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ヲ嬢様と完璧従者の華麗なる日常 〜金と気品とボケと胃痛と〜  作者: 清士朗
第二章 従者のお見合いを妨害せよ

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37 モラトリアムの殻を破る

 

 富士要にとってレシュリア・レンハート・富士宮は主人であり、本家筋の一人娘。


 ——ただそれだけだった。それ以上でもそれ以下でもない。


 年頃の男女ではあるが、そこに惚れた腫れたは一切なく、むしろただただ手のかかる少女。


 今まであった自らのお見合いに対する数々の妨害(破壊?)工作も、ただお気に入りのおもちゃを誰かに取られるのが嫌なだけ……


 そんな子供のような動機だろうと勝手に決めつけていた。


「……もう、俺たちは子供のままじゃいられない」


 ふと、薄明とのお見合いの前日、父が言っていた言葉を思い出す。


 ——ゆくゆくはお前は富士家の当主になる。


 そうだ。俺はいつまでもレシュリアの従者である富士要ではいられない。






 要は帰宅してすぐ父親の私室に呼び出された。


「入山瀬殿から連絡は頂いている。要、お前は明日は学園を休みなさい。富士要として編入するのに手続きが必要だ」


「ああ、わかったよ……」


 父親の言葉にどこか上の空で答える。


「俺がいなくなったら、特別学級はどうなる……?」


「おそらくは解体……だろうな。レシュリア様と文香様がお望みになれば存続はするだろうが、元々男のお前をレシュリア様の従者として所属させるために作られた学級だ。

 お前が富士要として籍を置く以上、もはや不要だろう」


「そっか……そうなるよな……」


 しばしの沈黙。時計の秒針だけが部屋に響く。


「そうだ一つ忘れていた。ご当主様からだが……要、お前はもうレシュリア様の従者の任を解くとのことだ……」


「それは、入山瀬家との取り決めの事じゃ?」


「それとは別だ。確かに入山瀬殿と本家の話ではお前が復職を希望すればとの話だったが……ご当主様はここが頃合いだと判断なさったらしい」


「……頃合い?」


「そうだ、お前とレシュリア様の関係性をはっきりさせる。モラトリアムから一歩抜け出すために」






 それだけ言うと、父親から話は以上だと半ば追い出されるように部屋から出る。


「要様。入山瀬家の遣いのかたより、お荷物をお預かりしております」


 部屋の外に控えていたのか、老齢のハウスキーパーが声をかけてくる。


 父親の幼少期より富士家に仕える彼女は、姉や自分を時に厳しく、時に優しく見守ってくれた。今は優しく穏やかな顔をしている。


「お疲れでしょう。本日はもうお部屋にてお休みになられては? 荷解きは明日、私もお手伝いさせていただきますので」


「そうさせてもらおうかな。帰ってきて早々に世話をかけてすまない……」


「なにをおっしゃいます。私は要様と有栖様を赤ちゃんの頃から見ております。この程度の些事は世話のうちにも入りません」


「そうか……」


 まるで本当の孫をあやすような優しい声色。実家に帰ってきた安心感も合わさり、重力が倍になったような疲労感が要を襲う。


 そしてついつい、ため息をついてしまう。


「ご立派になられましたね」


「こんな、ため息をつくような情けない奴がか?」


「ええもちろん。悩む、そして迷うということは子供から大人へと、硬い殻を破ろうとしているのでございます。それだけで立派な成長でございます。婆やはとても嬉しゅうございます」


「そういうものか」


「そういうものでございます」






「おーきて。要きゅん」


 ずしりと体にかかる重さ。耳元で誰かが囁く声。


「起きないとー、お姉ちゃんが……イタズラしちゃうぞ」


 そうだ、忘れていた。この人がいた。


 半覚醒状態の頭でも判断できるこの声。


「姉さん。おはよう……」


「うんおはよう要きゅん!! 久しぶりに朝起こせてお姉ちゃん幸せ!! 今日はお休みなんでしょ? お姉ちゃんと一緒に一日中ラブラブを——」


 目はハート、吐息は荒く、恍惚とした表情へ浮かべ、要の顔へと近づける。


 そして唇と唇が……


「有栖様? あなたは今日からお仕事でしょう?」


 重なる……のは、婆やに阻止された。


 かの阿修羅すら慈愛の菩薩に見える。そんな怒りの形相で立つ婆やの姿に有栖はだらだらと脂汗を流す。


「い、いくら婆やでも。私と要きゅんの仲は——」


「当然裂きます。ほら、とっとと朝食を召し上がって、さっさとお仕事へ向かってください」


 手をぱんぱんと叩くと別のメイド二人が現れて、もがく有栖をずるずると引きずる。


 朝から騒がしいが、その騒がしさが寝起きのぼーっとした脳をちょうどよく覚醒させる。


「まったく、有栖様はいつまで経っても弟離れが出来ない方ですね……要様ももう朝食を召し上がりますか?」


「ああ、そうするよ。食べたら早々に荷解きと今後の支度を……」


「かしこまりました。準備をしておきます」


 一晩ぐっすりと寝たおかげだろうか。頭は澄んで視界はクリアだ。


「さあ、殻を破るか」


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