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ヲ嬢様と完璧従者の華麗なる日常 〜金と気品とボケと胃痛と〜  作者: 清士朗
第二章 従者のお見合いを妨害せよ

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28 憂鬱な月曜日

 翌日、月曜日のことだ。


「はあああああああ」


 登校後、自分の席に着くなり、陽毬は早々に深いため息をつく。


 理由はもちろん昨日のことだ。


 ぶっちゃけ巻き込まれただけなのだが、まるで当事者のような圧をかけられた陽毬はいまだに胃がチクチクする。


「陽毬さん……大丈夫ですか? お加減でも?」


 そんな陽毬を心配してか、陽子が話しかけてきた。


「ああ、おはようございます。すみません、朝から辛気臭い顔をしてしまって……」


「いえ、そんな。お気になさらないで……何かお悩み事ですか?」


「実は……」と前置いて、陽毬は昨日の出来事を陽子に話した。


「もしかして先ほどの噂は本当かもしれませんわ……」


 一通り話を聞き終えた陽子が、妙に納得したようにうなずく。


「……先ほどの?」


「はい。実は富士様が入山瀬様に付き従って登校していたのを、何人かがお見かけしたらしくて……」


「入山瀬先輩が……? じゃあもしかして要先輩が女子棟に?」


「いえ、それはないと思います。入山瀬様は確か学園から許可を頂いて、風紀委員室にてご自分で学習を進めていらっしゃると伺いましたので」


 雅山学園は進学校ではない。そのため生徒間での学力差が激しい。


 中には「どうせ親の事業を継ぐのだから」と、学校を社交場か何かと勘違いしている生徒もちらほら。


 さすがに授業妨害をするまで落ちぶれてはいないが、そのような生徒も含めた平均点で授業が進むのは、優秀な生徒にとって退屈でしょうがない。


 首席である薄明はなおさら。退屈を通り越して苦痛だった。


 そこで薄明は学園に申し出て、独学で学習を進めている。首席を維持していることもあり、学園もそれを容認している。


「実は私……今日、入山瀬様からランチのお誘いをいただいてまして……」


「え? 陽子さん、入山瀬先輩と交友が?」


「同じ茶道部なんです。入山瀬様はご多忙なのか、なかなか部活には参加なさらないのですが、たまたまお会いした時に話が弾みまして……

 もしよろしければ、富士様の様子を確認してまいりますよ」






 その頃。特別学級の扉を開けた文香は、地蔵のように固まっていた——


 朝、綾を引き連れて登校した文香は、教室に入るなり異変に気づく。


 そう、要の机がなかったのだ。


 ——おや?


 何度も目をこすって確かめる。ない。

 入る教室を間違えたのか。扉上の札を確認する。あっている。


 であるなら、まだ夢でも見ているのか。現実逃避に走った文香は、隣の綾に本気で殴るよう指示を出した。


「喜んで」指をポキポキ鳴らす綾。拳が振りかざされ——その時。


「あらあら〜、朝から何をしているの?」


 ふわりと耳に心地よい声。二人の背後には、相変わらず細目でにこにこの柚木藍。

 ザ・女教師といった格好は、少しだけコスプレ感がある。


「ね、姉さん!? なぜここに……有栖さんは?」


「有栖ちゃんは昨日のショックが抜けなくて……しばらく休職よ。だから今日から私が担任ね」


 えっへん、と胸を張る藍。


「藍姉様!! 大変なんですぅ!! 要様の机が消失ですぅ!! ほら、レシュリアの机はあるのに要様のがありません!!」


 早口でまくしたてる文香。藍はしばし首を傾げ——ぽくぽくちーん、とでも音が鳴りそうな顔で手を打った。


「もしかして、知らなかったの? 要くん、もうレシュリアちゃんの従者じゃないの」


「どういうことよおおおおおお!!」


 文香の絶叫。事情を知っていた綾と藍は、同時に耳をふさぐ。


「レシュリアの従者じゃなくなるなら、当然、次は私の従者に——」


「んなわけないでしょ〜」


 声音は柔らかいまま、言葉だけ鋭く切り返す藍。


 文香はあわあわと頭を抱え、教室を右往左往。第三者が見れば完全に不審者である。


「ところで、レシュリアちゃんは——」


 藍が言いかけた瞬間、教室の扉が勢いよく開いた。


「危なかったですわ!! なんとか間に合いましたの!!」


 ぜいはあと肩で息をするレシュリアが飛び込む。


「あらあら、もう少しで遅刻よ〜。気をつけましょうね」


「藍姉様!? なぜここに……いえ、想像はつきますわ。要の件で、有栖姉様はダウンしたままなのですね……」


「レ、レシュリアぁ!! あなた、要様が従者じゃなくなるってなによ!? ま、まさかあのまま要様は入山瀬の手に……!」


「くっ、その通りですわ……! 妨害を水に流す条件に、要の身柄を引き渡すようにと——入山瀬は畜生ですの!!」


「そんな……なんて蛮族なの……!? お見合いだけじゃ飽き足らず要様まで奪うなんて!!」


「普通に考えたら、お見合いを妨害したほうが畜生で蛮族なのよ〜。はい朝礼するから席に——」


 藍のやわらかなツッコミは、今の二人には届かない。


「要がいないせいで私の戦闘力はガタ落ち。寝坊するわ、準備は整わないわ、遅刻ギリギリでしたわ……!」


「ガタ落ちじゃなくて、レシュリアちゃんの元々が笑っちゃうほど低いのよ〜。いいから席——」


 レシュリアは悔しげに拳を握る。


「しかし!! 要が望みさえすれば、あの恐ろしき入山瀬から救い出せますの!!」


「ほお……それは聞き捨てならないわね……つまり要様が希望したら、私の従者に——」


 ズダン!!


 銃声一発。二人の間を抜けた弾丸が、教室後方の壁に深々とめり込む。


 ギギギ、とブリキ人形のように振り向く二人。


 教壇の上、微笑みはそのままに銃を構える藍。その目は少し開かれていた。


「座りなさい……レシュリア……文香……」


 ドスの効いた声に、二人は即座に着席。姿勢は見惚れるほど完璧だ。


「は〜い。それでは朝礼、始めちゃいますよ〜」






「あの……薄明さま?」


「はい、要くん。なんでしょうか?」


 同時刻。風紀委員室では、薄明が文字どおり要にぴたりとくっついていた。


「なにか御用がございましたら、都度お呼び出しくださいませ。いつ何時でも馳せ参じますので——」


「だから、離れてください——は却下です。片時も離れたくありません」


「しかし、これでは薄明様のご学業の妨げに……」


「高校で習う範囲は終わっています。最近は海外の学者が発表した論文を読むくらいで……あっ! いいこと思いつきました。私が要くんに勉強を教えます!

 夫婦になる前段階ですから、ここでは先輩彼女。ふふ。後輩彼氏に勉強を教えるなんてロマンチック」


 何を妄想しているのか。くねくねと身を揺らす薄明。

 ——いや、そもそも恋人ではない……なんてことを口にすると非常に面倒なことになる。

 昨日の鯖折りのダメージは、まだ回復しきってはいない。


「で、では……お言葉に甘えまして。私はいつもどおり勉学を——」


「はい! まずは……保健体育ですね!!」


 キラキラと目を輝かせる薄明。


「いえ、その……生物基礎を——」


「はい! 受粉ですね!!」


「お願いですから、私の話をお聞きくださいませ!!」


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