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ヲ嬢様と完璧従者の華麗なる日常 〜金と気品とボケと胃痛と〜  作者: 清士朗
第三章 夏のブラックフェザー

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39 ブラックフェザー

「造り自体は……女子棟と対になっていると言うか、まるで鏡みたいだな……」


 昼休みにローガンと昼食をとった後、腹ごなしの散歩がてら男子棟を散策する。


「俺は女子棟の内部を知らないけど、そもそも男子棟と極端に配置が違う造りにはしないだろうな……」


「なぜそう思う……?」


 ローガンの言葉に、要は純粋な疑問を呈する。


「んあ? いや何となくというか、感覚的な話なんだけどさ。要は上から校舎を見たことあるか?」


「いや、ないな……」


「俺さ、この前実家から送られてきた新型のドローンを広い場所で試そうとして、学校の中庭で飛ばしたんだよ!!」


「校内は元より、学園上空は飛行禁止区域のはずだが……」


 嬉々として堂々と犯罪を自白するローガン。


「そしたらさ、本棟を中心に綺麗なシンメトリーだったんだ!! ってことは、ここを造ったやつの美学的に内部構造も左右対称にしたくなるだろうって思って!!」


「結局バレて、お前の姉さんにしこたま怒られたけどな」とローガンはカラカラと笑う。


 勢いだけの推理だが、妙な説得力があった。


「にしても……」


 そこまで言ってローガンは視線を逸らし、肩を小さく震わせた。


「さっきの俺の反応がそんなに面白いか?」


 先ほど二人はカフェテリアで昼食をとっていた。

 しかし、席についても要はどこか落ち着かず、テーブルごとに鳴る呼び鈴に脊髄反射で肩をビクンと震わせていた。


 体に染みついた反応は一朝一夕で抜けるものではない。

 食事中であろうと、食後のティータイムであろうと、呼び鈴が鳴るたび肩が跳ね上がり、視線もそちらへ向いてしまう。


「もう、プログラムされたロボットみたいな反応速度だったぞ……」


 ローガンは堪えきれないと言わんばかりに声を上げて笑った。


「そんなに笑ってくれて俺も嬉しいよ。お礼と言ってはなんだが、姉にローガン・コウフが二度目のドローン飛行を企てていると伝えておこうか?」


 要が意地悪く返すと、ローガンは青ざめて泣きついてきた。






「ところで要は、今年の『フェザー』にはもちろん出るんだろ?」


 屋上のベンチに腰掛けた二人。


 足の向くまま、目的も決めずにのんびり歩いた散歩の終着点が屋上だった。


 頬を撫でる風が心地よい。


 風になびくローガンの金髪が陽光を受けてキラキラと輝き、まるで演出されたかのようだ。


 そんなローガンが、どこか俳優然とした気障な動きで要に尋ねる。


「フェザーか。そういえば、そろそろそんな季節だな」


 フェザーとは、夏休み前と冬休み前の年二回開催される雅山学園伝統の舞踏会だ。


 一般的な高校の運動会・文化祭に相当し、この日ばかりは男女合同で、保護者も来校できる。

 簡単に言えば、学園を舞台にした社交会である。


 そのため生徒以上に、人脈作りに必死な保護者が血眼になるのもよくある話だ。


 そして舞踏会で唯一企画されている特別な催しが『フェザー』だ。


 舞踏会らしく男女でホールを踊るのだが、希望者はタキシードやドレスの胸元に羽をつけ、審査の対象となる。

 踊りの技術や所作の優雅さに加え、見た目の華やかさも評価される。


 俗に言うミスター・ミスコンテストのようなものである。


 だが格式高い雅山でフェザーに選ばれるのは“勲章”に等しく、後々の社交界で強力な武器となるため、男女問わず狙う生徒は多い。


「夏休み前だからブラックフェザーか……去年は従者として参加してたから、会場外の警備に回ってたんだよな……」


 思い返すように要が呟く。


「そう言われると去年は会場で要を見てなかったな。にしても……冬休み前のホワイトフェザーも含めて、去年のフェザーは荒れたんだぞぉ〜」


 ローガンがニヤニヤと口角を上げる。


「それはまたなぜ?」と聞いてほしいのだと分かるが、ローガンの下品な笑みに少しイラっとする。しかしここで返さないのも野暮だ。

 要は「なぜ?」と話の続きを促した。


「よくぞ聞いてくれた!! 実はな、お前が参加しなかったせいで女子生徒たちが阿鼻叫喚の大騒ぎ!!

 お前のタキシードを目当てに一眼レフを構えていた女子生徒もちらほら」


「それは話を盛り過ぎじゃないか? 男子棟にもタキシードが映える生徒は多いだろう。例えば……ローガンとか」


「お、褒めてくれるのか? 悪いが俺はノンケなんだ。だがな、これは盛りすぎじゃないぜ。なんなら自分の元主人に聞いてみろ。一眼レフを構えていた一人はお前の元主人だ」


「……あー、ちなみに。覚えている限りでいいんだが、他には誰がカメラを?」


「んーとな。確か源道寺家の一人娘もカメラみたいなの持ってたな。あとは当時の三年生の多くが持ってた気がする」


 そこまで言われてしまうと、正直、今年のフェザー参加はかなり億劫になってきた。


 しかし自由参加とは名ばかりで、実際はほぼ強制参加なのがフェザーである。


「どうにかして風邪でも引いてフェザーをサボれないかな……」


 要がぼやくと、ローガンは笑いながら言った。


「俺は面白いからそれでもいいけど、自分の姉のことを考えたら……参加してあげな……」


 最後の一言は、それまでより比べ物にならないほど優しく、どこか哀れみすら含んでいた。


 フェザーの日は、日本中の重鎮が集まる大イベント。

 教職員にとっては胃に穴が開くような一日だろう。


 もしローガンの言うように、自分が欠けたせいで阿鼻叫喚になったとしたら——


 姉の心労は計り知れない。


「確かに……真面目に出席した方が良さそうだな……」






 その後、二人はまっすぐクラスへと戻る。


「はあ……フェザーか……」


「なんだよ。まだ始まってすらいないのに。そんなに気が滅入るのか?」


「基本的に、俺はああいった煌びやかなイベント事は苦手なんだ……」


「富士家は富士宮家の分家だろ? だとしたら、本家主催の晩餐会とか、名代として顔を出すイベントとかあるんじゃないのか?」


「確か十歳くらいから父親に連れられて行ってたが、基本的にはレシュリア様のお守りというか……遊び相手担当だったからな」


「なんだそれ。つまりお前たちは子供の頃から一緒だったのか。それなんてエロゲ?」


「男しかいないからって、軽々しくエロゲだなんだって言わない方がいいぞ……」


「——その通りです。品位を疑われますよ」


 不意に、聞き慣れない声が二人に届いた。


 一本に結われた長い髪。

 しかし服の上からでもわかる筋肉質な体つきは明らかに男性で、鋭い目つきは常在戦場の侍を思わせる。


「うげ……会長……」


 やっちまった、とローガンが顔を顰める。

 会長と呼ばれた男子生徒は、ガシッとローガンの肩を掴んだ。


「いいかいコウフ君!! 我々は将来、立場ある人間になるんだ。故に!! そんな不潔な発言はコンプライアンス違反に——」


「あーあー、ごめんなさいごめんなさい!! 俺が悪かったです!!」


 説教を聞きたくないとばかりに耳を塞ぐローガン。


「身延生徒会長。なぜ二年生のフロアに? どなたかに御用ですか?」


 要が問う。

 彼は身延政宗。この雅山学園の生徒会長をつとめる傑物だ。


「うむ。富士君。君に少し話があって来たんだ」


「俺……あ、いや。私にでしょうか?」


「そう身構えなくても取って食いはしない。それに、もうすぐ授業も始まる。急で申し訳ないが、放課後に本棟の生徒会室まで来てくれ。

 ——コウフ君。君も来たまえ。説教の続きはそこでしよう」


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