33 ドキドキデートを尾行せよ!!
「ところで姉様。どこか行きたいところはありますか……?」
「ところで薄明ちゃん。どこか行きたいところはあるの……?」
ホテルを出てすぐの道端。
姉妹はまるで鏡合わせのように同じ言葉を口にし、ぴたりと視線を交差させた。
そして、ゆっくりと要の顔を見る。
「「どこか行きたいところはありますか?」」
声質も抑揚もまったく同じ。その精度はステレオスピーカーだ。
「私は特に……そうだ。薄明様は本を読むのがお好きですよね? せっかく街まで出てきたので、本屋などは」
「それは嬉しいのですが……私に合わせていただいている気がして」
「…………いえ、姉様。ぜひ本屋に行きましょう」
考え込んでいたのか、黎明が少し遅れて答える。
「あら? 黎明ちゃんも本を?」
「本というより……雑誌の類でしょうか。聞き齧った噂ですが、巷には“結婚のハウトゥーだけ"で毎月刊行する素晴らしい雑誌があるらしくて……」
「え!? 本当なの!? 本屋に定期的に行っているのに気づかなかったわ……ぜひ探しましょう!!」
「ええ、姉様……」
二人はまったく同じタイミングで一歩。
(結婚のハウトゥーだと?)
なんだその悪魔の書はと要は内心で冷や汗が止まらない。
「「さあ行きましょう」」
「はあ……要様がいないと街を歩くのも退屈ねぇ……って、うう。まだお腹が……」
そう言いながら文香は腹部をさする。どうやら、まだ調理実習のダメージが抜けていないらしい。
「はあ……今日一日で、いかに私がポンコツなのか痛感しましたわ……淑女失格ですわ……」
レシュリアは魂の抜けたようなため息をつき、頭にきのこでも生えていそうな、どんよりと暗いオーラに包まれていた。
「ちょっとぉ、いつまでもジメジメしないでちょうだい。あなたに淑女の“しゅ”の字がないのは一万年と二千年前からわかってたことでしょ?」
慰めなのか追い討ちなのか微妙な文香の言葉。
今日の調理実習の結果は、さすがのレシュリアでも凹む。
「味噌汁すら作れないなんて……私はクソ雑魚ナメクジですわ……」
「だーかーらー。あなたがクソ雑魚ナメクジなのは元々——って痛い!!」
調子に乗り過ぎた文香の頭に綾のチョップが落ちる。
「お嬢様も人のことを言えませんよ。錬成なさったあの暗黒物質。世が世なら魔女裁判案件です」
「あ、あれは私ですら引きましたわ……ん?」
レシュリアが言葉を止めた。
視線の先には、見覚えのある後ろ姿。
私服だが、見間違えるはずはない……あれは要!!
しかも両隣に可憐な少女を侍らせて——。
「ちょ、ちょっと文香……!!」
レシュリアは焦って文香の肩をバシバシ叩く。プルプルと震える指であれを見てみろと指す。
「なによレシュリア……痛っ……え、え……?」
次の瞬間、二人はアサシンばりの動きで物陰に飛び込んだ。
綾は呆れ顔でその動きを見つめる。
「いや、隠れなくても……」
「早く隠れなさい綾……!!」
強引に腕を引っ張られ、綾も物陰へ。
「入山瀬様……ですよね。では、もう一人は?」
髪型も背丈も完全一致の二人。綾は眉を寄せる。
「クローン!? クローンですの!? 二人同時に倒さないと復活し続けるタイプのクソボスですの!?」
「うるさいわよぉレシュリア……とにかく、後をつけるわよ」
忍者のように腰を低く移動する文香。
レシュリアも続き、綾だけが常識人として普通に歩く。
先の三人はショーウィンドウに立ち止まりつつも、本屋の方向へ歩いていく。
対して追跡組は目的地がわからないため距離を保ちながら後をつける。
「この先にあるのは……本屋一軒、カフェ三軒。そのうち“デートに良さそうな”カフェは一つ……目的地はそこね」
名探偵気取りで文香は顎に手を当てる。
「ものすごくアホな推理ですけれど……妙に説得力がありますわね」
「アホだなんて失礼な。これには高度な裏付けがあるのよ……綾。思い出しなさい。私があなたと出かけるたびにカフェに行っていたことを……」
「……そういえばいつもそうでしたけど……理由なんてあったんですか?」
「それは!! 要様とラブラブデートするためよ!!
ムード満点の窓際、ちょっとセクシーなアクションができちゃう個室……すべては要様を連れ込むため!!」
文香の目はギラギラとしており、肉食獣そのものだった。
「そして私の完璧な推理が告げている!! 三人はこの先にあるオシャレなカフェへ行く!!」
「なるほど……目的地がわかっているなら、私に案がありますわ!!」
レシュリアが何かを閃いた。
「先回りして店員に扮する。そして三人の幸せな時間をぶち壊して最悪のデートに塗り替えてやりますわ!!」
まるで後々ヒロインにこっぴどくやられる悪役令嬢のような短絡的思考。お見合いの妨害をこっぴどく叱責されたのは頭の隅にさて置き。反省の二文字はレシュリアの脳内にはない。
「ヒュー!! やることが噛ませ犬の悪女にして、しょーもない小物! あなたにぴったりじゃない!!」
「それは……褒め……てますのよね?」
「そうと決まれば、時間が勝負よ!!」
文香はスマホを取り出し、どこかに電話をかける。
「ええ。今から言う店を貸し切りなさぁい。客はヤラセでいいわぁ。五分でやりなさい」
電話を切ると、ニヤリ。
「さあ行くわよレシュリア、綾!!
今日を“最悪”の二文字で塗りつぶしてあげるわぁ!」




