおお。ずるいですぅ」


 ——こうして、娯楽遊戯倶楽部の初陣は大成功に終わった。


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